水も滴る?

「あれ?」

アリエルの酒場のお風呂から上がって(いいお湯でした)、1階のカウンターを覗くと珍しいことにジャッカルとユーリスがカウンターに並んでいた。
まぁ間違いなく、先にいたユーリスにジャッカルが絡んだのだろうけど。

「珍しいね、二人でいるなんて」
「おう、エマか……って……」
「な……っ」
「え?…何?」

二人とも同じ表情でじぃっとこっちを見たまま固まった。
一瞬の間。
ゴンッと鈍い音を立てて、ユーリスがカウンターに頭を打ち付けた。

「ちょ、ちょっと大丈夫?」
「あらエマ、上がったの。いつもの?」
「うん、アリエル。いつものお願い。」

アリエルに注文して視線を戻すと、ジャッカルは普段通りの様子でユーリスの肩を叩いていた。

「ユーリス、どうしたの?私なんかしたっけ?」
「そりゃあお前…男の事情ってやぐっ!?」

突っ伏したままのユーリスが、無言でジャッカルの鳩尾に肘を打ち込んだらしい。

「ありゃ…ジャッカル大丈夫?」
「お、おう……」

突っ伏すユーリスの隣に座って、注文の品を待っているとすぐにアリエルが戻ってきた。その手には薄茶色の液体が入ったグラスがある。

「はい、おまたせエマ」
「ありがと」
「ん?何だそりゃ?」
「コーヒー牛乳だよ」

「…カフェオレか?」というジャッカルに、似てるけどそんなおしゃれなものでもないと曖昧に笑う。といってもあんまり違いは分からない。牛乳が多いだけというか…。

「お風呂上りにはこれを飲まないとダメなんだって」
「誰がそんなことを言ったんだ…」
「師匠にね。干からびたくなかったら一気飲みしろって」
「…信じてんのか?」
「なわけない」

さすがにそこまで馬鹿じゃない。でもなんか習慣になって、飲めるならコーヒー牛乳を飲んでしまう。一気飲みはしないけど。
会話を切って一口飲む。冷たくて絶妙なブレンドのコーヒー牛乳は、火照った体に染み渡って気持ちがいい。

「ぷはぁ」
「セイレンじゃねぇんだから…」
「セイレンの飲みっぷりは見てて気持ちがいいよね」
「俺は気持ち悪くなると思うが」
「そっか」

笑いながら他愛もない会話を続けているけれど、正直間で倒れてる人が気になってしょうがない。
声をかけるべきなのか、放っておくべきなのか、理由が分からないので踏み切らない。

迷っていると、丁度当のユーリスがゆっくり起き上がった。

「ユーリス大丈夫?どうかしたの?」
「ちょっと酔っただけ」

言って、ふうと一つ息を吐いた。
ユーリスが飲んでいたグラスには透明の液体が入っている。あれお酒だったんだ。
ジャッカルはニヤニヤしながら「酔ったんだよなぁ、大丈夫かぁ?」なんて言っている。

「エマ」
「うん?」
「あっち向いて座って」

と、ユーリスは酒場の入り口の方を指差した。
訝しく思いながらも、とりあえず素直に従って向きを変える。
座りなおしてすぐ、肩にかけていたタオルを取られ、そのまま頭に乗せてガシガシ拭かれた。

「ちゃんと乾かさないと風邪引くよ」
「あ…うん。ありがとう」

荒っぽいけど優しい手つきがくすぐったくて、そのままされるがままに大人しく座った。

「あとさ…その、そんな格好してたら湯冷めするだろ。っていうか君女の子だよね?もうちょっと危機感持ちなよ。ここどこか分かってる?いくら平和なルリ島っていっても傭兵が出入りするような酒場なんだよ。そりゃ君が簡単にやられるとは思わないけど…ってエマ武器持ってないじゃないか。呆れた……いくらなんでもそれはないだろ。もうちょっとさぁ、ちゃんと自覚、持ってよね!」
「っ!?は、はい!?」

まさかのマシンガントークに本気で吃驚した。
後ろでジャッカルの笑い声が聞こえる。見えないけど、絶対腹を抱えて笑っている。
なんというか、ぶっちゃけるとよく分からなかったんだけど…。
毛先を弄び始めたユーリスを、首だけで少し振り返る。

「…えっと、何の自覚?」
「………もういい」

はぁーとあからさまなため息を吐いて、ユーリスは手元に視線を落としてしまった。
うーん。確かに今は武器を持ってないけど、荷物と一緒に上に置いてきただけだしなぁ。あ、格好?確かに薄着だけど…別に普通だよね。
考えていると、ばさりと乱暴にタオルが頭に乗せられた。

「終わり」
「ありがと」
「帰るよ」
「あ、うん?」

なんだか私も帰るようなニュアンスだ、と思っていたら、「さっさと着替えてきなよ!」と追い払われた。
まだコーヒー牛乳残ってるのに…!
それを言うと、「早くしてよ!」といつもより数段鋭く睨まれた。
目が3秒以内に動かなかったらメテオ、と言っている。気がする。

コーヒー牛乳の残りを一気に飲み干し、自分でも吃驚する速度で踵を返し2階へ駆けた。





途中、「お前も初々しいなぁ」という笑いを含んだジャッカルの声と、「うるさい」とかいうご機嫌斜めなユーリスの声が聞こえた。



合わせてimageに夢主絵をあげております。よろしければ。

[back]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -