力比べ

「ユーリス、腕相撲しよう!」
「いきなり何…。」

サルマンドルから帰って一声。ユーリスは案の定、困惑したような、訝しむような顔で振り向いた。
さっきの戦いで、敵の術に操られたユーリスと短い接近戦があったわけだけども、若干のパワー負けを感じた私はその辺を確かめたかったのだった。
操られている間の記憶のない彼にしてみれば意味不明な発言だろうけど。

「まぁ気にしないで。はい。」

ユーリスの向かいに座って、肘をついて手を差し出した。
…なかなか手を取ってくれない。

「二人とも…何してるんだ?」
「あ、エルザ。ユーリスに腕相撲を挑んでるんだけど、相手してくれないの。」

エルザが来たのを皮切りに、皆も何だ何だと集まってきた。

「ユーリス、腕相撲くらいやってあげなよ。」
「お前、まさか負けんのが怖いってか?」
「おいユーリス。これはチャンスだぞ。合法的にエマちゃんの手を握るチャンスだ!」
「しかしエマ、なんで急に腕相撲なんだ?」
何かだいぶ収集つかなくなってきた。
ここはちゃんと白状するしかないか…。

「さっきサルマンドルでユーリスに襲われた時にね、」
「なっ!お前ついに…!? 」
「敵の術で操られただけだよ!」
「…それで、その時に押し負けそうになったのが何か悔しくて。私一応前衛なんだよ? ユーリスに負けてられないよ。」

魔法は間違いなく負けてるのに、パワーでまで負けたら私いらない子だし…。そうでなくても危なっかしいと思われてるし…。
ついでに言うと、後に体力面もがっつり負けていることが判明するわけだけど。

「なるほどね。…まぁ、いいよ。」

と、さっき渋ったのは何だったのかというくらいあっさりと手を握られた。
急すぎて私の方がドキッとしちゃった…。平常心平常心…。

「手は抜かないでよ?」
「おっ。やるか?じゃ、ユーリス対エマちゃんの―――」
「ジャッカル!どさくさに紛れてエマの手ばっか握ってんじゃねーよ!」
「いてっ!」

いきなりレフェリーを買って出たジャッカルに、セイレンのチョップが見事に決まった。
まぁ、仕方ないよね。本当に私の手しか握ってなかったし。

「あー…気を取り直して…。」

と、今度こそ普通にレフェリー役をやってくれた。

「レディー―――ファイッ!」

ジャッカルの手が離れたと同時に腕に力を込める。


………ぜ、全っ然動かない…!


こっそりユーリスの方を伺うと、まぁ手は抜いてなさそうだった。
しかしこれは……互角もいいところだ。
勝てなきゃ意味がないけど…!

周りでは皆がエマに賭けるだのじゃあユーリスに賭けるだの…って何賭け事にしてるの!?
と思ってはいてもツッコミを入れるほど余裕もない。

ギリギリと力が拮抗する。

「埒があかないな…。」
「そうだね…。」

持久戦に持ち込まれるとなんとなく不利な気がする…さっきの戦いのことを思うと。
一か八か……。
少しだけ力を抜いて、勢いをつけて押し込んだ。

「………っあ、も、だめ…。」
「……じゃ、僕の勝ちだね。」

私の浅はかな策とも言えない最後の勝負は、ユーリスの手をテーブルに叩きつけることなく、力を使い果たした私の方がテーブルと仲良しになった。

「……負け、た……。」

そのままテーブルに突っ伏した。腕がぷるぷるする。

「ま、まぁいい勝負だったんじゃねーの?気にすんなよエマ。」

セイレン、いい勝負じゃダメなんだけど。

「あぁ…私、全然ダメだ…。やっぱり役立たずなんだ…。」
「そんなことないですわ。エマさんは誰にも負けないものを持ってますもの!」
「マナミア…そんなのどこにも持ってないよ。」
「あら、エマさんは誰よりも可愛いですもの!」
「………。」

それ、戦闘に関係ある?
私だけじゃなく皆固まっていた。
そもそもマナミアとセイレンの方が全然可愛い。

「マナミアはおいといてだな…」
「ひどいですわ、クォークさん。」
「…お前は役立たずなんかじゃあないぞ。前衛として通用する身のこなしと判断力、それにお前の魔法も使いどころは難しいが他にはない力がある。エマはパワーアタッカーじゃないんだ、力で負けたからと言って落ち込むことはないさ。」
「クォーク……。」

なんというフォロー。感動しちゃった。さすがクォーク…!なんか元気出てきた!

「自分の戦い方をすればいいんだ。頼りにしてるよ。」
「〜〜ありがとうっ」

テーブルから頭を上げて笑顔を向けた私の頭を、いつもの大きな手でぽんぽんと撫でてくれた。
クォークってなんでこう、温かいんだろう。
腕相撲には負けたけど、何だか色々頑張れそうだ。

「クォーク…。」
「なんだ?」
「お父さんって呼んでいい?」
「ダメだ!」

即答だった。
まぁさすがに父親というほど歳も離れていない。




「ところでだ…」

と、やけにニヤニヤ顔のジャッカルが割り込んできた。
また何かセクハラでもするつもりだろうか。そんなにセイレンの気を引きたいのかな?

「お前ら、いつまで手ぇ握ってんだ?」
「………あっ、ご、ごめ…!」

別にユーリスのことを忘れてたわけじゃないよ!本当に!
慌てて手を離してユーリスを窺ったら、ユーリスに絡んでいったジャッカルを睨んでいた。
気にもされてないような…。一人で慌てて恥ずかしい…!
今のはエマさんは悪くないですわ、というマナミアのフォローを聞きながら、結局燃やされたジャッカルとそれをからかうセイレンを何とも言えない気持ちで眺めた。






この時手を離さなかったのはユーリスの方だったなんて、ちょっと考えれば分かることに私が気付くことは最後までなかった。



(だって勝ったのは彼の方)


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