それはとても幸せなひととき
「ただいま〜!!」
「おかえり〜」


脚絆を脱ぎ捨てる音がしたあとどたどたと走ってきてその勢いのままリビングの扉がガチャリと開く。そこには案の定、泥だらけで疲れた顔しながら満面の笑みを浮かべる旦那がいるわけで。


「ただいま、ナマエ!」
「おかえり、カカシ」
「ただいま〜パパでちゅよ〜……うぐっ」


そのまま三ヶ月の息子を抱き上げてほっぺにちゅーしようとするカカシの口を手で覆って動きを止めさせる。


「抱っこする前に、帰ってきたらすることなかったっけ?」
「…手洗いうがい、そんで風呂もしくは着替え」
「はいよく出来ました〜。いってらっしゃい!」
「はぁ〜い」


「もうちょっと起きて待っててね!」って猛ダッシュで洗面所に向かうカカシに、息子を抱き上げて笑った。


この子がお腹にいるってわかった日、私はAランク任務に出てた。その数日前から体調悪いなとは思ってたんだけど、ただでさえ忍不足なのに休むなんてできないと思って誰にも言わずに任務に出た結果、らしくもなく負傷。傷自体は大したことなかったんだけど、そのときに診てくださってた綱手様に初めて叱られた。


『ナマエ、おまえの腹に子がいる。なぜ私に黙ってた?』
『………え?』


絶句する私を見て黙ってたわけではないとわかってはもらえたけど、それはそれでまた怒られた。体調が悪いなら素直に言え、怪我ですんで良かったものの命に関わるものだったらどうするんだ、って。その綱手様の顔は、子を思う母のような感じがしたんだよなぁ。

一方私は、お腹に子供がいるってわかった途端、とてつもなく恐ろしくなった。命を失うのが前よりも怖くなった。そんな風にびくびくしだした私の耳に飛び込んできたのは、「ナマエ!」という旦那さんの焦ったような声。その声を聞いた途端、すーっと不安が除かれた気がした。


『カカシ…』
『大事なさそうでよかったよ、それで怪我は?どこが痛む?』
『ううん、怪我は大したことないの、大丈夫。あのね、カカシ、』
『うん?』

『私のお腹にいるんだって、赤ちゃん』


そう伝えた時のカカシの顔を、私は一生忘れないだろう。照れたような嬉しいような、驚いたような泣きそうなような、そんないろんな感情が複雑に混じったような表情。ただ、喜んでくれてるんだってことはとても伝わってきて、私まで嬉しくなった。

それから半泣きのカカシの直談判で、私が里外に出ることはなくなって受付やらの事務方に一時的に異動。つわりが酷い時は綱手様の計らいで一ヶ月ほど休みにしてくれて、そこから臨月まで働いて(カカシは反対したけど私が押し通した)、三ヶ月前にこの子が産まれて今は育休真っ最中。

任務先から直行で駆けつけてくれたカカシはぎりぎり立ち会えて、産まれたばかりのこの子を怖々と抱いて泣いてたっけ。俺たちの元に生まれてきてくれてありがとうって息子に、お疲れ様、ありがとうって私に。その瞬間改めて、ああ、この人と結婚できて家族を持てた私は幸せものなんだなって、くたくたながら思ったんだよなぁ。


「お待たせ!もう寝ちゃった?」
「大丈夫、おめめぱっちり開いてるよ」
「うぁー」
「お〜い!おまたせ、パパだよ〜!」


猛ダッシュでお風呂に入ってきたんだろうぽかぽかしたカカシは、首にタオルを巻いたまま息子を抱っこして笑ってる。大好きな人と大切な我が子、私にとってこれ以上にない幸せな瞬間が毎日見られるなんて、私って本当に最強の幸せ者かもしれない。


「んぁ〜いい匂いだ〜〜」
「はは、なにやってんのよ」


息子のお腹に顔を引っつけてすんすん嗅いで、「ミルクの甘い優しい匂いだよ〜いい匂い〜」ってご満悦な表情を浮かべるカカシにくすりと笑った。


「さて、ご飯にしよう。温めてくるから、そのあいだにミルクあげておいてくれる?」
「りょーかい!」


「はーい、ごはんでちゅよー」
そんな風に手際よくミルクを作りながら息子をあやして、でれでれしてるカカシにまた笑いながら私もご飯の準備に取りかかった。





fin.
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -