かこのいぶつ

「…また手掛かりなしか」


木ノ葉を出て今日で丸三日。
次に十六夜が手を出すと睨んだ場所に向けて一直線で向ったけど、結果は事後。ここにあったはずの村はもう欠けらぐらいしか残ってなくて、きっと村人で生きてる人もいない。焦げ付くような匂いが辺りに立ち込めてる。一足も二足も遅かった。


「総隊長、これが」
「…またか」


一か所だけぽつりと残された壁にあったのは十六夜の刻印。
月を模したマークなんだけど、いつも手掛かりがこれしか残されてなくて他は一切が綺麗に崩されてて。だからどんな奴らか、何人くらいなのかも想像すらできないから手の施しようがない。


「毎回ご丁寧に残してくれちゃって」
「火影様にはどうご報告を?」
「もうちょっとだけここを入念に調べようか、痕跡が残ってる可能性も捨てきれないし。報告はそのあとでいいよ」
「御意」


すっと消えた小隊長の姿を確認してふう、と息を吐いた。
粗探しとはいえ、ほぼほぼ残ってないんだけどねいつも。そういうのに秀でた班を向わせてもダメなわけだし。とはいえ今日集めた班も、探索班の精鋭たちだからいつもよりは何か出る可能性が高いわけで。

どうすればいいのかわかんなくなってガシガシ頭を掻いていると、「それでも総隊長かい」って聞こえた懐かしい声。


「綱手姉!」
「あんたはいつも威厳がないねぇ。あんな優しい言い方じゃ部下も動かんだろう」
「…部下じゃないもん仲間だもん」
「…そうかい」


突然現れた先代火影に、他の暗部たちは一斉に頭を下げる。「よしとくれよ堅苦しい」と苦笑いの綱手姉は満更でもなさそうなんだけど。


「それで、どうしたの急に。博打巡りしてたんじゃなかったっけ」
「あぁ、それはそれは楽しい日々だった!昨日は短冊街に行ってな!あそこは本当によく…」
「…五代目様、話がそれています」
「…ごほん。実は昨日カカシから伝書が来てな。ミチルが十六夜について調べてるから手を貸してやってくれと」
「!…綱手姉、十六夜のこと知ってんの?」
「まぁな。あたしが火影だったころからうわさ程度の話は聞いていた。だから様々な賭場でいろいろ楽しみつつ情報収集もしていたんだ」
「…なんか自来也のおっさんみたいなことになってんね」
「うるさい」


遊郭や花街が賭場に変わっただけみたいな気もするんだけど。
とジト目で見ると、バツが悪そうに首を掻いてそっぽを向いた綱手姉。いやガキか。


「まぁいい、話を戻そう。十六夜について少しだけだが情報が手に入った、それを伝えるために今日は来たんだ」
「…さすがだよ綱手姉」
「褒めても小遣いはやんないよ」
「いりません情報だけください」


得意げに笑う綱手姉に呆れた目を向けながらため息をつく。
途端に綱手姉は、現役時代を思い出すくらいの引き締めた顔で続けた。


「十六夜の首謀者だが、元は宗の里の者だった」
「!!…宗の、里…」
「…あぁ。お前も知っている通り、宗の里では秘密裏に人体実験が行われていて、そこで奴らはある二つの部隊を作った」
「二つの部隊?」
「まず一つは、殲滅部隊。ターゲットとなる人物や場所を消し去ることのみに秀でた部隊だ。おそらく四人、多くて五人くらいだって話だが、少数精鋭。実験によって感情の一切を消されて無心で建物を破壊し人を殺す」
「…非道すぎる」
「…そして二つ目。こっちは自分たちが探し当てられる証拠や痕跡の一切を消すことのみに秀でた部隊。隠滅部隊、とでも言っておこうか。厄介なのはその人数。精鋭ではないにしろ腕が立つらしくてな。数は五十人ほどだそうだ」
「!…そんなのが五十人もいんの」
「あぁ。その中から何人かが証拠を毎回完璧に消し去っているというわけだ。自分たちが微塵でも割り出せるような証拠の一切をな。故にいくら探索班の精鋭を迎えたところで、きっと成果は得られんだろうな」
「…」
「あたしが今持ってる情報はここまでだ。またわかったらお前とカカシに連絡することにするよ」
「ありがと綱手姉、助かったよ」
「いいってことよ。だがミチル、あまり根を詰めすぎないようにな。休みはきっちり取るんだよ」
「…テマリにもおんなじこと言われたよ」
「あ?砂の姫か。あいつも世話焼きらしいからなァ」
「ま、里に帰ってくるときは連絡してね」
「あぁ、わかった」



「それじゃあな」と振り向きざまに右手を上げた綱手姉を見送った。

…それにしても、まさかあそこが関わってたなんて思いもしなかった。人体実験をしてたことはもちろん知ってるけど、今はもうあそこはない。いつだったかカカシ兄があの里がつぶれてるのを確認したって言ってたからそれは間違いない。まさか残党がいたなんてね…。


「総隊長」
「!…どうしたの」
「その宗の里というのは、一体…?」


…そっか、極秘事項だから、ほとんどの人は知らないんだったっけ。
できれば思い出したくなかったけど、こんなことになったんじゃ仕方ないと、ひとつ息を吐いてつづけた。


「…宗の里は、火の国のはずれにあった、里とは名ばかりの実験場のことだよ。さっき綱手姉が言ってた通り、火の国や木ノ葉の目をかいくぐって、禁止されてた実験をしてたところ。人体を使った、人とは思えないような残虐なものばかりね」
「…」
「もうそこは数年前にカカシ兄…六代目が現役のときに潰されてたって話だから、もう何も残ってないと思ってたんだけどね…」
「そうですか…。それで、六代目様にはどうご報告を?」
「…あたしから直接言うよ。みんなは先に帰ってて、あたしはもう少し調べてから帰る」
「御意」


みんながあたしに一礼して里に向かったのを確認して、近くにあった木を思い切り殴った。
…なんで。なんでこんなに苦しいんだろう。あそこが関わってたってだけであたしは何もしてないのに。なのに、なんでだろう。あたしまで悪いことをしたような気がする。

へしゃげた木が、音を立てて倒れる。
それとほぼ同時に、あたしの頬にも涙が伝った。




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