Chapter.09,10 1/3
グルグ族の船はルリ島東側の崖に着岸した。
空からも続々とグルグ族が乗り込み、ルリ城内はあっという間に混乱の渦に巻き込まれた。
全く予想もしなかった襲撃に、騎士達も対応しきれずにいる。
若い騎士にいたっては、逃げることしかできないようだった。
何よりこの戦いを混沌とさせているのは、相手がリザードや魔物ではないということ。
対人の戦争には、彼らは慣れていないのだ。
このルリ島は、平和すぎた。
「ユーリス、マナミア、一旦引こう!私が道を開くから、援護をお願い!」
そう叫び、太刀を構え直す。
私達は城の東側にいたことが災いして、最前線で戦う羽目になっていた。
空から乗り込んだグルグ族と、海から上がってきた奴らに挟み撃ちにされてしまう。
この分では味方の増援も期待できないだろう。
なんとか南の方へ抜け、味方に合流したい。
立ち塞がるグルグ族を切り捨てる。
種族が違うとはいえ、同じ人を切るのはあまりいい気分ではない。
後方では、ユーリスとマナミアがなんとか魔法でグルグ族の行く手を阻んでくれている。
まだ距離があるとはいえ、急がないと囲まれてしまう。
「エマ!後ろ!」
ユーリスの声に反応し、間一髪で飛んできた矢を避ける。
これはまずい…。
矢を使う奴がいるとなると、迂闊に魔法が打てなくなる。
前方のグルグ族へ一息に飛び込み切り捨て、逃げ道を作る。
「ユーリス!マナミア!」
2人を呼び、走る。
城門前の広場まで行ければ、そこから城内に入りセイレン達に合流できるはずだ。
「きゃあーっ」
「マナミア!?」
前方からやってきたグルグ族と応戦していると、遥か後方でマナミアの叫び声が聞こえた。
逃げている間に随分と離れてしまったらしい。
助けに戻らないと…!
「エマ、ダメだ!戻ったら僕達まで捕まるよ!」
「で、でも…っ」
「行くよ!」
ユーリスに無理やり引っ張られ、その場から離れる。
今は無事を祈ることしか出来ない。
なんでこんなことになったのだろう。
グルグ族は何が目的でルリ島に…?
ここ数日の急激な展開に頭がついていかない。
正直、精神的な疲労がかなり溜まっている。
これでマナミアにもしものことがあったら……と、そこまで考えて思考を止める。
止めよう。今はまだ、考える時じゃない。考えちゃいけない。
一人でいるわけじゃないのだ。まだ守らないといけない人が近くにいるのだ。
頭を切り替える。武器を構え直す。
対峙するグルグ族にも守るべきものはあるだろうけれど。
私はもう誰も失いたくはない。