私が年上であることが、カカシと付き合っていくうえでの最大のコンプレックスだった。
カカシはそんなことは一切気にしない。むしろ自分が年下だからこそ素直に甘えられるんだと言ってくれるしそう行動してくれる。その気持ちも有難いし気遣いも感謝している。そんなカカシが大切だ。

けれども、女にはタイムリミットがある。
年上の私、前途あるカカシ。適齢期を過ぎかけている私は結婚願望がきっと人並み以上に強いと思う。子供だってほしいし、その相手がカカシならそれ以上に幸せなことはないだろう。好きな人とともにいられることは、いつ命が終わってしまうかわからない仕事をしている以上とてつもない幸福だ。

無理強いはしない。匂わせないように徹底もしている。

けれども不意に、カカシはどう思っているのだろうかと感じることがある。
私はもちろんのこと、カカシも良い年だ。周りも所帯を持ち始めていると聞くけれど、カカシはそういったことを連想させるような言葉を言わない。だからこそ不思議に思うのだ。

カカシにとっての結婚観。
そしてその相手は誰なのか。

付き合って三年を過ぎ、カカシの知らないことはその一点と言っても良いくらいだ。



そんなある日の夜更け。
綱手様の号令により盛大に行われている中忍上忍を集めた大宴会。少し早いお花見も兼ねて火影邸からほど近い公園の貫禄すら感じる桜の下でそれは行われていた。

昼からの任務があった私は遅れての参加になり、もうここからは言わずもがなかもしれないが綱手様によって飲まされていた面々は既に潰れている者も多く、意識がある者もほとんど泥酔している状態だった。(その最たる人が我が里長なわけだが)

そんななかでひとつまみと言ってもいいほど正気を保っている風のアスマ、紅の酒豪コンビの近くに座りチビチビと酒を舐めていた。薄桃色が可憐な桜を眺めながら周りのどんちゃん騒ぎを聞くのもたまには悪くないかも。そんなことを思っていたら、不意に声が聞こえた。


「カカシよぉ。おまえ、チハルさんのどこがいいんだ?」
「!」


私達の斜め前、少し酒に頬を染めるカカシに絡みながらそう言った上忍に、私やアスマ、そして紅の空気が止まった。


「は? いきなり何なの、飲みすぎでしょ」
「たしかにあの人は綺麗だよ? 裏表もねえし誰にだって愛される人だ。けどよぉ、おまえならもっといろんな女選べたんじゃねえの? 年だって離れてるし。なんであの人にしたんだ?」
「ったく、おまえねぇ…」
「…」


ぎゅっと、コップを持つ手に力がこもった。
たしかにそうだ。私と付き合う前のカカシは、遊び人ではないけれど女には苦労していなかったはずだ。実際付き合った別れたという話は聞いたことがないが、様々な女が言い寄りカカシがあしらっていたような気がする。

どくんと心臓が波打った。
きっと、この三年ずっと考えないようにしていたことに、ついに気づいてしまったんだ。


カカシには、私以外に似合う人がいることに。


私はカカシを最後の恋人にしようと思っている。もし振られても、誰かを好きになることも、添い遂げたいと思うこともきっとないだろう。けれどもカカシは違う。カカシには前途がある、未来がある。その隣にいるのは私ではない可能性もままあるのだ。私はカカシに対して不満はないけれどカカシにはあるのかもしれない。そう思ってしまうと、情けないことに涙が滲んだ。

そろそろ、潮時なのかもしれない。
カカシを解放してあげる時なのかもしれない。
こんな年上の女といるために、カカシの未来を潰すわけにはいかない。


涙を堪え、重い腰を上げようとしたとき、カカシの深いため息が聞こえた。


「しかたないでしょ、好きになったんだから」
「!」
「お?」
「言っとくけど、告白されたんじゃなくて俺がしたの。俺がチハルに先に惚れたの」
「お、おう」
「クサい事言うけど、恋に年齢は関係ないでしょ。俺がチハルを好きなんだから、それ以上の理由がいる?」
「それは、そうだな…」
「ま、近いうちあいつ、俺の嫁になるってことだけは確かだから」
「!」
「は?」
「じゃ、俺たちはお先に。チハル、帰ろ」
「え? う、ん…」





「俺、本気だから」




いつになく弾む胸を携えながら、手を繋ぐ帰り道。
真っ赤な耳でそう言った恋人と、家族になる日はきっと近い。

fin.


BACK _ NEXT

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -