「ちょっと待ってほんとにダメだ」


一人で木ノ葉通りを行ったり来たりしながら頭を抱えている光景はきっと傍から見ると滑稽に違いない。でもそんなことを言ってる場合では本当になくて、なんで事前に下調べしとかなかったんだと準備不足な自分に呆れ果て、同時に落胆もする。

事の発端は、先程までいのといた甘栗甘。いつもの如く私より五歳ほど若いいののおませな止まらないお喋りを団子を食べ微笑みながら聞いていると、「あ、そうだ」と言う言葉に続いての爆弾発言。


『そういえば今日、シカマルの誕生日ですよね』


なん…だと……?
その言葉が耳に届いてつるつるの脳みそで噛み砕くまでに三秒ほどの時間を要するくらいに私は驚いた。

よりにもよって、恋人の誕生日を知らないなんて。
そりゃ確かに付き合い始めてまだ時間は浅いし、いや浅いどころかまだ一ヶ月くらいだし、知らなくても無理はないと自分を慰めてはいるけれど。

とはいえ、付き合って最初の誕生日だからこそできることはたくさんあるのに。最近ようやく素を見せ始めてくれたあの少年に何か出来ることはないか考えていたのに。よりにもよって当日。しかも時刻は既に夕暮れ。今いる木ノ葉通りの商店達はどんどんと店じまいを始めていて、本当に言葉のまま時間の猶予は全くなかった。

突然青ざめたり慌てたりする私を見たいのは瞬時に全てを理解し、「まだ付き合ったばかりなんだし、来年からでいいんじゃないですか?」とフォローはしてくれたけれど。そんなことで私が納得しないのをいのは十二分に知ってくれているのでそうだと提案してくれた。


『プレゼントがダメなら何か作ったらどうですか?ご飯とか!』
料理がからきしなのでそれはできません。
『とりあえず会いに行っておめでとうだけ言うとか!』
どの面下げて会えばいいのかわかりません。


とまぁこんな感じでいのの提案を尽く取り下げてしまった私である。
八方塞がりとはまさにこのことで、考えて考えて出た手は尽く自分の力量のなさで却下されていき、そんなうちにも唯一の手立てとも言えるお店達はシャッターを下ろしていく。

とうとう頭を抱えて蹲り出した私に「おい」と今一番聞きたくなかった声が届いた。頭を上げる勇気は、もちろんない。


「何してんすかこんな所で」
「ちょっと、瞑想を」
「へぇ、こんな大勢の人が行き交うところでねぇ」
「大人にはね、いろいろあるんだよ少年」
「俺には全くわかんないんで、とりあえず顔見せてもらえますかね」
「……却下」
「は?……っおい!」


奴の隙を見て顔を見ないように体の影に隠して瞬身の印を結んで逃げた。文字通り逃げ出した。

その先に着いた場所は奇しくも奴のお気に入りの昼寝スポットで。こんな時まで奴色に染まってしまっている自分が嬉しいような悲しいような複雑な心持ちになりながらどかりとベンチに腰を下ろし、デジャブのように頭を抱えた。


なんでこう、大人の余裕をもてないんだろうなぁ、私は。五歳も年上で、階級だって私の方が上なのに。奴がまだ経験してないことを、私はもう経験してるのに。大人な、はずなのに。

奴といるとどうもペースが崩される。余裕を見せて、リードして、人生の先輩として私が前を歩いて道を示さなきゃいけないのに。いつも私が追いかけてばっかり。好きになるのは私の方が絶対早かったのに、告白してくれたのは奴の方。デートのお誘いも全部奴、ついでに支払いも全部奴。私の方が稼いでるのに、「女に奢らすのはめんどくせェ」とか言って財布すら出させてくれない。

年下なのに年上みたいで、年上なのに年下みたいで。
すごく支離滅裂な関係なんだけど、それでも奴が好きだから厄介なんだ。好きだから離れられないし、好きだから大切にしたい。だからこそ誕生日も大切にしたかったのに。……私のバカ。


「もう逃がさねェぞ、バカ」
「っな!?」


急に声が聞こえてハッと顔を上げれば、そのまま指ひとつ動けない。影真似の術。奴が使ってる秘伝忍術。


「なんで人の顔も見ずにサッと逃げるんすか」
「…」
「…だんまりかよ、めんどくせェ」
「…ごめん」
「あ?」


絞り出した震える声に、奴もといシカマルは訝しげに眉を寄せた。若干の怒気のこもった声と気配に、ゆるりと視線を地面に伏せる。


「…知らなかったの、今日が誕生日って」
「!」
「だから、何も用意してなくて、だから、会わせる顔がなくて」
「…」
「なのにあんたってば、ずかずか追っかけてくるし、挙句術までかけるし」
「…」
「……どんな顔すればいいかわかんないっつの」


「でもやっぱ、ごめん」
背中を向けたままそう言えば、向こうでシカマルがそういうことかと深く深くため息をついた。次いで「こっち向け」と言われた時にはもう術はかかってなくて、でも視線は下げたまま、体だけシカマルへ向く。


「いいっすよ、別に誕生日なんて」
「……でも、」
「これで充分」
「!」


そう言った時には、シカマルのおでこが私の肩に乗っていて、やっぱり深く深く、息をした。


「別になにもしなくてもいいんすよ」
「…」
「あんたがいりゃ、そんでいい」
「……っ」


今度は、逞しい腕で私の体を包み込んだ。
いつもならそのままなすがままだけど、今日くらいは甘えさせてやろう。




おめでとう、大好きだよ
fin


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