「っおいカナメ避けろ!!」
「!!」



いつの間にか目の前に迫っていた敵忍が、にたりと笑う。
俺の腹には少しの違和感。そいつが離れたとき、なんだか嫌な音が聞こえた気がした。



「「カナメ!!」」
「…っ」



ゆっくりと腹を見ると、そこには忍服に入った少しの切れ目と全体に広がっていく赤。
どうやら俺は、敵忍が持ってるクナイで腹を刺されたらしい。



「この野郎…!!」
「よくもカナメを!!」



スリーマンセルを組んでる同期の二人が、敵忍にかかっていくのが見える。
どこか遠目にそれを感じながら、俺はゆっくりと倒れて意識を失った。




*  *  *




「…い、おい。しっかりしろ、カナメ」
「……とう、さん…?」



優しくゆすられる感覚で目が覚めた。
まだぼやける視界に映るのは、どこか少し老けたような父さんの姿で。



「…ここは?」
「ここはまだ君が来るには早いところだよ。それに私は君のお父さんではない」
「…え?」



徐々に意識が覚醒してゆっくりと上体を起こせば、一面に広がるのはただの白。
…そっか、俺、任務中に油断して敵に腹を刺されて死んだんだ。ここはきっと、あの世との境目の場所。でもなんで、こんなところに父さんにそっくりな人がいるんだ…?



「こんなときに言うことではないかもしれないが…会えてうれしいよ、カナメ」
「!…なんで、俺の名前…」
「…あぁ、そうか。君たちは私のことを知らないんだったな」



父さんよりも少し髪が長いこの人は、困ったように頬を掻いた。



「初めまして、カナメ。私は君の祖父、はたけサクモだ」
「!!…おじい、ちゃん…?」



俺がそう言うと、俺のおじいちゃんらしい人は照れたように笑った。



「君たちのことはずっと影ながら見守っていたんだが、まさかこんなに早く会うことになるとは思っていなかったよ」
「…」
「カナメ。君が先ほど思った通り、ここはあの世と君たちが住む世界の境目にある場所だ。私も訳あって、今だけここに来ている」
「…そう、なんだ」
「だが君が私のいる場所へ来るにはまだ早い。だから早くあっちへ戻れるようにしてやろう」
「……待って、」



生まれて初めて会えたおじいちゃんに、いろいろ聞きたいことがあった。なんで俺が生まれたときにはもういなかったのとか、おじいちゃんは父さんのことをどう思ってるのとか。

そのはずなのに、いざその機会を手に入れてみれば不思議と言葉が出てこない。
言葉に詰まる俺に優しく笑って頭を撫でてくれるおじいちゃんの姿に、父さんの姿が重なった。



「君はこれからもっと強くなれる。お父さんとお母さん、お兄さんと妹を、家族を大切にしなさい」
「…っ」
「あっちに戻ったらカカシに伝えてくれるか、――」
「!」



おじいちゃん、待って。
どんどん意識が遠くなっていく中で手を伸ばした先には、父さんと同じ、優しい笑顔を浮かべるおじいちゃんがいた。




*  *  *




「……ん、」
「! カナメ兄!」
「カナメ、よかった…」



ゆっくりと重い瞼を開けると、俺をのぞき込んでいるのはユリナとコウタ兄。二人の後ろにはさっきとは違う白が広がっていて、鼻につくのは消毒薬の匂い。



「…そっか、病院」
「マンセルを組んでた子たちが運んできてくれたんだ。その子たちの処置と行動が早くて、運よく急所も外れてたからすぐ目が覚めたみたいだよ」
「…あいつらは?」
「カナメが倒れたあとすぐに敵を一掃して里に飛び帰って来たんだ。落ち着いたらちゃんとお礼を言うんだよ」
「…うん」



ずきずきと痛む腹を押さえながら身体を起こすと、がらがら、と扉が開いて入ってきたのは両親。



「カナメ、目が覚めたんだね。傷はどう、痛む?」
「…少しだけ」
「無事で安心したよ」
「……あのね、父さん」
「どうした?」



安心したような顔から変わって不思議そうに俺を見る父さんに、ゆっくりと言葉を紡いだ。



「…さっき、おじいちゃんに会ったんだ」
「!」
「…それで、おじいちゃんが父さんに伝えてくれって言ってたことがあって、」
「…なんて、言ってた?」



珍しく声を震わせた父さんは、やっぱり珍しく少し涙ぐんでいて。



「…可愛い孫たちを見せてくれて、ありがとうって」
「!」



俺がそう言うと、父さんは目頭を押さえて俯いた。
「そうか、父さん喜んでくれてたんだ」と肩を震わせる父さんの背中を、母さんは優しく撫でていた。



「カナメ兄、おじいちゃんってどんな人だった?」
「…どんな人って言われても、」
「何か言ってたことはないの?」



そう矢継ぎ早に聞いてくるユリナをコウタ兄がなだめてくれる。

でも俺は、おじいちゃんに言われたことを思い出して口布の下で口元が緩むのがわかる。



「で、で?おじいちゃんになんて言われたの!」
「…」



未だ肩を震わせてる父さんと、その背中を摩り続ける母さん。苦笑いのコウタ兄と興味津々が顔に出てるユリナを見回して、やっと笑った。





まどろみのさきに


(…家族を大切にしろ、ってさ)

fin.



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