こたつ

「珍しいものが手に入ったから後で部屋に来て」


そうユーリスに伝えて部屋で準備をする。
せっせと用意を済ませて、自分としても楽しみにしていたその場所へ座ると一気に気が抜けた。
数分後には呼び出したユーリスが部屋の扉を叩いたけれど、出迎えはせずに声だけで応えるほどには動きたくない気分だった。

「あー、ユーリスいらっしゃーい」

部屋に入ったユーリスは、この部屋の情景に足を止めた。
それも当然だろう。
部屋の中央に見慣れないローテーブルが設置され、カーペットに薄手のクッションを置いた上に直接座るという図は、この国では異様に映るはずだ。

「……なにこれ?」
「これはねー、東の方の国で冬に使う道具で、"コタツ"っていうんだよー」
「へぇ……」
「ユーリスも入りなよ!あったかいよ!あ、靴は脱いでね」

ぽんぽんと笑顔でカーペットを叩き、今だ扉の前で突っ立っているユーリスを呼ぶ。
数秒、悩むように止まったままだったユーリスは、好奇心に負けたのか私が進めた座布団へ腰を下ろした。


「うわ…なにこれ、あったかい…」
「でしょーって、こら!布団を捲らない!」

こたつの布団を持ち上げようとしたユーリスの手をぺしっと叩き落す。
案の定睨まれたけど怯まない。
開けたら一気に寒くなるし、何より中でだらけている足を見られたくはない。

「あ、お茶いれてくるね」

正直こたつから出たくなかったけど、客人が来て何も出さないというのも失礼だろう。
さっき準備だけしておいた緑茶をささっと淹れて、素早く元の場所へ戻った。


「なにこれ……」

本日三度目の"なにこれ"。
ユーリスは訝しげに薄黄緑色の液体の入った、取っ手のない茶色い筒状のコップを眺めて…いやもはや睨んでいる。

「緑茶だよ。せっかくのこたつだし、お茶も向こうの取り寄せたんだー」
「ふうん……」

訝しがりながらもユーリスは緑茶に口をつける。
じっと見ていると眉間のシワが一層深くなって、予想通りの反応に吹き出した。

「……不味くはないけど美味しくもない……」
「あはは…!慣れたらこの渋みも美味しくなるよ」
「そんなもんかなぁ……」

ユーリスを横目にごろりとコタツに入ったまま寝転がった。
あぁもう、動けない。
隣のユーリスも私にならってカーペットに横になった。
お互いの足をコタツの中で絡めながら、だらだらと熱を奪い合う。


「……そういえば言い忘れていたんだけど」
「ん、なに?」
「コタツにはね、魔力が込められてるのよ」
「へぇ……魔導具みたいなもの?」
「いや、どちらかというと呪い近いかなぁ」

ユーリスは魔法関係の話にはやけに興味を示す。でも今はそういう話ではなく、"呪い"という言葉に訝しげに顔を向けてきた。
私もユーリスに合わせてできる限り真面目な顔で返し、言葉を続けることにした。

「コタツにはね……一度こうして転がると、出られなくなる呪いがかかっているのよ」
「…………なんだ、そんなこと。でも分からなくもないね……」
「でしょー。もうダメだー」
「ほらアニス、意思をしっかり持って……」

そうはいいつつ、ユーリスだって起き上がる気はないようで動かない。どころかモゾモゾとさらに潜り込んでいる気がする。
まぁいいか。
コタツに転がっていると、色々どうでもよくなる。


しばらくだらだらごろりと転がっていると、ユーリスがゴソゴソとコタツに文字通り潜り込み見えなくなった。
かと思えばすぐに私の隣から頭が出てきて、気が付けばしっかりと腰をホールドされている。

「ちょっと、何してるのかね?ユーリス君」
「ん……寒いから」
「嘘だ。コタツ暖かいもん」
「足だけね」

確かに布団の掛からない肩とか冷えてしまうけれど、それはそれこれはこれ。そんなのは言い訳だ。
……とは思うものの、反論するのも面倒な気分だった。

「アニス、ちょっと寝よう……」
「このまま?」
「うん。他に用もないでしょ」
「ないけど……風邪引くよ?」
「大丈夫……アニスあったかい……」

何とか引き剥がそうかと思ったけれど、すでに瞼を落として擦り寄ってくるユーリスにまぁいいかと私も目を閉じた。
今は何もしたくない。
そう思うのはたぶんコタツの温もりのせいだけじゃない。


「おやすみ、ユーリス」


後のことは後で考えよう。
今はこのまま、幸せを感じながら寝るのが最善の選択だと思った。




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