とびきり甘いキャンディナイト


「それにしても、久しぶりじゃないか?お前と二人でこうして飯食うの」
「そうだね。あたしもだけど、カカシ兄ってば忙しいし」
「まぁね」


十六夜の報告をし終わって帰ろうとしたら、「たまには飯でも行かないか?」ってカカシ兄が誘ってくれて、久しぶりに二人きりで居酒屋にいる。
カカシ兄はこの後も仕事が残ってるみたいでお酒は飲んでないけど、カカシ兄の言葉に甘えてあたしは少しだけビールを飲むことにした。


「最近どうだ?同期のやつらとは会ってるの?」
「んー、ときたまサクラといのに引っ張られて飲みにも行ってるし、ナルトとも会えば話すし、チョウジと特等席に行ったりもするし。それなりに会ってるよ」
「そっか」
「でも一番会ってるのはシカかな。いろいろ会う機会が多いし」
「…そっか」


店員さんが持ってきてくれた唐揚げをほくほくと頬張りながらそう言えば、カカシ兄はいつになく優しい顔をしてる。…なんか気持ち悪いな。


「気持ち悪いってなに。俺はおまえを心配して、」
「…カカシ兄さ、そうやって人の心読むからモテないんだよ」
「…うるさいよ」


そんなことを言いながら、カカシ兄が火影になってからもこういうしょうもないやりとりができるのは里が平和な証拠だと思う。暗部にいればそんな平和を壊すような火種を見ることも多いけど、私が暗部だからこそ大切な仲間や家族にこういう平和な時間をたとえ少しでも多く過ごしてほしいから頑張れる。闇に落ちずにずっとみんなと笑顔で話せる。まぁ、カカシ兄にもよく頼っちゃってるんだけど。


「ま、正直な話をするとだな」
「うん」


カカシ兄はそう言って、飲んでいたウーロン茶のグラスをことりと置く。いつにも増して真剣な表情をするから、私も口の中の唐揚げをビールで流し込んで、その顔をじっと見た。


「俺が火影になるのと一緒に、おまえを暗部の任から解こうと思ってたんだ」
「!」
「ほら、おまえって危険なときは俺以上に突っ込んでくでしょ。俺でも止めるの大変だったのに、ほかの奴らにそれができるのかなってのは思っててな」
「…うん」
「でも代替わりの時に綱手様に言われたんだ。“ミチルが望む限り、あいつを暗部にいさせてやってくれ”って」
「…」


そうだったんだ。綱手姉がまさかそこまであたしのことを考えてくれてたなんて。


「綱手様に連れられておまえが木ノ葉に来て、やっと自分の場所だと思えたのが暗部だった。そうでしょ?」
「…まぁ」
「そりゃ下忍時代の同期ともちろん仲が良いし楽しいんだろうけど、でも、おまえはどこか一線を引いてる。ちがう?」
「…」
「…宗の里のことも十六夜のことも、おまえが責任を感じる必要はないよ」
「!」


真っすぐ私を見つめるカカシ兄からそっと視線を逸らした。
…やっぱり気づかれてたか、泣いてたこと。


「おまえが自分からすすんであそこにいたんじゃないことも知ってるし、そのせいでおまえがどんなに苦しい思いをしたかも俺はわかってるつもりだよ」
「…」
「だからこそ、やっとミチルがミチルらしくいられる場所を見つけられたんなら、兄である俺がその場所を守んないとな、って思う」
「…ん」
「…でも、俺きっとシスコンってやつなんだな」
「……急にどうしたのさ」


そう自嘲気味に笑ってグラスを手に取ったカカシ兄にそう問えば、一口ウーロン茶を飲んだあと、また自嘲気味に笑いながらグラスを置く。


「…ミチルさ、好きなやつとかいないの?」
「……は?」
「だっておまえももう二十越えてるわけでしょ。そろそろ将来のこととか考えだしたりする年でしょ」
「…まぁ」
「サクラもいのもヒナタも、おまえの周りの子みんな恋人だったり好きな人だったりを見つけてるわけでね」
「…んー」
「特にサクラからサスケとの話なんか聞いてるときにさ、おまえからもし“結婚することにしたから”なんて言われたら俺、相手の男のこと調べ上げてちょーっとでもやなところがあったらそこを徹底的に調べ上げて誠心誠意反対するだろうな、って思ったもん」
「……そんなことしたら縁切るよ」
「…ま、それは冗談として」


そう言ったカカシ兄は私に残りのから揚げをすすめながら、どこか寂しそうな顔でお皿に箸を伸ばした。


「あの小さかったミチルが、やれ恋人だやれ結婚だって話ができるほど大きくなったんだよね」
「…ジジ臭いよカカシ兄」
「うるさいよ。…俺はただ、素直に嬉しいんだよ」
「?」
「最初は綱手様の後ろにひっついて、誰にも心を開かなかったおまえが、ゆっくりと仲間を作っていって、自分で自分の道を切り開いていってさ」
「…」
「それが兄として嬉しくて誇らしい反面、どこか寂しいんだよな、俺」
「…」
「ミチルはどんなに大きくなっても、俺と一緒に暮らしてくんだろうなと思ってたから」
「…カカシ兄」


物憂げに視線を逸らしながらだし巻き卵を口に運んだカカシ兄に、口に入ったから揚げをまたビールで流し込んだ後、ドキドキしながら口を開いた。


「…あ、あのさ、カカシ兄」
「んー?」
「あたしさ、カカシ兄にはその、本当に感謝してる」
「…どうした急に」
「あたしが綱手姉と一緒に木ノ葉に来て、知らないとこで知らない人に囲まれて不安でいっぱいだったときに、カカシ兄が“だいじょうぶ。ミチルちゃんはもう俺たちの家族だよ”って笑って言ってくれて、一緒に暮らすって三代目にも綱手姉にも言ってくれて、あたし本当に嬉しかったんだ」
「…」
「ここにいてもいいんだよって、カカシ兄のあの一言で言ってもらえたような気がしてさ。本当に、すっごく嬉しかった」
「ミチル…」
「だから、カカシ兄」
「…」


そこで言葉を切ってぴしっと背を伸ばせば、カカシ兄もあたしに習って背筋を伸ばした。


「あたしを家族だって言ってくれて、ここまで育ててくれて、本当にありがとうございました」
「…っ」
「残念ながらまだ嫁の貰い手はないけど…。でもカカシ兄は、いつまで経ってもあたしのお兄ちゃんだから、まだ今は甘えさせてください」
「……あぁ。いつでもおいで」


そう言ってにっ、と笑うと、気持ち両目を潤ませたカカシ兄は「年取ると涙腺が緩んじゃってね」なんて笑ってる。
綱手姉に拾ってもらって、カカシ兄に時に厳しくも温かく育ててもらえて、あたしはとても幸せ者だと改めて思った。





BACK | NEXT

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -