その不埒な行為には別段愛着はなく、相手は人間かどうかも怪しく、しかも一回り以上も離れた同性のガキだった。否定する要因は数多あれど惹かれる要因は指折り数えるのも難しい。
 では何故、こんなことになったのか。――もはや興が乗ったとしか言いようが、ない。





 調査兵団には奇人変人ぞろいだと思ったけれど、俺のその思考は間違いなく的を得ていた。古城で生活して数日でそれは確固とした確信に変わった。でも、ハンジ・ゾエ分隊長はその中でも群を抜いた変人だと思う。

「ねぇ、エレン。頼むよ。リヴァイにも許可をとったからさぁ」

「じ、実験そのものにはなんの不満もありません。人類の存続のためだと理解しています。で、ですが今回の実験に対してはその意義がッ…!」

 同程度の身長のハンジさんが腰を僅かに屈め、上目遣いで俺の顔をじぃっと見つめてくる姿に背筋に汗が伝った。何より口許がにやにやしているのが怖い。平素は気遣いも出来るし兵士としても優秀だし何よりいい人だ。
 けど、巨人の実験が絡んだ途端常軌を逸した変人になる。
 顔面が、特に唇の端が震えるのを自覚しながら、俺は直立の状態で胸を張り、握り拳を体側につける“気を付け”の姿勢でこの境地から逃げ出す契機を必死に探していた。嗚呼、俺もアルミンくらい頭がよけりゃあ逃げる算段を考えついただろうに!

「いいじゃないかエレン。過去五回の実験から巨人に食欲・睡眠欲がないことは明らかなんだ。暗い時間に活動しなくなるのは恐らく習性だ。三大欲求の内残すはあとひとつなんだ、協力してくれよ」

「きょじ、巨人撲滅のためにっ、性欲の有無は要確認の事項でしょうか! 巨人には生殖器に該当する部分がありません!」

 震える顔面で喚くように言えばハンジさんは唇に手を当て悲しそうな顔をした。絶対楽しんでる。目がわくわくしてるのがその証拠だ。俺が嫌がる理由だって分かってるんだ!
 そりゃあ俺も、この人は上官だし、実験によって得られる小さなピースが繋がって大きな推進に繋がって行くのなら協力したいのは山々だけど、だけどさあ…! 性欲を活発化させる薬がどんなに薄めても効力が24時間は続くって聞いたら誰だって嫌だろ! 巨人化は何時間も続くものじゃない上に、ハンジさんの説明を聞くに15メートル級の巨人の体に効くように薄めず大量の薬を流し込むらしい。
 そして、俺が嫌がる最悪のポイントは、巨人化が解かれてもその効力が体に回っている危険性があるということだ。
 血管摂取するからもし効くなら効果は抜群らしい、うなじから切り取られても薬は回ってる。うなじの部分量だけだと言っても薬は強力だし1.7m分の効果だって抜群だろう。率直に「嫌だ」といういう理由で拒否出来ないのが雇われ新兵の辛いところだ。(しかも人間じゃない疑いも掛けられている)
 滅多な実験で仕事は休めないし、実験後に永遠と一人で処理しなきゃいけないのも嫌だし、勃ってる体で休みの許可を取りに行くのも絶対に嫌だ。絶対に。沈静する薬もここにはないらしいし、無理にやったら不能になると脅された。それも絶対に嫌だ。この主張は男である以上我儘じゃないはずだ。

「あ、あの……リヴァイ兵長はその実験についてなんと、」

 なんとかして逃げるために、取り敢えずハンジさんから情報を引き出そうと質問攻めの一手を打ってみた。するとハンジさんはきょとんとした顔から一変、まるで食堂に居るかのように豪快に笑い始めた。

「リヴァイは書類に書いた三大欲求の検証っていうことしか知らないから何も言わなかったよ!!」

「騙してんじゃないですか!?」

 そうだ、そうだった。そんな性欲とか巨人にさえ関係なさそうなものを兵長が掃除より優先させるわけがない。何回やり直しさせられたことか、あの人はもはや潔癖症だと思う。

「騙してなんかないよ、ただ詳しく言わなかっただけで」

「それが騙むぐっ!?」

 気を付けの姿勢をといて叫ぼうとしたら、急に背後から口を手で押さえられてがっちりと拘束された。後ろも向けないし誰だか分からないけどこれだけは分かる、向かいのハンジさんはいい笑顔をしている。

「すまないねミケ、じゃあいつもの場所まで運んでくれるかい」

 背後にいるらしいミケ・ザカリアス分隊長はいつも通り寡黙に頷いた様子で、俺はひょいと2m近い巨体の肩に担ぎあげられた。

「ごめんよエレン、これも私の巨人への……おっと人類の未来のためなんだ」

「いっ、いやだあああああああああああああああ!!!」

 暗雲経ちこめる俺の数時間後の未来に叫んだら、ハンジさんに思いっきり首に手刀を落とされ呆気なく気絶した。





 実験の結果から言って、巨人には性欲がないことが確認された。エンドルフィンとか何とかが感知出来なかったらしい。多分。もう何を言われたのかもあんまり覚えてない。この実験が二度とないことが知れればそれで本望だ。
 そして俺は、その薬が人間には効果てきめんであることを現在進行形で身を以て知らされている最中だ。

「っふ、ぅ……」

 凭れかかってずるずると進んでいる廊下が冷たくて気持ちがいい。だけど古城に吹く夜の冷たい隙間風程度でぶるりと体が震える。体中が熱い。頭が靄がかったようにぼうっとするし、熱いのに寒気がする。強烈な寒気に痛みさえ知覚して、荒い息で立っているのがやっとだ。
 でも部屋に、地下に帰らなきゃならない。ここで座り込んだりでもして誰かに声をかけられたら最悪だ。ズボンをアレが押し上げている状態で見つかるなんて希代の恥だ。想像しただけで死にたくなる。もう就寝時間で人通りが少ないのが唯一の救いだ。だけど皆は俺みたいに深夜に外に出るのを許可されていない身分じゃないから、うかうかもしてられない。

「…はーっ、ぁ……は、っ」

 腹の中心が火傷するほどあっつい。背筋がぞっとするほど寒い。歯なんてもう噛み合わなくて、がちがちいってるのにその僅かな衝撃だけでまた体が熱くなる。出したい。脳味噌が沸騰しそうだ。だしたい。でも人が。

「も、いや…だっ」

 口を動かすのも億劫で、それでも吐きだした言葉にはなんの慰めもなかった。右足を一歩踏み出そうとして、力が入らずかくんと落ちる。左も巻き添えをくらってしゃがみ込んでしまったら、もう立ちあがれそうにもなかった。
 視界が涙目にぼやけても見えるズボンを押し上げる自分の体に更に泣きたくなって、壁に背を預けて膨れ上がるそこに触れようと、した。でも急に頬に隙間風が当たって、いつ誰が来るか分からないことを思い出した。羞恥心がなけなしの頭に蘇って、荒く息を吐く。
 力の入らない指で膨れ上がってる周りをそろそろと確認するように触れると、自分で触ったにも関わらずびく、と体が痙攣した。立体機動装置をつけてなくてよかった、今つけていたら全身を締めあげる感覚だけで射精しそうだ。
 部屋に帰ったら。部屋に帰れたらハンジさんから精神が安定しない時のために貰った睡眠薬があるんだ。強力だからって色々諸注意もあったような気がするが、今この頭じゃ思い出せそうにない。全部が明瞭としない。勃起して仕事が出来ないで呆れられるより眠っていて後で死ぬほど怒られる方がマシだ。蹴りだって訓練でそこそこ慣れてる。

「……おい、そこで何してるんだ」

 声を、かけられて。開けっぱなしでひゅうひゅう言ってる口を更にあんぐり開けて呆然とする。馴染みのある声に、俺はゆっくりと頭上を見上げた。

「何をしていると聞いたんだが?」

 そこには、眉を顰めて機嫌悪そうに腕組みをするリヴァイ兵長が、いた。

「…っ、ぁ、の」

 兵長は中々答えない俺にもっと眉を顰めた。俺は無理矢理笑おうとしたが筋肉が動かず、唇を横に引いただけに終わった。

「お前の行動可能時間はもうとっくの昔に終わっているはずだが?」

「す、いま、せ」

 間違ったら蹴られる。この状態で蹴られたらそれでさえ反応してしまいそうで嫌だ。お願いだからどっか行ってくれと願うと俺の内心を見たように兵長の声が低くなった。

「ハンジの実験が長引いたのか?」

 言われて、こくこくと小さい上下運動ながらも何度も頷く。すると兵長は仏頂面のまま俺の顔を凝視し、視線を下、に――

「ッ!」

「おい、」

 兵長の驚いた顔なんて凄く貴重だ。状況が状況じゃなかったらちょっと喜んでいたと思う。嗚呼、こんなことならハンジさんがお姫様だっこで部屋まで運んでくれる申し出を断るんじゃなかった!
 俺が現実逃避している最中に兵長はぶつぶつと言って顎に手をやって何か考えている様子だった。

「三大欲求って……エレン、お前もしかして今日の実験は性欲か?」

 言われた瞬間、ぼっと顔に熱があがる。恥ずかしい。あつい。もう何で恥ずかしいのかもよく分からない。滅茶苦茶だった思考がもっと滅茶苦茶になって、考えるより前に逃げ出そうとした。両膝がついたまま手を前に付き出して、まるで赤ん坊のような姿勢で逃避を計ろうと、して――
 腹を鋭く蹴られて仰向けにされた。

「がはッ」

 肺から空気が全部出て、ひゅう、と喉で息をする。それから、気付く。僅かな倦怠感と解放感に。

「ぅ、そだ……」

 ズボンがじんわりと滲んでいて、俺は歯の根が合わない音を聞いた。でもすぐに劣情がじわじわと追い上げて来て、目尻に浮かんでいた涙が顎に向かって走り出していた。

「おい」

 ぐいっと顎を上に持ち上げられたが、涙にぼやけた視界では目が合わなかった。恥ずかしげもなく嗚咽を漏らしながらも顎に当てられた体温でじくじくと苛まれる自分が恥ずかしい。もういやだ。もういやだもういやだ。

「…ぃや、だぁ」

 思考を放棄して喉の奥で泣き声を噛み潰し、顎を掴む手をどけようとした動きで腕にしがみつく。その後すぐだった。顎を腕に引っ張り上げられすぎて喉まで伸び、唇に温かさを感じたのは。

「ん、んんっ……ぁ、う」

 ぬる、と半開きだった口に他人の舌が入って来て、舌の根まで侵されて呼吸が出来なくて喘ぐ。唇の端から唾液が零れ落ちて、舌をちゅうと吸われただけで背筋が快感に震えた。確認しなくてもじわじわ勃っていくのが分かった。

「っはぁ…ぁ……へい、ちょう……?」

 緩慢とした動きで、目だけで彼を見ようしたらもう一度荒々しくキスされた。歯茎に舌を沿わせて咥内を蹂躙し、俺の力ない舌を押し上げる。その刺激だけで俺はもう射精寸前だった。

「立て――はしないか」

 チッと鋭くした兵長は、短く溜息をついて俺を肩に担ぎあげた。本日二度目の行為に俺は真っ白な頭のまま兵長の肩にしがみついた。





「やあああ、あ、あぅ…ぁ、あ」

 弛緩した体に比例するごとく、後ろの穴も初めてとは思えないほどすんなり入った。兵長の部屋のベッドに放り投げられて、短い前戯に快感で震えていた体は驚くほど排泄の用途に使う部分で快楽を拾った。
 片膝を持ち上げられて膝蓋が肩についた状態で、兵長の小柄な体躯からは想像も出来ない大きさのソレがめりめりと穴に押し込まれる。胸をのけぞられせて不安定な姿勢にぐらぐら揺れて、それにさえ中に侵入するモノに刺激される形になってベッドシーツに爪をたてた。のけぞった胸の突起にギュッと爪をたてられて「ひぃっ」と喘げば満足げに笑われた。
 全部入ったのか一息ついた兵長に、荒い息をつきながら見上げる。

「はーっ、はぁ、っぁ……ちょっと、待、」

「待たない」

「いや、待っ、まだ……ぁっ、ぁあああっ!!」

 片手で腰を掴まれたまま上下に激しく動かされて、身も蓋もなく喘ぐ。もう熱くてぼうっとして気持ちよくて何も考えられなかった。先端からは既に何回も出した筈なのに白濁した液体が零れ出て、腰が揺れるたびに腹にかかった。

「やあっ、あっ、ぁあっ…!」

 律動のたびに高い声が口から出て、恥ずかしいと思う間もなく動きを速められた。どんなに待ってもらったって体は興奮を止められないんだから正しい判断なのかもしれないけれど、ひどい、と思った。でも、そう思う心に反対して立ち上がった性器からはもう色の薄い液体が留まる事なく溢れ出た。

「あっあッ、あ、あああ…っ、ひ、ぅ、ん」

 腸壁でどぷどぷと注ぎこまれて、搾りとるようにぎゅうぎゅうと腰がうねる。出しきった兵長がずる、と引き抜こうとしたのに反応して声をあげたら、やっぱりまだ自分のは勃っていた。前戯と合わせたら何回出したのかも覚えていない。でも、まだ反応する。腹の中心はあっつくて、鈍い快感が膨れ上がっていく。
 兵長はそんな俺に溜息をついてまた奥に、一気に押し込んだ。

「ひゃぁっ」

「おい、エレン。薬の効力は何時間分だ」

「にっ、24時間と聞いたんです、が……15m分の170cm、なの、で」

 そもそももう断片的にしか覚えてなくて、どの状態で24時間なのか分からないし、突っ込まれたまま冷静に考えるのは無理そうだ。
 俺の言い分に兵長は呆れた顔をして残っていた膝も持ちあげて両足を開脚させた。恥ずかしくて身を捩るとぴったりと嵌っているはずなのに更に奥までぐいぐいと捻じ込まれた。

「お前……一人でどうにかしようと思ったのか? 鎮静剤は?」

「は、ハンジさんが……っ、ふ、ぅ」

「アイツが?」

「この場には、ない、って…」

「で?」

「え?」

「お前は獣みてーに発情した体かかえてどうする気でいたんだ?」

 こんだけ出しても萎えてねえくせによ、と耳元で囁かれて勃起したソレの亀頭に爪をたてられて本当に獣のように喘いだ。しつこく弄られて兵長の手に出してしまっても、少し上下に動かされればまた勃ちあがるそれにもう羞恥と恐怖で泣き叫びそうだった。

「おい、エレン。質問してるんだ、答えろ」

「前に、貰った……睡眠薬が、ある、のでっ」

「それで眠ろうとしたのか?」

 眉がぴくりと動いて前をぎゅうっと握られて、背筋がしなって後ろで兵長のモノを締めつけてしまった。それで大きくなって、唇を前歯で噛まないようにしながら(自傷行為だけは避けたいと考えられるくらいには落ち着いてきた)身を捩る。

「お前に支給された睡眠薬は一般の物とはわけが違う」

「は、い」

「興奮作用のある薬との併用はご法度だったと思ったが?」

 ざあっと、頭から血が下って行く。併用がいけないというのも確かにあるのだが、目の前のそれは楽しそうな笑顔に身を案じて。

「躾けがなってねぇなあ」

 兵長は、嫌味っぽく笑って俺を舐めるように見詰めた。

「躾がなってねえ駄犬には、調教しなきゃいけないよな。なあ、エレン?」

「…は、ひ」

 真っ青な顔で滑舌も悪い俺に、兵長は喉元でくつくつと笑ってそれは楽しそうに俺の喉元に唇を寄せた。

「躾に一番効くのは、何だと教えた?」

「いたみ、です」

「いい子だ」

 兵長はそのままがり、と噛みついた。俺はそれに小さく声をあげ、軽く達してしまった。

「だが、痛みが快感に変わるようじゃ――どうするべきか。なあ、エレン」

 教えてくれよ。囁いて舌で耳をなぶる兵長に、俺は快楽と恐怖で震えが止まらなかった。そんな俺に、嗜虐に濡れた悪魔のように彼は笑った。



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