Chapter.02 2/3
あの魔物は一体なんだったのだろう…。
遺跡のあの巨大な魔物でさえ、エルザの異邦の力に引き寄せられていたというのに。
立ち上がり、魔物が去った方をぼーっと眺めていたが、視線を感じて振り返ったらセイレンがすぐ隣でニヤニヤと楽しそうに笑っていた。
「んーふふふ、エマちゃーん?
やーっぱり、あたし好みの美少女じゃぁんー!!」
「……きゃっ!?」
セイレンは笑ったまま私に飛び掛ってきた。
さっき魔物に襲われた時にフードは取れてしまったようだ。
自分で取るのも恥ずかしかったので、ちょっとだけあの虎に感謝する。
しかし飛び掛ったり飛び掛られたり、今日はなんだか変な一日だ…。
セイレンに絡まれながら他の人達を見やると、クォークは街道の方へ逃げていた人達に声をかけていた。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はい、ありがとうございました。騎士様。」
「騎士様?」
騎士様、という言葉にセイレンが反応する。
…その間も私へ引っ付くのを止めてはいない。
「いえ、我々はアルガナン伯爵に雇われた傭兵です。」
「傭兵!?そ、それは失礼いたしました。先を急ぎますので、これで!」
傭兵が恐れられているのは、この平和なルリ島でも変わらないらしい。
助けてもらったのに、失礼な人だ・・・などと暢気に思っていたが、エルザの少し悲しそうな顔を見て私まで悲しくなってしまった。
この人達は、今までどんな仕打ちを受けてきたのだろう…。
少し気になったけれど、それよりもっと気になることがあるので頭の片隅に追いやった。
アルガナン伯爵に、雇われた?
「クォーク…。アルガナン伯爵に雇われたって、本当?」
「ん?あぁ、本当だ。だからなかなかでかい仕事も多くてな、人手が欲しかったんだ。」
「そう、なんだ…。」
「まぁ、なんだ。ユーリスもこれで構わないんだろう?」
「…別に。嫌だと言っても僕は少数派みたいだし。」
「おーおー、可愛くねぇの。」
ごめんなぁ、エマ。あいつ無愛想でムカツクだろー?というセイレンに、苦笑を返す。
アルガナン伯爵への道まで開けたのだ。
今は少年の無愛想を気にしてる場合じゃない。
第三者に操られているような気さえするこの展開に薄気味悪さを覚えたが、せっかくのチャンスを有効に使うことにしよう。
私はなんとしても、星送りの秘術を行わなければならないのだ。
魔女の血を引く、最後の一人として。
母さんの、一族の、想いを全て背負っているのだから。