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 教室に空白の席がひとつ。最近流行りの風邪にかかったクラスメイトが昨日から休んでいる証拠だった。ぼんやりと頬杖をつきながらその席を見て、五年も前のクラスメイトを思い出した。五年前のクラスメイト、ロータス・ウィーズリー。マグルのくせに裏切り者のウィーズリーと同じ名字だ、なんて悠長に思っていたら次の年には既に同学年ではなくなっていた奴だ。
 紹介に遅れたが俺はサロメ・テイラーグラスゴー。言っておくがサロメなんて名前だけど女じゃない。れっきとしたウェールズ人で両親共々純血の魔法使いだ。両親共に家に誇りをもっているからDouble-barrelled Name、つまり二重姓だ。魔法使いだけど母方の家が機械化するマグル社会の将来性に目をつけてるから、家の習慣として幼少期にマグルと共に育つのが教育の一環だ。
 勿論、ちゃんと父さんと母さんから魔法使いのことも聞いて育ってる。来年、このプライマリスクールを卒業したらホグワーツに入学するんだ!

「サロメ、サッカーしに行こうぜ!」

 クラスメイトに声をかけられて中途半端な返事をする。彼はボールを持ったまま不満そうな顔をしたが俺が見ているものに気付いて首を傾げた。

「どうしたんだよ、アイツ昨日から休みだろ?」

「いや、一年のときにクラスメイトだった奴をちょっと思い出した」

「ああ、ロータスだろ」

 奇跡的にコイツとは学校の半分以上を一緒のクラスで過ごしているから分かったのだろう。コイツとはいつも休み時間にサッカーをしてきた。魔法使いはクディッチをするものだけど、俺はサッカーが大好きだ。まさかホグワーツに入学したら誰とも一緒に出来ないんだろうかと少しだけ不安を感じているが。俺はそんなことを考えながら頷いた。

「兄貴が言ってた、もうとっくに高校卒業したらしいぜ。ロータスとクラスメイトだったんだってさ」

「What!?」

 ぶはっ、と息を吐いて少し噎せた。鈍い目をした肖像画みたいな顔の奴で、アホには見えなかったがそんなに利発そうにも見えなかった。ちょっと賢いだけ、という認識だったのに。俺は半信半疑で「マジで?」と聞いたが目の前の友人は「大マジ」としか答えなかった。

「高一でクラスメイトになった兄貴より先に学校巣立っていったって」

「うわスゲェ」

 ただの元クラスメイトだと思っていたのがそれを聞くとなんだか遠くに行ってしまった気がして、それが無性に腹立たしかった。何故一年だけの、しかもそう話したこともなかった奴に感情的になるのか自分でも理解出来ない。もしかしてウィーズリーという純血の間では見下されている家族と同じ名字だったからかもしれない。――そういう偏見は、あんまりしないはずなのだが。
 マグルと一緒に居ればマグルに対する偏見もそうなくなる。擁護したいほどでもないが。だから一辺倒にマグルを馬鹿にする大人を見て、偏見を持つのは思考の放棄だと知った。それから偏見というものにはあまりよくない印象がある。世間の純血のウィーズリー家に対する軽視だって、多分マグルに対するものと同じだと思うし、自分を高い位置にもっていきたいから他を低くしたい気持ちなんだと思ってる。だから、腹立つ自分が少し奇妙なのだ。どうしてロータス・ウィーズリーがムカつくのか。幾ら考えても思いつかない。自分の中にしかない答えを他人に聞いても分からないし、周りと同じように扱われて適当な答えをそれらしく言われるのも嫌だった。

「おい、どうしたんだよサロメ」

「……いや、なんでもない。それよりサッカーだ、サッカー!」

 ボールを引っ手繰って廊下を駆けだすと、背後から怒号が聞こえて大声で笑った。もう会うこともないような奴のことを考えるより、残り時間少ない友人と遊ぶとかサッカーするほうがよっぽどいい。俺はあの彫刻のような白と黒をさっさと忘れて、目の前の白と黒のボールを一心に追い続けることにした。



12.11.2


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