最初の一歩

あぁ…また怒られた。


橋の上からぼんやりと水路を眺めた。真昼の太陽にキラキラ輝いてとっても綺麗。下水は流されてないんだろうなぁ…底が見えるくらい澄んでいる。そういえばこの間エルザが泳いでたっけ。

「はぁ……。」

綺麗な水路とは正反対に、私の頭の中はどんより暗い。
これで何度目だろ、ユーリスに怒られたの…。
彼は悪くない。いつまで経っても戦い慣れない私が悪い。
勝手に前に出るなとか、下がる時は後衛側にとか、もっと周りを見ろとか、連携を意識してないとか、 敵の動きをちゃんと見ろとか、罠くらい避けてとか、無駄な動きが多すぎるとか、とかとか……。
任務後の反省会で今日もコテンパンに怒られた。
今日の彼は特に怖くて、泣きそうになってつい飛び出して、こんなところで落ち込んでいるわけです。

役立たずな前衛で迷惑だったんだろうな…。
今日腕に出来た真新しい傷がズキズキと痛い。マナミアに手当てしてもらったんだけどなぁ…。
はぁ…とまたため息が出てしまった。
謝らないと…嫌われたく、ないし…。



「アニス!」
「…!?ユーリス…。」

吃驚した…。途中で逃げたから追い討ちでも掛けに来たのかな。正直これ以上怒られるとちょっと耐えられそうにないけど…。
でも続いて彼の口から出た言葉は、全く予想もしていないものだった。

「……さっきは、ごめん。言いすぎた。」

え……?
謝られた……?

「何で謝るの…?ユーリスは悪くないよ…!私が、弱くて…ごめんなさい…。」
「っ違…!そうじゃなくて…、別に君が弱いわけじゃなくて…」

彼がしどろもどろにしゃべるのは珍しい…。
不思議そうに見ていると、彼は「ああぁもう、くそっ…!」などと悪態をついて頭を抱えていた。

「だから…、僕は君が好きなんだ!」
「…………へ?」

え?何の話?君って?

「だから、怪我とかして欲しく…なくて…。」

君って…私?

「ユーリスが、私を、好き?」
「…悪かったね!?」

顔が赤い彼を見ていると、私まで頬が熱くなってきた。
突然すぎる告白にちょっと混乱したけど、そっか、そういうことか…。

「…あの、だったらもうちょっと、優しく言ってもらえると、嬉しいん…だけど…。」
「…精進するよ。」

あぁでも分かってしまえばなんとも彼らしい気がする。
滲んでいた涙もとっくに止まり、ついつい笑みがこぼれてしまう。

「じゃあ…仲直り?」
「…それはいいんだけどさ……返事は?」
「え?」

返事………

「あ……。」
「………。」

ユーリスは無言で睨んでくる。
それ、返事を待つ姿勢としてはどうなんだろう…。
でも私の答えは決まってる。
どんなに怒られても嫌われても、傭兵団に居続けたのは彼が好きだったからだ。

「よ…よろしく、お願いします。」

そう答えるとユーリスは驚いた顔をしたけれど、すぐに今まで見たことのない笑顔で嬉しそうに笑った。



あんなに怒っていたのは、愛情の裏返し。


「あ、次怪我したらただじゃおかないからね。」
「ひっ…!」


…でもやっぱりちょっと怖い。







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