「コウターカナメー、父さん起こしてきてくれる?」
「うん!カナメ、いこう!」
「…うん」


なんだか寝足りないような気がしながらまだうとうとしていたら聞こえてきたそんな声。
キッチンの方からはユヅキが料理をする音と、ぱたぱたと息子たちがこっちに向かってくる音がする。なんか、俺めちゃくちゃ幸せだ。


「とうさん!おきて!」
「んー、まだ寝かせて…」
「…おきて、とうさん」
「もうちょっと寝ようよ…」


ベッドで寝たフリをする俺を「あ、とうさんねちゃだめー!」「…おきて」と言いながら揺するコウタとカナメに少しだけ笑ってしまう。寝るのはもう諦めてがばっと起き上がってまとめて抱きしめれば、きゃーってはしゃぐコウタと嬉しそうに笑うカナメにつられてまた笑った。


「おはよう」
「おはようとうさん!」
「…おはよう」


そのまま二人を抱き上げて、「きょうはなすのおみそしるだって!」「お、いいねぇ」「…とうさん、すき?」「うん、大好きだよ」そんな話をしながらいい匂いの漂うリビングに入るとこちらを振り向いたのは俺の奥さん。


「あ、おはようカカシ」
「おはよう」
「ごめん、ちょっと手抜きなんだけど」
「いいよ、ユヅキもそんな身体なんだし」
「ごめんね、その代わり夕飯は頑張るから!」


忙しい俺の代わりに家事も育児も頑張ってくれてるユヅキのお腹には新しい命が宿っている。予定日までもうすぐなのでもうお腹もとても大きい。いろいろある妊娠の症状で毎日しんどいはずなのに弱音一つ吐かずに頑張ってくれてる。本当にこいつと結婚できてよかったなぁ。


「さ、もうすぐできるから顔洗ってきて!コウタ、カナメ、母さんのお手伝いしてくれる?」
「うん!」
「…うん」


ぱたぱたとユヅキのところへ走って行って、コウタは味噌汁の入った碗を、カナメはお茶の入ったコップを握り締めて真剣な顔で運んでいるのを見てユヅキと顔を見合わせて笑った。










「ユヅキー、あといるものないー?」
「…んーと、あとは…」
「…かあさん、おとうふ」
「あ、そうだお豆腐だ!ありがとうカナメ、助かったよ」
「…うん」
「かしこいなぁカナメ。えらいぞ」


昼飯も食べ終わった後、買い出しに出た商店街。
いるものを書いたメモを睨んでたユヅキより先に答えたカナメの頭をがしがし撫でてやった。うちの子はもしかしたら天才なのかもしれない、いやきっとそうだ。


「お?カカシか」
「ん?」
「ユヅキじゃないの!」
「紅!」


後ろから声をかけられて振り返ったら、そこにいたのはアスマと紅。


「あらら、お二人さんお熱いことで」
「…昼間っから子連れで茶化すんじゃねぇよ」
「ほら二人とも、こんにちわは?」
「こんにちわ!」
「……こんにちわ」


ユヅキと手を繋いでるコウタは元気いっぱいに二人に挨拶するけど、若干人見知りのカナメは繋いでる俺の手をぎゅっと握りしめておずおずと言った。


「二人とも大きくなったわねぇ。コウタくんいくつになったの?」
「さんさい!」
「そうなのね。カナメくんは?」
「……にさい」
「そっかぁ。上手に言えてえらいわね」


優しく微笑んだ紅に頭を撫でてもらって嬉しそうに笑う二人。
そして紅の視線は大きくなったユヅキのお腹にも向くわけで。


「もうすぐ予定日だっけ?」
「うん。あと二週間ぐらいかな」
「もうすぐじゃない!楽しみね。生まれたら抱かせてね」
「もちろん!」
「カカシ、お前今日は非番か?」
「そ。明日から予定日までもう休みないから、今のうちに重いもの買っておこうと思ってな」
「ほぉ。ちゃんと父親と旦那してんだなお前」
「…失礼な」


カラカラと笑う二人と少しだけ話し用を済ませると、ユヅキの身体に障る前に家に帰った。









帰っていろいろ済ませている間に、子供たちは昼寝をしていた。
すやすやと寝息を立てるその顔は、もうなんだか天使にしか見えなくて気づけば二人共のまんまるなほっぺをつついている俺がいて。


「こらカカシ、起きちゃうでしょ」
「だいじょーぶでしょ。ぐっすりだもん」


そんな二人の近くに座ってユヅキは洗濯物を畳んでいる。俺がするって言ったんだけど、「このくらいやります!」って押し切られちゃった。


「ほら見て、毎日見てるのにこの小ささに慣れなくてさぁ」
「あーわかるよ。なんかおもちゃみたいだよね」
「可愛すぎていろいろ着せたくなっちゃうんだよ」
「それじゃあまるで着せ替え人形じゃないの」
「はは、そうかも」


二人のそばに俺も寝ころびながら、せっせと洗濯物を畳むユヅキをじっと見る。


「…な、なんでしょうか」
「いいや。なんにも」
「そ、うですか」
「ただ俺、幸せだなぁと思って」
「ん?」


突然何を言い出すんだ、って顔に書いてあるユヅキにくすっと笑うと、「笑うな」って畳む前のタオルを投げられた。


「だってさ、朝は子供たちが起こしに来てくれて、起きたら奥さんが作ってくれた温かい飯があって。一緒に遊んだ後に買い物に行って、こうしてのんびり過ごせてさ。なんか俺、本当にすんごい幸せ者だなぁと思って」
「…まぁ、そうかもしれないね」
「そんでもうすぐ、また、家族が増える」


そう言ってユヅキのお腹に手を伸ばせば、二人分の命の温かさがある。


生まれてすぐに母親も少しして親父も亡くなって、俺にとって家族っていうものは縁遠いものだと思ってた。親の愚痴を言う同年代に嫉妬したこともあった。いるだけいいだろ、俺は一人なんだって、とてもひねくれたガキだったと思う。

でも、ユヅキのおかげで、俺は俺の家族を持てた。
可愛い二人の息子と、もうすぐ生まれてくる息子か娘。そして、俺がただ一人、一生一緒にいたいと思った奥さん。

そんな大切すぎる人に囲まれて、俺は毎日任務に赴く。こういう仕事をしてたら“死”ってものが身近にあるけど、その局面に立つたびに、「家族を残して死ねない」そんな思いが強く残って俺は生き延びることができている。


「…全部、ユヅキのおかげだよ」
「カカシ…」
「おまえが俺の家族になってくれたから、俺は今こうしてすっごく幸せに生きられてる。本当に、俺と結婚してくれてありがと」
「…こちらこそ」



なにがなんでも家族を守る。
それが俺の、命の源。






かぞくというもの

fin.


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