「ただいま〜」


溜まりに溜まった雑務のうちの粗方を整理して、やっと自宅の扉を開けたのは日付が変わって二時間ほど経った頃。
最近はめっきり寒くなってきて、かじかむ指先を息で温めながら鍵を閉めて脚絆を脱ぎ未だ明かりの灯るリビングへと足を踏み入れた。

いつも夜中に帰ってくる俺のために灯りやストーブはつけたままにしてくれてるから、今日も俺の冷えた体を温めてくれる。


「…ん?」


でもいつもと違うのは、寝室で眠っているはずの奥さんが、リビングのソファで寝ていたこと。
ストーブがついているとはいえすっかり寒いこの季節のこの時間。きっと俺を待ってくれてる間に寝ちゃったんだろうけど、風邪ひいちゃうよ。

三人の元気な子供たちを、忙しい俺に変わってほとんど一人で世話してくれてるユヅキ。それに加え文句のつけ所もなく家のことも完璧にこなしてくれてて、かつ医療忍者として自分の仕事もしている。
多忙を極めると言われる火影の俺なんかより、きっとユヅキの方が日々忙しいだろう。俺と同じで休みなんかないから、最後に時間も気にせずゆっくり寝たのはいつだろう。

今度ユヅキに休みをやらないとね。
そんなことを思いながらソファの空いたところに腰かけ、さらさらとしたその髪を久しぶりに撫でた。


「…ん、カカシ?」
「ただいま。こんなところで寝たら風邪ひくよ」
「あー寝ちゃったのかぁ。さっきまで起きてたんだけどなぁ」
「可愛い寝顔見れたから俺としては有難いけどね」
「…相変わらずさらっとそういうこと言うよね」


結婚して長く経って、子供も三人いるというのに、俺の言葉に昔と変わらず頬を染めるユヅキに俺は一体何度惚れ直せばいいんだろう。

とはいえ、自分も疲れてるっていうのに遅くまで起きて俺の帰りを待っていてくれて嬉しい反面、倒れられるのも応えるから俺としてはせめて子供たちが寝た夜くらいゆっくり休んでほしい。きっと俺がそう言っても意外と頑固だから、「待ちたいから待ってるの」って譲らないんだろうなぁ。


「…にやついてるよ。鏡見ておいで」
「…俺の表情わかるのおまえくらいだよ」
「そりゃ、もう長いことカカシの奥さんやってるからね〜」


「よし、ご飯作るね」と立ち上がった腕を掴んでソファにどかりと再び腰掛けたユヅキを横から抱きしめた。久しぶりの匂い、体温に、溜まった疲れがゆっくりと消えていくのがわかる。


「…どしたの、甘えたさんだね」
「…ねぇ、今日なんの日か知ってる?」
「え?」


俺の言葉を聞いてカレンダーに目を向けたユヅキは、なるほど、と言いたげな表情を浮かべて俺の頭をふわりと撫でた。今日の日付は、十一月二十二日。


「いい夫婦の日、ってことね」
「ん」


「相変わらずふわふわしてるね」
そんな風に言いながら笑って俺の頭を撫でてくれるユヅキの優しい手に目を閉じた。

いくつになっても、結婚してどれだけ経っても、俺はずっと、ユヅキが好きだ。



夜と朝のあいだの透明


fin.



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