「は?」


三代目様からの呼び出しで訪れた執務室で耳に飛び込んできたのは、思いもよらぬ言葉だった。


「三代目、何かの冗談ですよね?」
「…冗談でこのようなことを口にするはずがあるまい」
「だ、って、先生が…死んだ、なんて」


がらがらと、自分の中の何かが崩れていくような音がする。
先生が、あの人が、もういないなんて。


「…あれは、サクモ一人に負わせるべきものではなかった。儂が判断を誤った」
「…」
「責めるなら儂にしてくれ。サクモは何も悪うない」


握った拳から血が滴った。
思考は依然止まっていて、自分がどうしているのか、どうしたいのかすらわからない。


「どこへ行くんじゃ、チハル」
「…」
「待て、話を聞け」
「…聞いたら、先生は戻ってくるんですか」


ふらふらと執務室を出ようとした私を止めた三代目にそう問うた。
ここでする問答になんの意味もないことは今の私でも理解できた。だから私は事の次第を確かめに行きたい。それだけが、明確。


「行ってどうする」
「話を聞いて決めます」
「仲間を手にかけるのか」
「必要であればそうします」
「…」
「先生のいない里にいる意味なんてない」
「カカシはどうなる」
「!」


ふと、子供らしくない笑みを浮かべる先生の宝物が脳裏をよぎった。
…そっか。私が木ノ葉を出れば、カカシは、本当に一人ぼっちになってしまう。


「カカシは其方を慕っておる。本当にいいのか、チハルよ」
「…ひどいですよ、三代目。カカシの名を出すなんて」
「そうでもせんと其方を引き止めることができん」
「…」
「サクモの死は、里にとっても儂にとっても辛く苦しいものだ。それ以上に其方の心情を考えると…」
「…」


三代目の悲痛な表情が目に浮かぶ。
里に住う者を家族と、自身を父とそう笑う三代目。火影は里を照らす太陽であるべきとこの方は言う。

けれども三代目。
あなたが里の民を想うように、先生は私を娘のように育ててくれた。可愛がってくれた。愛してくれた。

父を亡くした子の気持ちがわかりますか。
父と慕った人が、その人を失った理由が途轍もなく理不尽だった場合。あなたは、


「…先生は、私の光だった。私の生きる意味だった」
「…」
「光を失った今、私の生きる意味はなんですか?」
「…」
「……なんのために、生きればいいですか?」


きつく目を閉じると、堪えきれない涙が頬を伝った。
食いしばった歯はぎりぎりと鳴く。これ以上は、耐えられない。


「泣かないで、チハルさん」
「!!」


はっと声のした方を向くと、そこにいたのは、私をじっと見据える先生の宝物。


「父さんのために、泣かないで」
「…カカ、シ」
「俺のために生きてよ、チハルさん」
「…っ」


私よりもずっとずっと辛いはずなのに。
私なんかよりも、孤独に打ちひしがれているはずなのに。

カカシは、なんて、


「止められ、ないよ。ごめん、カカシ」





縋ったその体はとても小さく、そして強かった。
fin.



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