「私、人妻になります」
「あ、うん。俺の嫁さんね」


こんな風に時々、不思議ちゃんのけがある俺の嫁(改めて自分で言うと照れる)がチハル。数年の交際の後、つまり先日プロポーズしてぼろぼろに泣きながら快諾してもらったのは記憶に新しい。家に帰ってから一人嬉し泣きしたことはいつか生まれる子供にだけ話そうと思う。

そんなすっかり寒くなった本日午後。
手を繋ぎながら歩いている理由は、婚約指輪を買いに行くため。一般的に婚約指輪とは女性のみが身につけ、かつ一生の思い出に残るものなので、いわゆる給料三ヶ月分とはこの指輪のことを指す。らしい。


「奥さん、どんなのにしますか」
「んふふ、奥さんって照れるね。どうしよっかな」
「紅に聞いたらいろんな種類があるらしいよ。ダイヤの大きさとか、プラチナにするかゴールドにするかとか」
「へぇ、そうなんだ。何が何だかさっぱりですな」
「見てみないことにはわかんないよね」
「そだねぇ」


そんなこんなで話しているうちに着いたジュエリーショップ。ショーケースに張り付いて女の子らしくきらきらと瞳を輝かせるチハルを見ていると、こいつと結婚できてよかったなという思いが心の底から溢れてくる。


「どれが気になる?」
「うーん...これも可愛いし、あっ!これも素敵!」
「すみません、これとこれ、見せてもらえますか?」
「かしこまりました」


店員さんに出してもらった指輪が嵌ったチハルの細い指を想像すると、うん、どちらも捨てがたい。


「ちなみに、お値段は如何程ですか...?」


二つの指輪を見比べうっとりした表情から恐る恐ると言った感じにそう問うたチハルに店員さんと顔を見合わせ苦笑すると、伝えられた額にチハルの顔色がサッと消えてまた笑った。


「たっ、高いんだね、コンヤクユビワ...」
「まぁ一生に何度もあるものじゃないからね。それなりにはするでしょ」
「なんか、つけるの緊張しそう...。ちょっと考えてもいいですか? すみません」
「とんでもございません。承知致しました」


そう言って微笑みながら席を外した店員さんを見届けたチハルは、ちょんちょんと俺の服の裾を掴み、蚊の鳴いたような声を出す。


「ね、申し訳ないんだけど、婚約指輪はいいや」
「え、なんでよ。値段のことなら気にしないでいいよ、好きなの選びな」
「ううん、それもないこともないんだけど、」
「ん?」
「もうちょっと控えめなやつで、おそろいのが欲しいんだ。ここの指輪がすごく素敵だから、カカシとおそろいの結婚指輪が欲しい」


そう言ったチハルに額を押さえて天井を仰ぎながら心の中で悶絶した。

こいつの無意識下におけるこういうところは付き合って何年経っても一向に慣れない。いつも上手い具合に不意打ちを突かれる。今日もそう。そこらの女ならなんの気遣いもなく一番高い指輪をせびってくるだろうが、チハルはそうはしない。欲しいものははっきり欲しいと言うし、いらないものもまた然り。こういうところが本当に好きなところだし、彼女もそうだから俺もそうあれる。


「ん、わかった。チハルがいいならそうしよう」
「ありがとう。すみません、ペアの結婚指輪を見せてもらえますか?」
「かしこまりました、こちらです」







買ったばかりの互いの指に嵌ったシルバーリングを、愛おしそうに見つめるチハルが愛おしい、そんな冬のはじまり。


fin.


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