なんだか、思い詰めているような気がする。

任務終わり。
夕陽が顔を出し始めた里を歩いていると、前に同僚のチハルの背中が目に入った。

普段は明朗快活な彼女のその背がどこか悩ましげな雰囲気を背負っていて、一瞬ためらった後、いつも通り声をかける。振り返った彼女ははっとして、すぐさま笑顔を作って俺に応えた。


「カカシ、お疲れ。任務終わり?」
「そ。おまえも?」
「うん。さっき帰ってきたところ」
「そっか」


長年こんな仕事をしているからか、人の表情はよく見てきた。作った顔なんてすぐに分かる。


「ね、久しぶりに飲みに行かない?」
「え?」
「ほら、あんまり行ってなかったでしょ、最近。忙しかったから、おまえ」
「まぁ、ね」
「たまには付き合ってよ。奢るからさ」
「奢られるのは嫌だけど。うん、行こうか」


そんな風にくぐった暖簾。
慣れた大将に奥の個室に通され、乾杯で始まった。

一緒に行った任務の話、私生活の話。
何気ない話がどこか心地よく、言葉数が少ないはずの俺がすらすらと話すのはチハルといる時くらいか。そんな風に思いながら、チハルが3杯目に口をつけた時、俺は切り出した。


「何か悩みごとでもあるの?」
「え?」
「いや、なんか雰囲気が違うからさ」
「そう?」
「重いっていうのかな。うん、いつもとは違う」
「そう、なのかな」


「そっかぁ。カカシにはわかっちゃうかぁ」
そう諦めたように笑ったチハルは、グラスを煽り口火を切った。


「この仕事してるとさ、死について考える時あるじゃん」
「…あぁ」
「触れる機会も普通の人よりはあるからさ。死生観とか、死後のこととか、いろいろ考えてたんだ、最近」
「うん」
「でね、今日の任務で隊長だったんだけど、中忍の女の子に怪我させちゃって」
「あぁ」
「命に別状はないし跡も残らないらしいんだけど。傷が結構深くてさ、出血も多くて」
「うん」
「久しぶりにそういう場面に立ち会って、思っちゃったんだよね、ふと」


「死ぬのが怖いって」


そう言ったチハルは視線を伏せ、机上のグラスから流れる滴を見つめた。


「忍失格だよね、本当。上忍なのに情けない」
「…」
「…こんなこと言うべきじゃなかった。ごめん、忘れて」
「…」


普段は溌剌としたチハルの本音に驚いた。
何事も朗らかに笑ってきた彼女だ。きっと心の中では思うこともあっただろうが、決して表には出さず、笑ってきた彼女だ。いつからかわからないほど長くチハルと任務をともにしているが、こんな暗い表情は初めて見た。

故にどう返せばいいのかわからない。
どう返事をすれば、チハルの気持ちが少しでも晴れるのか。


「…本当ごめんね。楽しい席でする話じゃなかった」
「…いや、」
「ごめん!楽しく飲もう!今日は飲むぞー!」
「あの、さ」
「ん?」
「こう、上手く言葉が出てこないんだけど」
「…うん」
「別に、悪いことじゃないよ」
「…」
「俺だって怖くないって言ったら嘘になる。人間だから、そう思うことがあって当然だ」
「…うん」
「…たまにはいいんじゃないかな。弱音を吐いても」
「!」


俺がそう言うと、チハルははたと顔を上げ俺を見据えた。


「チハルは自分で抱えすぎる。たまには誰かに頼ることも覚えないと」
「…ん」
「今のままじゃ、いつかダメになるよ」
「わかった」
「よし、いい子だ」
「えっ、ちょっ、」


そう言いながらわしゃわしゃと頭を撫でるとチハルは戸惑った表情を浮かべた。


「俺に作り笑いなんて百年早いよ」
「やっぱバレてたか〜」
「何年おまえの同僚やってると思ってるの」
「ははは〜」



「ま、そんなとこが好きなんだけどね」






「え?」きょとんとした顔も可愛い。
fin.


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