professor!

ルリ城の図書室では将来のルリの砲台を担う魔道士になるべく、選りすぐりの才能ある子供達が時間の許す限り勉学に励んでいる。
まぁつまり学校のようなものと化していた。
因みに皆エリートだから、学費は伯爵持ちです。いいなぁ…。



「アニス先生。この属性相関ってどういうことなの?」

「ん?えーっとこれはね――」


そんな私は図書と天球儀の管理をしながら、子供達に魔法に関するあらゆることを教えている。
基本的な魔法学から帝国の魔導の歴史などなど…。子供達に教えるためにと、私も随分勉強した。自分でいうのも何だけど、かなり知識はあるほうだと思う。


「せんせー!この魔道具って何に使うものなの?」

「はいはい、どれのこと?」

「これ!」


と、魔道具図鑑のとあるページを指差された。


「えっと…。」


なんだったっけ…?図鑑のくせに用途が書いてないってどういうことなの。


「んー…銃器型だけどこれは戦闘用じゃなかったようなー…。」

「先生もしかして知らないの?」

「いや!思い出すからちょっと待って!」


あれも違うしこれも違うし…あれに似てるけどだけどたしか特殊な術式だったからえーっと…。




「グルグ族特有の魔道エネルギーの採集用だよ。」


と、図鑑と睨めっこしていたら、すぐ隣から若い男の人の声がした。
同時にその人の手が図鑑に伸び、ページを一枚めくった。


「次のページに書いてある。」

「あれっ……あはは、そうでした…。」


大変お恥ずかしい。


「お兄ちゃんすごーい!物知りだね!」

「えっいや…。」

「アニス先生より全然すごいや!」

「ええっ!酷いっ」


子供達の株もガタ落ちしていた。悲しい。
1度のミスでこれとは、なかなかシビアな子供達だ。
彼の方はというと、ちょっと困惑しているようだった。
そういえば彼の格好は傭兵のようだけど、もしかして…。


「えっと…、教えてくれてありがとう。傭兵の人よね、最近伯爵が雇ったっていう…。」

「ああ、そうだけど。」

「グルグ族の襲撃の時にすごい火炎魔法を使う傭兵がいたって聞いたんだけど…もしかして君のこと?」

「…すごいかどうかはともかく、僕のことだろうね。」

「やっぱり!」


彼からはよく洗練された魔力を感じていた。特に眼帯の奥からは異様なほどの力を。
…ま、野暮なことは聞かないけどね。


「どんな人か気になってたの。あっ!私はアニス。そのうち一緒に戦うこともあるかもしれないわね。」


握手を求めて手を差し出すと、彼は一瞬驚いたようだったがちゃんと手を取ってくれた。


「僕はユーリス。」

「ユーリス。よろしく。」


にこりと笑うと、ユーリスは慌てて手を引っ込めた。なかなか面白い反応をする子だ。


「お兄ちゃん!これは分かる?」


と、ダイナちゃんが別の本を持ってきた。
私じゃなくてユーリスに聞くとは、一体どういうことなの…。


「え…?えっと……。」

「分かるなら教えてあげてよ。」


彼が困ったように振り向いたのでそう促すと、少し迷ってからダイナちゃんの持ってきた本へ視線を移した。

あの本は帝国の歴史関係だ。子供達の勉強している範囲なら、傭兵でも分かるはず。むしろ、世界を転々とする彼らの方が知っていることも多い科目だ。


彼には今日一日、臨時講師となってもらいましょうか。












結局子供達が帰るまで、ユーリスは勉強に付き合ってくれていた。
ダイナちゃんとソリーナちゃんは彼が気に入ったようで、事ある毎に一々ユーリスの元へ行っていた。
年頃の女の子はイケメンに弱いんだから…。


「今日はありがとう。子供達に付き合ってくれて。」

「別にいいよ。暇だったし。」

「そう?でも驚いたわ。ユーリスって物知りなのね…。」


彼は歴史や魔道概論だけでなく、魔物の知識や地理、言語、果ては精神学までありとあらゆる科目で子供達の期待に答えていた。その場で調べるにしても飲み込みが早い。


「そうでもないよ…。僕のは生きる為に必要な知識だ。」

「あぁ、なるほど。でもそれにしても、やっぱり賢いわ。私なんて何も考えてなかったわよ、傭兵時代は。」

「…アニス、傭兵だったの?」

「ええ。昔任務中にルリ騎士団を助けてね、その時スカウトされたの。」

「へぇ…。珍しいね。アニスってそんなに強かったんだ?」

「どうかな。単に珍しかっただけじゃないかしら。」

「珍しいって?」

「ふふ、それは秘密。一緒に戦うことがあれば教えてあげるわ。」


そういうと彼は不満気に睨んできたので、「女の子には秘密がある方がいいのよ。」なんて言ってみたら、「…女の子って歳じゃないだろ。」なんて突っ込まれた。
悪い子にはげんこつをお見舞いした。



「まぁまた来てよ。子供たちも喜ぶわ。特にダイナちゃんが。」

「僕、あの子に随分気に入られたみたいだね…。」

「そうね!まぁユーリスかっこいいから仕方がないわ。」


そう言うと彼は顔を赤くして驚いていた。
一々面白い反応をする子だ。ついからかいたくなるタイプだなぁ。


「ユーリスかっこいいから仕方がないわ。」

「なんで二回言うんだよ…。」

「面白かったからつい。」

「……帰る。」


すねてしまったようだ。
うーん、外見はかっこいいけど内面は可愛い。


さっさと出口へ歩いていくユーリスを追って、図書室の外までお見送り。「また来てね!」と言うと、「時間があったらね」と返された。
たぶん近いうちにまた来てくれるんだろうなぁと、なんとなく思った。



ルリ魔道士の間でにわかに噂になっていた火炎魔法の傭兵は、とっても可愛い男の子でした。






大事な事なので二回言いました
短編だけど続きます^p^


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