噂の真相

「私この前見ちゃったのよ!眼帯をした少年が、猫を追いかけていくところを!すぐに追ったわ、ピンときたのよ。新たな秘密の予感にね…。そしたら案の定、少年がたっくさんの猫にエサをあげてたの。それはもう美しーい光景だったんだから…。」


という話を聞いた。
その噂の眼帯をした少年には心当たりがある。無愛想な傭兵仲間…。でも猫を追いかけてエサまであげるとか、普段の彼からは想像もつかない。

やっぱ別の人?いやでもそんな眼帯少年なんてそういるわけじゃないしな…。やっぱりユーリスのことかな…。いやでも……。


………あああもう!余計に気になる!
こうなったら何がなんでも真相を掴んでやろう!





と、決意して数日。
出かけるユーリスを見かけたので尾行することにした。過酷な傭兵生活で身につけた尾行術を、こんなところで久々に披露することになるとは思いもよらなかった。


ユーリスは酒場から出て、まずは噴水広場の方へ真っ直ぐ進む。
迷いなく進むからには目的があるんだろう。
彼はそのまま噴水広場を通り越してマルシェにきた。
端の露店の影に隠れて、ユーリスの行動を見守る。どうやら彼は食べ物の露店を覗き込みながらうろうろしているらしい。
買い食いの予定なんだろうか……まぁもうすぐお昼だしね。私もお腹が空いてきた。


「嬢ちゃん何してんだ?」と気さくに話しかけてくる露店のおじさんを無視して、さらに奥へ進むユーリスを追う。
香ばしいパンの香りが鼻をくすぐる。私も何か買おうかな……。
ユーリスの方はどうやら臭いに負けたのか、パンをいくつか買っていった。
意外と肉食系かもとか勝手に思っていた私としては、そのチョイスは若干不満ではあるけれども、逆にもしかしてもしかするのかもと思ってしまう。


その後彼はパンの袋を抱えて小走りに水路沿いを西に進んで行く。
小走りって。なんかちょっと可愛いんだけど。すでに意外な一面なんだけど!
中央広場まで戻ってきてしまって、もしかしてこのまま酒場に帰るのか?と思ったけれど、そのまま通り抜けて南門の方へ。


いやぁ、これはもうやっぱり噂の眼帯少年はユーリスか…と思った時、パッと彼が振り向いた。
(危な……!)
一瞬で側の積荷の影に隠れて、少しして隙間から様子を窺う。ユーリスは首を少し傾げた後、また歩き出して路地裏へ入っていった。



どきどきわくわく。
複雑な路地裏で見失わないように、角から角へ小まめに移動を繰り返す。ユーリスが少しでも戻ってきたらばれてしまう距離だけど、そんなことより好奇心が勝っている。

にゃあん

と、猫の鳴き声がして、私は思わずガッツポーズを決めた。
ユーリスの声もしたけれど、何を言ったのかまでは聞こえない。でも他に人の気配はないから、つまりは猫に話しかけたってことで。
(あ、あのユーリスが…猫、猫に、話しかけてるって…!)
口元に手を当てて、何とか笑いを堪えた。

さて、噂の"それはもう美しーい光景"を一目見ようと、路地の角から頭を出そうとしたところで、足元でにゃーと聞こえた。
(やば……っ!)
と思った時には遅く、すでに隣にユーリスが立っていた。若干お怒りの様子が見なくても分かる。

「……何してんの?」

「え、あらユーリス。き、奇遇だね!」

「さっきから視線を感じると思ったんだよね…。気配がないから気のせいかと思ったんだけど、アニスだったんなら納得だよ」

「さ、左様でございますか……」


あ、今の若干褒められてるような気がする。とかポジティブ思考。


「で?人を尾行するなんて、よっぽどの理由があるんだよね?」

「え…えっとー……」


ジリ、と一歩下がる。
ザリ、と彼は一歩進む。
ユーリスの無言のプレッシャーに負けて、私は正直に例の噂話を話した。





「す、すいませんでした」


全部話して素直に謝ってみると、ユーリスは呆れたようにため息をついた。
ようにっていうか、もはや表情がそのまま呆れたと言っている。


「それなら尾行なんかしなくても、直接聞けばいいじゃないか…」

「おっしゃる通りで」


くるりと向きを変えて、ユーリスは路地の奥の小さな広場へ戻っていく。
それについていくと、そこには猫が……え、ちょっと何匹いるの……。ざっと数えて10匹以上の猫が、ユーリスがちぎって落としたパンに集っていた。
ユーリスは屈んで側の猫を撫でながら、パンを食べられずに押し出された猫の方にちぎったパンを投げた。
私も屈んで、近くの猫を撫でる。野良なのにふわふわで可愛い。


「…ユーリスってさ、意外と優しいよね」

「……別にそんなんじゃないけど」

「照れるな照れるな。意外だけど、いいと思うよ、こういうの」

「意味が分からない…」


私が笑うとユーリスはぷいっとそっぽを向いてしまった。
ちらりと見える耳が赤くて、違う笑いが込み上げてきた。


「…君はちょっと素直すぎるんじゃない」

「あ、それよく言われる」

「だろうね」


持っていたパンを全部ばら撒いたユーリスが、立ち上がって路地の方へ向かい広場の出口で振り向いた。


「ほら、戻るよ」

「あ、うん」

「どうせアニス1人で出られないだろ」

「う……」


そういえば尾行に集中していて道をまったく覚えていない。
猫達に手を振って、私達は小さな広場を後にした。




今日はユーリスのイメージがちょっとだけ変わった一日だ。









「あ!お腹空いたし、ご飯食べに行こうよ」

「もちろんアニスの奢りだよね。人のこと勝手に尾行したんだし?」

「うぐ……ま、まぁいいよ?あ、私パンがいいなー。マルシェですごい鼻をくすぐられたわ」

「奢られる僕からしたら、パンなんて選択肢はないんだけど」

「…じゃあ何がいいのさ」


うーん、と少し考えて、ユーリスは「…肉が食べたい」と言った。
あぁ、やっぱりこいつ肉食系だった。






冒頭の噂話はアリエル?ゲーム内未収録の公式のセリフです(´ω`)


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