Chapter.12,13 1/2
ゆらゆらと船に揺られる。
今度は狭い牢の中ではなく、広い空の見える甲板の上でだ。
グルグ船を無事奪取した私達は、クォークの案でこのままグルグ艦隊を追跡することになった。ここで手柄を立てたいという、彼らの気持ちは分からなくもない。
まさかアルまで一緒に連れて行くとは思わなかったけれど、確かに彼女の魔法は心強い。ちょっと羨ましいと思うくらい。
私はエルザ達のように、前で敵を引き付け続けられないし、ユーリス達のように強力な魔法も使えない。
せめて足を引っ張らないように、自分の身を守るくらいしかできないのが、少しもどかしい。
そんな風に考えていると、色々と思い出して凹んでしまう。
昔のこと…お母さんのこと、兄弟のこと、お師匠のこと、お世話になった村の人達のこと。
皆私を守って死んでいった。私が弱かったから、守ってもらってばかりだった。
今回だって、マナミアもユーリスも、私がもっとしっかりしていれば捕まらなかったかもしれない。たまたま殺されずにすんだというだけで、もしかしたら最悪の事態だって…
頭を振って嫌な想像を振り払う。
それでももしもと考える思考を止めるべく、船首の方へ行ってみることにした。
あそこなら風が全部吹きとましてくれるかもしれない。安直だけれど。ここでぼーっとしているよりはマシだろう。
「あれ、アル…?」
強い風の吹きつけるそこには先客がいた。
誰もいないと思っていたのでちょっと吃驚したけど、1人でいるよりいいかもしれない。嬉しい誤算だった。
「エマ…。」
「ここ、風強いね。大丈夫?」
「うん、平気。ありがとう。」
「…アルまで付いて行くなんて、びっくりしちゃった。でも、あまりいい物は見れないと思うよ?」
「ごめんね。迷惑だったかな?」
「あ、迷惑じゃないよ。むしろ心強いくらい。」
アルの魔法は強力だもん、と笑うと彼女も優しく微笑んでくれた。
貴族のご令嬢はちょっとした動きが一々様になるなぁ…。育ちの良さが滲み出ている。
「家に帰りたくないからって、わがまま言ってしまって…でも、ありがとう。少しの間だけど、よろしくね。」
「うん。…そんなにエルザと離れたくなかったの?」
「…えっ!?」
「顔に出てるよー?ア・ル・さん?」
ニヤニヤとアルを下から覗くように見上げると、彼女は真っ赤になって顔を抑えていた。
「そ、そういうわけじゃ…!」
「ふふふ、隠さなくってもいいよ?」
「も、もう!……でも、でもね、エルザといるとなんていうか…生きているって気がするの。」
「…生きている、か。ちょっと分かるかも。」
私も今まで何かに追われる様に1人で旅をしていたけれど、彼らと過ごしたこの数日は、大変だったけど生き生きとしていた気がする。
「エマはいつから傭兵団に?」
「んー、アルに会う前の日からかな。」
「そうなの?それにしては随分馴染んでるみたいだけど。」
「まぁ、早く環境に慣れるようにならないと1人で旅なんてしてられないからね…。」
「そっか…。」
その後も2人でなんでもない話を2、3していると、背後の扉からエルザが顔を出した。
アルとのおしゃべりはここまでかな。
「アル、こんなところにいたんだ。それにエマも。」
「…エルザ、私はついでなの?」
思いっきり寂しそうな顔をしてやると、エルザは慌てて「いやっそういうわけじゃ…!」と弁解をしようとしている。
面白いなぁ…。
そういえばエルザはセイレン達にもよくいじられている。そういうキャラか。
「まぁ、邪魔者は退散するとしますか。アルもあんまり風に当たってると風邪引いちゃうよ。」
早めに船内に戻りなよ、と手を振ってさっさとその場を離れた。
まったく、あの2人の急接近ぶりときたら…吊橋効果というやつかな?