お酒の力

夜になって酒場に帰ると、恋人であるジャッカルがへべれけに酔っていた。
そんな酔っ払いに捕まって、エルザがジャッカルの横で疲れきった顔をしている。


「……なにしてんだか。」

「あ、おかえりアニス…。」

「アニス!やっと帰ってきたか!」

「ただいま。エルザ災難ね。」

「あとは…任せたよ…。」


そう言ってエルザはフラフラと、でも素早く2階の部屋へ戻っていった。
ご苦労様でした…。


「アニス。」

「なんですか?」

「まぁ飲め。」

「はいはい。」


エルザが座っていた、ジャッカルの隣の席に腰を下ろした。
座ってすぐ、ジャッカルが寄ってくるのはいつものことだ。
いつものこと…なんだけど。


「ジャッカル、ちょっと寄り過ぎじゃない?」

「いいじゃないか。将来を誓った仲だろ?」


言いながらジャッカルは私の背に腕を回した…というか、もはや抱きつかれているレベルだった。


「お前が恋人で、俺は幸せだよ。」

「はいはい。」

「アニスが隣にいてくれれば、他には何もいらねぇ。」

「はいはい。」

「…相変わらず綺麗だな。他の男に絶対についていくんじゃないぞ!」

「はいはい。」

「……なぁ。」

「はいはい。」

「聞いてる?」

「聞いてるよ。」


背中に回されていた腕に、不満気にぎゅうっと力が篭る。
今日は一段と構ってちゃんのようだ。


「…俺は、本気でお前のことが好きなんだよ。」

「知ってるよ。」

「……アニスは俺のことが嫌いなのか?」

「どうしてそうなるの…。」

「いっつも話半分じゃねぇかよ。俺は全部本気で言ってるんだぞ!」

「……ジャッカルの話は話半分で聞いてないと、心臓が持たないのよ。」


ジャッカルは腕の力を弱め、少しだけ離れて人の顔をまじまじと見てくる。
ほんとこの男は…馬鹿なのか、馬鹿なのかしら。そんなに私を殺したいのかしら。死因が心不全なんて、嫌なんだけど。

ジャッカルから目を逸らし続けていたら、彼が緩んだ顔で飛びついてきた。


「あー、なんだ、お前…すっげぇ可愛いな。」

「や、やめてよジャッカル。皆見てるから。」


奥で酔っ払った常連客がニヤニヤとこちら見ているのは、最初から気付いていた。


「どこにも行くんじゃねぇよ。俺から絶対に離れるな。」

「…ジャッカル、もしかして不安だった?」

「おう。」


いつもより遅く帰ったからか。
そういえば、以前彼が過去のことを話してくれたことがある。
元彼女の話なんて!と思ったけれど、それは本当に悲劇でしかなくて、わざわざ私に話すほど彼の中でトラウマになっていたんだろう。毎回のように先立たれてしまっては。
私で最後にしたいと、辛そうに話していた。


「…どこにもいかないよ。私、小さい頃から病気をしない健康優良児だって言われてたし。戦って死ぬほど弱くないのは、ジャッカルだってよく知ってるでしょ。」

「……おう。」

「心配しなくても、私が死ぬのはジャッカルが死んだ時だけだよ。」

「アニス……。」


ジャッカルを引き剥がし、面と向かってにっこりと笑ってやる。
この大男は、時々本当に子供みたいだ。


「よし、アニス飲め。今日は一晩付き合えよ。」

「…何言ってんの、この酔っ払い。私はもう寝ます。」

「んじゃ、一緒に寝るか。」

「馬っ鹿じゃない!」


恥ずかしさを誤魔化すように、手に持ったお酒を一気に飲み干し、ジャッカルを軽く睨んでやった。
当のジャッカルは、いつもの調子でキリッと格好つけながら、私の方へ真っ直ぐ向かって口を開いた。


「俺、今すげぇアニスを抱きたい気分。」

「…死ね、変態っ!」


あぁもう、やっぱりただの酔っ払いだった!真面目に話して損した!

ジャッカルが私を捕らえようと伸ばした手をすり抜け、とっとと部屋に帰ろうと立ち上がる。
テーブルから離れる直前、ふと思い立って彼の唇を奪ってやった。


「……言っておくけど、私ジャッカルのことは世界で一番好きだからね。おやすみ。」

「……お、おやすみ。」


ジャッカルの面食らったアホ面に満足し、階段を駆け上って部屋へ戻った。
お酒の一気飲みなんて、するもんじゃないな。









砂子様、リクエストありがとうございました!


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