先生の秘密

奥の倉庫から火の手が上がる。
とりあえずと張っておいた障壁はいつの間にか壊されて、攻め込むグルグにフルオープン、大歓迎。おいでませルリ島へ。


「いやー、なかなか手際がいいですわねぇ」
「ふざけてないで援護しろ!」
「そんなに張り切るなっての」


私の後ろで真っ白で頭の固い若い騎士が奮闘している。

港へグルグ船が接岸したのを見て援護に回ったけれど、彼の他にいた騎士達はこの状況に絶望し逃げ出した。
どこの所属か知らないけど、まぁ若そうな騎士だったし仕方がないか。
お陰でこっちは絶賛グルグ兵に囲まれ中なんだけれど。


「ここを突破されるわけにはいかんのだ」
「分かってる。背中は任せるわ」
「互いにな」
「ま、あと少しの辛抱よ」
「…?」


愛しの傭兵さん達の気配をごく近くに感じていた。





正面からの攻撃を右手の細剣で受け流し、横からの攻撃を左手のダガーで受け止める。そのまま魔法詠唱、至近距離で叩き込む。
グルグの方も対人戦に慣れているとは言い難いけれど、特攻じみた攻撃はなかなかに厄介だった。


「タシャ!アニス!」
「遅い!加勢ならばもっと早く来んか!」
「ご機嫌麗しゅう、エルザ様」
「え?あ、ああ…」
「そいつの言葉に耳を貸すな」
「タシャくん、始末書書かせるわよ」


一瞬ぽかんとしてしまったエルザが、気を取り直して私達に引くことを提案した。
タシャは騎士道に則って断った。私は騎士道がどうとかいう信念はないけれど、ここで引く意味もないので丁重にお断りする。


エルザ達の加勢で、私達を取り囲んでいたグルグ兵は散り散りになっていった。
港に接岸した船からはまだ大軍が下りてくる。空からも時折文字通り降って湧く。


「アニス!」
「あらユーリス、怪我はない?」
「それはこっちの台詞……」
「心配してくれたの?」


笑って言うと、ユーリスは少し赤くなって「当たり前だろ」と小さく答えた。まったく可愛い。どこでそんな反応を覚えたんだ。きっと素なんだろうけれど。
剣のぶつかる音に船の方を見ると、エルザ達がグルグ兵と交戦を始めたところだった。


「そういえば一緒に戦うのは初めてね」
「そうだね」
「約束どおり、先生の秘密を教えてあげよう」


最初のあの日の、不満げなユーリスを思い出して小さく笑う。
左手のダガーを握りしめて、桟橋から上がってきたグルグを狙って火炎魔法を詠唱。ほとんどノーカウントで撃ったわりに綺麗なサークルが出来た。
次もノーカウントで、今度は船でエルザの周りに集まるグルグを狙う。
1つ2つ3つ…とサークルが出来上がる。
グルグの攻撃が落ち着く頃には地面はカラフルに彩られていた。


「……な、何から聞けばいい?」
「ふふ…私は5属性使えるの。どこの戦場に出しても恥ずかしくないわよ」


胸を張って得意げに答えたけれど、ユーリスは信じられないという顔で小さく頭を振った。そりゃあこんなチートじみた力は目の前で見ても信じられないとは自分でも思う。お陰で騎士になれたのだけど。


「詠唱速度もあり得ないし…アニスって一体何者?」
「さあね。私は私だけれど?」


実際今までの人生で何か劇的なことがあったわけでもない。生まれつきの力に理由なんてものは思いつかない。



「隊長!」


と、市街側から騎士が二人走ってきた。


「ご報告いたします!指定ポイントでの障壁の展開、移動魔方陣の設置、完了いたしました!」
「ん、間に合ったわね。じゃ、予定通り各小隊を回して。私もすぐ行く」
「はっ!!」


ビシッと綺麗な敬礼を決めて、騎士は戻っていった。
さてと、と振り返りこっちの戦況を眺めようと思ったら、視界の端でユーリスが頭を抱えていた。
声をかけようと口を開きかけた時、「タシャ!」と桟橋の方でエルザの声がした。どうやらタシャが刺されたらしい。

ユーリスと共に桟橋へ行くと、タシャはエルザに地下水路の鍵を託したようだった。彼の足にはグルグの剣が貫通している。


「油断したわねぇ」
「アニス…」
「大丈夫よ、エルザ。タシャのことは任せて。責任持って衛生兵のところに連れて行くわ」


とりあえず回復魔法を詠唱してヒールサークルを作っておいた。


「アニス、タシャを頼む」
「えぇ。気をつけてね、エルザ様」


「様は余計だよ…」と苦笑しながらエルザは戻っていった。
ユーリスともまたお別れだ。


「アニスには聞きたいことがたくさんあるんだけど…」
「ふふ、じゃ、生きて帰っておいで」
「アニスも、死なないでよ」
「私はそう簡単に死なないわ」


なんたって大隊長ですからね。と笑うとしかめっ面が返ってきた。
あぁ、きっと彼は私が大隊長だって知らなかったんだろう。それは隠していたわけじゃないんだけど。
彼からしてみれば、私とのその差が面白くない。と顔に思いっきり出ていた。
なんとも愛しくて、ついつい本能に逆らえずに抱きついた。


「……っちょ、ちょっと!」
「ハグくらいで焦らないの」


離れてみれば、やっぱり彼はばつが悪そうにしていた。そんなだからからかいたくなるのよね。


「生きて帰ってくるのよ」


ユーリスの背中を押して、そのまま離れた彼を見送った。


さて、こっちはこっちで仕事するか。
















「……随分、年下好みなんだな」


痛みに耐えながらタシャがぼそりと言った。
そんな話が出来るなんて随分余裕だ。


「年下が好きなんじゃなくて、可愛い子が好きなの」
「それでは大半が、年下ではないのか?」
「それは何?私がおばさんだと言いたいのかしら?」


タシャとはそこまで離れてないのにおばさん扱いされるのは、さすがに温厚な私も怒るわよ。
そんな不穏な空気を感じ取ったのか、タシャは「そういう意味ではないが…」と言葉を濁した。
やっぱり始末書書かせようか。






プロフェさんは25,6くらいのイメージなので実際そこまで歳じゃないですよ?


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