この想いよ、届け

「…まさか、そう来るとはねぇ」


<十六夜の首謀者は、宗の里の元研究員>
綱手様から届いた伝書にそう書いてあるのを見て重いため息をついた。

俺自身、これに関してはまったく予想をしてなかった。もしかすりでもしてたならあいつをこの任務につかせるようなことは絶対しないし。誰にでも思い出したくない過去の一つや二つはある。ましてやそれが妹のことなら尚更なわけで。

でも、これで十六夜がこんなに五大国の目をあざむいていたのは納得できる。
宗の里で生まれた実験体はどれも優秀だ。…いや、その実験に呼応できた者は、か。そうでない者はただ死が待っている。身体中をいじくられて、痛く苦しい思いをして、そして死ぬ。

あいつもそんな呼応してしまった側の、元実験体の一人。あいつは運よく宗の里を抜け出したところを綱手様に拾われて木ノ葉にやってきた。だからここでこうして笑ってられるんだけど。

…もし。もし仮に、あいつがあのまま宗の里にいたとしたら…?


「失礼します」
「!」
「カカシさん、今度の中忍試験のことっすけど…ってどうしたんすか?なんか顔暗いっすけど」
「…いや、なんでもないよ。中忍試験のことだっけ」


思いのほか耽っていたようで、きっと意外とまじめなこいつがしたんだろうノックの音も聞こえず入ってきて書類を差し出すシカマルにびくりと肩を揺らした。


「特に急ぎの案件はねぇっすけど、今回の試験はこんな感じでやりますんで。いつもと同じく砂と、今回は雲も合同でしたいっつーことっすけどいいすよね?」
「…あぁ」
「んで、それがうまくいったら次回からは岩と霧も合同でしたいそうっす。なんで今回は風影と雷影に加えて土影と水影も視察に来ますんで宿とか諸々用意頼んます」
「…わかったよ」
「はぁ…。なんか心ここにあらずっすね」
「!」


やってらんねぇよ、と言わんばかりに大きなため息をついたシカマル。


「あんたがそこまで悩むことっつったら、おおかたあいつのことでしょう」
「…」
「…この際、気付いてるあんたには言います。俺はあいつに惚れてます」
「!」
「んでも、無理にあいつに詰め寄る気はねぇっすから安心してください。俺は俺のペースで、あいつに気持ち伝えるんで」
「…」
「そんじゃ、俺はこれで」


そう言って背を向けて扉に向かったシカマルを、気づけば呼び止めていた。


「なんすか」
「…お前は、あいつに暗い過去があるって知っても、それでも好きだと言えるか」
「…はぁ?」
「あいつがその過去をこれからも背負って生きていくとしても、それでも今と同じように好きだと言えるかって聞いてるんだ」
「…」


自分でも思うほどいつになく真剣な声でそう問うと、シカマルはめんどくせぇと言わんばかりにがしがしと頭を掻いて振り返った。


「もしそんなことがあったとしても、あいつはあいつでしょ」
「!」
「俺は今のあいつに惚れたんです。あいつがどんなもん背負ってようが関係ねぇ。あいつが背負いきれなきゃ俺が一緒に背負います。だからそんなこといちいち聞かれなくても、はなから簡単に諦められるような気持ちじゃねぇんすよ」
「…そうか」
「そんだけっすか?じゃあこれで」


ばたん、と扉が閉まった後、項垂れるように火影の椅子に腰を下ろした。
はぁ、自分でもこんなに過保護になるなんてどうかしてると思う。あいつももう大人だ。自分のことは自分で決められるし、何より俺と離れて暮らしてもなんら支障はなさそうに見える。二十才を超えた妹のことでこんなに悩んでるなんて、あいつが知ったらシスコンだなんだってきっとまた呆れるんだろうな…。

だけど、それでも大切な妹には変わりないわけで。
シカマルは言ってくれた。“あいつはあいつだ”と、“あいつが背負いきれないなら一緒に背負う”と。まさかそこまで想ってくれてるとはねぇ。あいつの過去は、きっとシカマルの想像よりもはるかに闇が深い。あいつ自身も未だに夢に出てくるって言ってるほど。でも、シカマルならきっと…。


ゆっくりと立ち上がり、背後にあった大きな窓から里を眺めた。
なにがあってもあいつは木ノ葉の忍だ。誰がなんと言おうとそれは揺るがない。


赤く染まった家々を眺めながら、そんなことを思った。




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