なんでもない特別な日に - ユーリス編 -

こんなにお洒落をした日には、好きな人とデートの一つでもしたいと思う。折角だから、勇気を出して誘ってみよ。
確か今は部屋で休んでるはず、と向かいの男部屋の扉を叩く。

「入るよーユーリス?」

返事を待たずに中に入ると、彼はベッドに転がって本を読んでいた。意外とぐーたらしてて吃驚した。
彼も急に入ってきた私に驚いて慌てて起き上がったが、もう見ちゃいましたよ。残念でした。

「えへへ、どうかな〜?」

くるりと回って今日の私を見せびらかす。



…いや、無口なのは知ってるけど、何か言ってくれないと困る。

「…………アニス?」

と、やっとのことで紡がれた一言が、これ。

「うん、他に誰が?」

「……いつもと違うから、誰かと思ったよ。」

まぁそうか。自分でも変わりように驚いたくらいだ。いや、元が可愛くないのは置いておいてだな。

「ユーリス、暇ならお昼食べに行かない?」

「え?…あぁ、もうそんな時間か。」

「うん。折角新しい服貰ったのに、今日は予定がなくて…。ユーリスも暇でしょ?」

というと、彼の眉間に皺が寄った。
あれ?暇じゃなかったのかな…。あんなに寛いで時間を忘れるほど本を読み耽っていたのに?

「……誰に貰ったの、それ。」

「ん?セイレンとマナミアだよ?」

「そう…。」

「で、暇じゃないの?お昼行こう?」

「………行かない。」

ユーリスの眉間に皺はなくなっているものの、少し思案した後に出た言葉はまさかのお断り。
うーん、そんなに本が読みたいのかなんなのか…。も、もしかして私嫌われてたりするのかな…?

「え…。な、なんで…。」

彼は答えない。
お洒落をしても、私は私。嫌われてたのなら、仕方がない…。
なんとなく居辛くなって、俯いた。

「……アニスもだからね。」

「……は?」

何が私もなの?と少し顔を上げたら、視界いっぱいに彼の青色の防具。
そのまま私ごとベッドに座るユーリスさん。…なんとなく体勢が難しいぞ。

「今日のアニスは僕だけが知ってればいいよ。」

「……は?…え?」

さっきからこの人何言ってるんだろ?と思っていたら、上からクスクスと声を噛殺した笑い声。「アニスの鈍感。」

「は、はい?」

「好きだ。」

「…はい?」

…はい?
頭が言葉を飲み込むより先に、顔が赤くなっている。というより、赤くなったから意味が分かった。

「…え、えっと…えと、え?」

「…ちょっと落ち着きなよ。」

「あ…えっと…あの…!わ、私も…!」

「知ってるけど。」

「え?…えぇっ!?」

彼は”ほんと鈍感”と不満げに言いつつも、満足そうに笑っていた。
彼曰く、”あんなに四六時中見つめられたら誰だって気付くよね”だそうだ。恥ずかしすぎて穴があったら入りたいが、例え穴があっても今の状況ではきっと入れては貰えない。


でもまぁ、お出かけはなくなってしまったけれど、服よりも彼がいてくれることが嬉しくなって、そのまま優しく抱きしめてくれる彼の胸に甘えることにした。







「お腹空いてきたんだけど…。」

「一食くらい抜いても死なないだろ。」

「え…。あ、着替えてきたら食べに行ってくれる?」

「…それはダメ。」


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