Chapter.14 2/7
エルザを先頭に進んでいると、私の前を歩いていたユーリスが急にフラついた。
あっと思った時には、彼はくずおれ倒れてしまっていた。
やっぱり無理してたんだ…!
「ユーリス!」
「はぁ……さっきの……」
「しゃべらなくていい。」
「敵の……毒が……」
マダラヤシガニの毒は猛毒だ。放っておくと死に至るほど…。
「と、とにかく、壁際で休んで…。」
「ここなら、毒消しがあるかもしれない…。エマ、ユーリスを頼む。」
「う、うん。」
「待ってろ、毒消しを探してくる。すぐに戻る。」
エルザはユーリスが落としたダガーを彼に渡すと、毒消しを探しに走っていった。
マナミアがいてくれたら…、と思うがいないものは仕方がない。
「大丈夫?ユーリス?」
「……これが…大丈夫に、見える?」
まったく見えないけれど。
彼の額に流れる汗を拭う。
苦しそうに不規則な呼吸をする彼を、見ているだけしかできない自分が不甲斐ない。
「……くっ……っ」
「ユーリス…!?」
ずるり、とユーリスが崩れる。
もう力が残っていないのだろう、か細い呼吸すらも辛そうだった。
辛うじて意識を保っていられるのは、彼の精神力の強さの現れでしかない。
「しっかり、して…!」
どうしよう。思った以上に毒の進行が早い…。
このままでは、手遅れになる。
小さく震えるユーリスを支えるが、他にどうしようもなかった。
不安だけが募っていく。
なんで?なんでいつも目の前で…。
もう、大事な人が死ぬのは見たくないのに。
もうたくさんだよ…。
なんで私はいつもいつも、何も出来ずにただいるだけなの!?
「エマ、お待たせ!ユーリスは!?」
「え、えるざぁ……。」
涙が零れる寸でのところで、エルザが戻ってきた。手にはきちんと毒消しが握られている。
これで治せる…!
エルザは急いで毒消しを飲ませるが、そんな余力もないほどに弱っているユーリスは薬を飲み込むことができなかった。
「ユーリス…!しっかりしろ!」
「貸して、エルザ!」
半ば強引にエルザの手から毒消しを奪い取り、そのまま薬を口に含みユーリスの頭を持ちあげ上を向かせて口付けた。
こぼれない様に少しづつ流し込む。
彼が喉を鳴らすのを確認して口を離すと、軽い眩暈がした。
大丈夫だよね…?
早く目を開けて、声を聞かせてよ…。
しばらくすると、ユーリスの呼吸が落ち着き顔色も良くなってきた。
少しの身じろぎとうめき声と共に、閉じていた彼の目が開く。
「ユーリス!大丈夫か?」
「…借りができたね。そのうち必ず返すよ。」
あぁ…第一声がこれか…。
いつもの、ユーリスだ。
今まで堪えていた涙が、耐え切れずに溢れてきた。
「ゆ、ゆーりす…っ!」
「……っ!エマ!?」
病み上がりなのは分かっているけれど、思わず抱きついた。
温かい。生きている。心臓の音が聞こえる。
良かった…。本当に。
「…悪かったね。心配かけて。」
「本当よ!ばかユーリス!もう二度と心配させないでよ!もう、もう……いなくなったり、しないで……っ。」
子供のように泣きじゃくる私の背中を、ユーリスは優しく叩いてくれた。
盛大なため息もついていたけれど。
仕返しとばかりに思いっきり締め上げたけれど、彼はびくともしなかった。