Chapter.07,08 1/4
酒場に戻ると、早速薬をワックくんに届けた。
まだ飲んだばかりだというのに、少しだけ顔色がよくなっている気がする。
きっともう大丈夫。
アリエルもワックくんも本当に嬉しそうだ。
早く良くなるといいな。
アリエル達の部屋を後にし、自分の部屋へ戻るとサイドボードの荷物に目が留まる。
「あ、そうだ…。」
ユーリスにお土産を渡さないと。
まだ起きてるかな?
お土産の袋を片手に、男部屋へと向かった。
コンコンと扉を叩く。返事はない。
少しだけ扉を開け、小声で声を掛ける。
「ユーリス、まだ起きてる…?」
「エマ?何か用?」
「あ、起きてた。入ってもいいかな?」
「…どうぞ。」
了解を得て、中に入る。
ユーリスはベッドに腰掛け、本を読んでいたようだ。
昼間にも読んでいた本だ。何の本だろう?
「そういえば、どこかの蔵に忍び込んだんだって?お疲れ様。」
「あ、うん、盗賊の蔵にちょっとね。」
「ふぅん。ご苦労様。…それで、何の用なの?」
「あ、あのね、これ…。」
昼間のお礼に、と言いながら持っていた袋を渡す。
渡す、というよりは押し付けた、の方が正しいような、無理やりな渡し方をしてやった。
「何これ…。お礼なんていらないよ。」
と、押し返されるが、受け取ってはやらない。
「何って髪飾りだよ。露店で売ってたの。ユーリスの目の色にそっくりなんだよ。」
「聞いてないよ。別にいらないから、持って帰って。」
「使わなくてもいいよ。気持ちだから、受け取ってくれればそれでいいの!」
「だからっ……はぁ、分かったよ。もらっておくよ。」
案外すぐ折れてくれた。
もうちょっと長期戦を覚悟していたのだけど…。
受け取って貰えたのだからいいか。
「その代わりひとつ質問に答えてもらえる?」
なるほど、訳ありだった。
しかしまぁそのくらいならお安い御用だ。
「…何?答えられるものなら、何でも聞いて。」
「エマの使った魔法、あんなの見たことも聞いたこともないよ。エマは一体何者なの?」
「………えっと。」
いきなり核心を突く質問に、言葉を失ってしまう。
彼は魔法の方が気になっているようだったが、何者かと聞かれると答えに困る。
「…やっぱり返して、とか、ダメ?」
「ダメに決まってるだろ。あの魔法は一体誰に教わったの?」
そういえば昔、同じ事を言われたことがあった。
その魔法は一体なんなのだ、と。
あの時は自分でも分かっていなかった。分からないから、答えられなかった。
けれど今なら分かる。
星呼びの魔女の血が、私にあの魔法を許しているのだ。
小さな星を召喚する魔法――
でもそれを言うわけにはいかない。
まだ知られたくはない。
「その質問は答えにくい、かな。…私にも分からないもの。魔法はお母さんに教わったけど、見よう見まねで覚えたようなものだから…。」
ごめんね、これくらいしか答えられない、とユーリスを見やる。
彼は何か考えていたようだが、一つため息をついた。
「…わかった。」
納得はしていないが、理解はしてくれたようだった。
ほっとする。あまり突っ込んで聞かれると、少し話してしまいかねなかった。
自分でも驚くことに、この1日の間で私はこの傭兵団の人達に心を許しつつあった。
だから向こうから距離を取ってくれたことに安心する。
「ありがと、ユーリス。」
ついお礼を言うと、彼は何が?と眉間に皺を寄せた。
「んー、色々、かな。」
「…あっそ。他に用がないなら、そろそろ戻って休んだら?明日は朝一で任務の説明をするってクォークが言ってたよ。」
「そうなんだ。じゃあもう寝ようかな。…また明日ね。」
おやすみなさい、と言って立ち上がる。
部屋を出る直前、小さく"おやすみ"という声が聞こえた。