memo

Chapter.43 アトガキ‐追記

昔話。

これは数年前、まだルリ島へ行くのをためらっていた頃。
とある都市で"神の御子"と呼ばれた少女の護衛をしていた時の話。

『……かくて世界は救われた――愛しい恋人の犠牲によって』
「また本を読んでるの?」
そう聞いてから、しまったと思う。
彼女がいつもの窓辺でいつものように本を開いていたから、彼女の目が見えないことを一瞬忘れてしまっていた。
『ふふふ。あなたも読んでみる?』
「読む、と言われても……」
渡された本にはもちろん物語が書いてあるわけではない。いや、稀に書いてあることもあったが、彼女が読む本のほとんどは白紙だった。
彼女は自分の頭の中の物語を、本を捲る動作をもって音読しているにすぎない。
『そうね、それじゃあ……こっちの本を貸してあげる』
こちらの意思などお構いなしに、本棚から別の本を取りだした。
人の話をまともに聞くようなタイプの子ではないと、ここ数日で分かっていた為小さくため息をつきながらも差し出された本を受け取った。
表紙を捲り、もう一度出そうになったため息を飲み込んだ。
「これは私じゃ読めないわ……」
『じゃあ宿題ね。この本のタイトルを覚えたら、意味を教えてあげる』
渡された本は通常使われる言語ではなく、古代の高度な魔法文字で記されていた。常人に読める代物ではない。
さらに言えば、この盲目の少女が白紙の本に自ら記した手記だった。
目が見えないのに字は書けるのか、とここへ来たばかりの頃は疑問に思ったものだが、この少女が"神の御子"と呼ばれているのは伊達ではない。普通の人と同じだと思うのが間違っている。
「なんでそんなこと……」
『ちゃんと覚えるのよ?でないと困ってしまうわ』
「なんで困るの?」
『意味なんてないわ。必要だったかしら?』
これである。会話が成立しているようでしていない。
それでも彼女の言葉を聞かざるおえないのは、"彼女の希望を可能な限り叶えること"というのが依頼に含まれているからだ。
それでなくても、まぁ聞いてしまうのだろうけれど。
「……わかった」

なんてことのない日常の1コマ。この1週間の後、私は依頼を終えこの都市を離れた。
そしてさらにその晩には、この都市は"天災"と言われる神の意思に呑まれ湖の底へと沈むことになる。

神の御子は大地の声を聴き、未来を読む。ありとあらゆる手段を持って、神の血に近づく為に造られた、この都市の最高傑作にして最後の"作品"である。
この血の運命に翻弄された少女との出会いが、私をルリ島へと向かわせることになった大きな要因。
そして未来を知る少女がこの時教えた言葉が、本当にささやかなプレゼントなのだと気づくことはない。




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本当にテストするから丸暗記すんだぞって話だった、というのがオチ。ここで渡された本と本編で手に入れた本は別の物ですがまぁどうでもいいか…。
世界を無駄に広げて話を作るのが好きなんですが、あまり二次小説向けじゃないんですよね……。
2016/06/19 17:35
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