「ナルトお兄ちゃん!」
「んぁ?」


任務が終わって一楽寄って帰るか、なんて凝った背中を伸ばしてたら後ろから聞こえたのは、久しぶりに感じる元気な俺を呼ぶ声。
誰かわかりながらも振り向けば、思った通りカカシ先生の娘のユリナがいた。


「ユリナじゃねぇか、久しぶりだなァ!」
「うん!ナルトお兄ちゃん、元気だった?」
「おうよ!俺ってばいつだって元気だからな、ユリナもどうだ?元気だったか?」
「私も元気だよ、ナルトお兄ちゃんと一緒!」
「はは、そっかそっかー」


そう言ってニカッと笑うユリナの顔はユヅキの姉ちゃんにそっくりだってばよ。

そういや昔、こんなことがあったな。
あの日はたしか――


*  *  *


「ねぇねぇ、カカシ先生?」
「んー?」


Cランクの護衛任務が終わって、俺たち第七班は里に戻る途中だった。
今日の任務は結婚式の護衛で、主役の二人は本当に幸せそうで見てるこっちにまで幸せが伝わってきてにこにこしちまうくらいだったんだってばよ。

そんな帰り道、ふと前を進むカカシ先生にサクラちゃんが声をかけた。


「カカシ先生は、彼女とかいないの?」


振り返ったカカシ先生は突然のサクラちゃんの質問にびっくりした感じだったけど、すぐにまたいつものやる気のねぇ顔に戻って、オジサンらしく顎に手を添えて「んー」とうなった。


「…彼女はいない、かな」
「へーそうなんだ!先生って口布とったら絶対イケメンなはずなのに、それでも彼女がいないってやっぱり性格がダメダメなんですね!」


サクラちゃんの笑顔で言ったドストレートな言葉にカカシ先生の肩がガクっと下がった。いくらニブい俺でも今のはちっときついってわかるってばよサクラちゃん…。その横でサスケはフン、と鼻で笑った。


「でもまぁたしかに。未成年の生徒の前で平気で18禁小説読んでにやにやしてる先生を好きな人なんているわけないわよねェ」


しれっとバカにしたように放たれたサクラちゃんの追い打ちに、カカシ先生の足がついに止まって「…俺っていったい…」って空を見上げた。…どんまいだってばよ、カカシ先生。


「…あのねぇ、サクラ。いくらなんでもそれはちと言いすぎじゃない?」
「だってそうじゃないですか!」


火のついちまったサクラちゃんの止まらない口撃にたじたじのカカシ先生。
こうなったサクラちゃんは誰にも止めらんねぇし無理に止めようとすると俺にまでとばっちりが来るから、ここは黙っとくのが一番だってばよ。そんな俺に対してサスケは我関せずって感じですたすた先に行ってやがる。ったく、クール気取ってムカつく奴だってばよ。


「…まぁ、好き勝手言ってくれるのは構わないけどね。一応言っとくと、俺に彼女がいないってのは、結婚してるからだから」


そんな言葉が耳に届いた瞬間、俺たち三人は固まった。
カカシ先生のそんな爆弾発言からどれくらいかわかんねぇけど鳥の声しか聞こえなかった後、顔をひくつかせたサクラちゃんがやっと声を出した。


「…ま、またまたぁ。カカシ先生、冗談きついですよ?」
「冗談っておまえねぇ…。ま、信じる信じないはおまえたちの勝手にしてくれ」


そんなこんなでいつの間にか門の前について、カカシ先生はいつも通り「俺は報告書だすからこれにてドロン」って煙と一緒に消える。
残された俺たち三人は、自然と顔を突き合わせてた。


「あのさ、あのさ、…カカシ先生が結婚してるってホントなの?」
「私が知るわけないでしょ、さっき初めて聞いたんだから!サスケくんは何か知らない?」
「フン…俺は別に興味ない」


つれないサスケはともかく、「そうだよねぇ」とため息をつくサクラちゃんを見て俺の興味はどんどん膨れ上がった。


「じゃあさ、じゃあさ!ホントかどうかわかんねぇなら明日調べるってばよ!明日ってば任務入ってなかったよな!?」
「え?…うん、たしかそうだった気がするけど」
「よっしゃ!んなら里中のいろんな人に聞きまくって情報集めるってばよ!二人とも、明日は朝一番にアカデミー前に集合な!そんじゃ!」

「ちょ、ナルト!?」
「っおいナルト、俺は興味ないって…!」


こういうときは言い逃げが一番だってばよ。なんだかんだサスケも来るってわかってっからな、俺ってば!
明日が楽しみで仕方ない俺は、にしし、と笑って屋根伝いに家に帰った。






次の日の朝。
約束の時間にアカデミーの前に行くと、やっぱりサクラちゃんとサスケが来てて俺はいつも通りしゅたっと地面に降りた。


「おっはよーってば!サークラちゃんっ!」
「おはようじゃないわよバカナルト!サスケくんはともかく、なんで休みの日にまであんたの顔見なきゃならないのよ!」
「まぁまぁそう言わずにさ!この任務は俺たち第七班にしかできねぇ任務だろ!」
「…もう」
「んなことよりサスケェ…おまえも興味ねぇって言ってたくせにちゃーんと来てんじゃねぇか。ちっとは素直になれってばよ!」
「っうるさい、ほっとけ!このウスラトンカチ!」
「んだとぉ!?」
「ちょっと!サスケくんにガンたれてんじゃないわよバカナルト!!」
「ぶへっ」


…いつも通りサクラちゃんの拳骨を甘んじて受けた俺はたんこぶを引きずったまま、二人と一緒に商店街に情報収集に来た。


「おっす!テウチのおっちゃん!」
「おーナルトじゃねぇか。いつものか?」


まずは行き慣れた一楽から聞くために暖簾をくぐると、おっちゃんがいつも通りの笑顔で俺を出迎えてくれる。


「いんや、今日は違うんだってばよ。ちょっちおっちゃんに聞きたいことがあってさ」
「聞きたいこと?」
「あのさ、あのさ!おっちゃん、カカシ先生が結婚してるって本当か知ってる?」
「え?カカシ先生がか?」
「おうよ!なんか先生が昨日そんなこと言っててさ」
「…んー、そうさなぁ」


俺が身を乗り出して聞くと、おっちゃんは顎に手を添えて考えた。


「…俺は聞いたことねぇな。悪いな」
「そっか、わかったってばよ。あんがとな、おっちゃん!」
「力になれなくて悪いな。またいつでも来いよ!」
「おう!またくるってばよ!」


そのあとも、甘栗甘、カカシ先生が通ういかがわしいピンク色の本屋さん、薬局、最後はアカデミーにまで聞きに行っても、誰一人カカシ先生が結婚してるなんて知らなかった。


「…やっぱりさ、カカシ先生が結婚してるなんてウソだってばよ」
「…たしかにね。ここまで聞いて回って誰も知らないんじゃ、そうとしか考えられないわよね」
「…フン」


せっかくの休みの日に一日聞いて回って、結局何も情報は得られず。三人並んで商店街を歩きながら、そろそろ解散にすっか、なんて考えてたら、突然俺の足に何かが突っ込んできた。


「ってぇな!何すんだってばよ!!」


突っ込まれた衝撃で思いっきり尻餅をついた俺は、当たってきた何かに声を荒げた。


「……ご、ごめんなさい、」


蚊が飛んだみてぇな小さい声にその方を見ると、四才くらいの銀色の髪の男の子が目にいっぱいの涙を溜めていた。


「こんのバカナルト!!こんな小さい子泣かしてどうすんのよ!」
「いでェ!!…ご、ごめんってばよ!だから泣くな、な?」
「ううっ……」


サクラちゃんから今日二回目の拳骨を食らいながらその子の頭を撫でてやると、どうにか涙が引っ込んでいって俺とサクラちゃんはホッと息を吐いた。
サクラちゃんはその子と同じ目線になるようにかがんで、頭を撫でながら優しい声で話す。


「迷子になっちゃったのかな?お父さんとお母さんはどこ?」
「…とうさんと、かあさんは…」
「おーい、コウター」


後ろから聞こえたそんな男の人の声に、男の子はパッと振り向いて「とうさん!」と声のした方に走っていく。


「こーら。勝手に先に行っちゃダメだっていつも言ってるでしょ」
「…ごめんなさい」
「君たち、息子が世話になったね、ありがとね……って、あ」


その声の主に、俺たち三人はぴたりと固まった。


「……ええぇぇぇっ!!??」
「か、か、カカシ先生ー!?!?」


サクラちゃんと俺の叫び声に、近くを歩いていた人たちは一斉に俺たちを見た。
目の前にいるカカシ先生は茶色い髪の赤ちゃんを抱っこ紐で寝かせていて、その右手にはコウタって呼ばれてたさっきの男の子の手が繋がれてる。

俺もサクラちゃんもサスケも、その光景を見て目を見開いて絶句した。


「とうさん、このおにいちゃんたち、しってるの?」
「い、いや、知ってるっていうか…」
「カカシー?」
「!」


カカシ先生がなんて言おうか悩んでいると、先生の隣にコウタって子より小さい銀色の髪の男の子の手を引いた綺麗な女の人が来た。


「コウタみつかったんだ、よかった」
「あ、あぁ…」
「ん?どうしたの?…って、あ!もしかして、あなたたちがカカシの生徒さん?」


「いつもうちのカカシがお世話になっています」って丁寧に頭を下げる女の人。
礼儀正しいサクラちゃんは「とんでもないです!」ってとっさに頭を下げ返してたけど、まだ状況を理解しきれていない俺とサスケはただただ口を開けて突っ立ってた。


「…あれ、どうしちゃったんだろ」
「…ま、いろいろ手間が省けるしいっか。おまえら、紹介しとくね。俺の奥さんのユヅキ」
「こんにちわ」
「そんで、長男のコウタに次男のカナメ、そんでここに寝てるのが末っ子のユリナ。ほらコウタ、カナメ、あいさつは?」
「こんにちわ!」
「…こん、にちわ」


カカシ先生がひとりひとり指さしながら説明してくれて、やっと状況が飲み込めだした俺たちに、カカシ先生が呆れたように息を吐いてこう言った。


「これでわかっただろ、俺が本当に結婚してるって」
「「「……はい」」」


俺たち三人は、そろってがくっと項垂れた。






あんときカカシ先生の抱っこ紐の中で寝てたユリナが、もうこんなにおっきくなってんだもんなぁ。そういやこないだ、「ユリナが中忍になった」ってカカシ先生ってば嬉しそうに言ってたっけ。


「ユリナ、いくつになった?」
「わたし?十四才だよ」
「そっかそっかぁ…もう十四か…」


あんときの俺の年もうユリナがこしてんだもんなぁ。そりゃ俺も年取るはずだってばよ。
そんな年寄りみたいなことを考えてたら、「おーい、ユリナー」って、昔聞いたみたいな声が聞こえてくる。


「あ、コウタ兄!」
「探したよユリナ。ナルトさん、こんにちわ」
「おうコウタ、ひさしぶりだな」
「お久しぶりです、お元気そうで何よりです」
「おまえもな!」
「あ、そうだユリナ、母さんが呼んでたよ。病院の人手が足りないから手伝ってくれって」
「え、本当?わかった、すぐ行く!じゃあね、ナルトお兄ちゃん!」
「おう、気ぃつけてな二人とも!」
「ありがとう!」
「失礼します」


俺が手を上げるとユリナはにかっと笑って走ってくユリナを、ぺこっと頭を下げてから追いかけるコウタ。

今はまだカカシ先生に頼っちまってるけど、少しでも早く代替わりして、カカシ先生に家族の時間をゆっくりとってもらって、今度は俺があいつらを守りてぇ。

どんどん小さくなってく背中を見つめながら、そんなことを思って笑った。



むかしのはなしをひとつ


fin.


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