雑誌

「・・・ファッション誌?」
「うん。玲奈から貰ったの。勉強しなさいだって。」
昼休みの時間。
軽食程度の昼食を済ませた瑠衣がペラペラと捲る本には同じ年齢くらいの人間達の写真が載っていた。
よく分からないポーズを決めるそいつらの横には服の値段やコーディネートのポイントなどが記載されていて。
「何の勉強?」
「・・・・なんだろう?」
あまり興味なさそうにコンスタントにページを変えていく瑠衣も、この雑誌で何が学べるのかが分かっていなさそうだった。
「とりあえず、全ページに目を通しなさいって言われたの。」
「・・・なるほど。」
お互い紙パックを片手に持って、無駄な写真ばかりが並ぶ雑誌が語る利益となる知識が何なのかを探る。
「・・・レイアウトの仕方とかかな?」
「参考になる?」
「ならない。」
最早謎解き。
確実にテストより難しい問題の答えはなかなか見つからず。
「・・・綺麗なウエストラインを作る体操・・・私、太ってる?」
「いや、全く。」
「・・・じゃあ、違うかな・・・・」
「・・・デトックスティーの効果は?」
「カフェオレ以上にデトックス効果のある飲み物はないよ?」
「だよね。」
駄目だ、分からない。
未だに価値を見い出せない雑誌はもうすぐで終りを見せそうで。
「・・・・・。」
「・・・・終っちゃった。結局何を勉強すればいいのか分からなかった。」
「・・・そうだね。」
瑠衣が見事にスルーした最後の方に載っていたコーナー。
多分だけど、瑠衣の友人はそれを瑠衣に読ませたかったんだと考えられて・・・
「何読んでんの?」
「雑誌。これを読んで勉強しなさいって渡されたんだけど・・・奏はこれで何が学べるか分かる?」
「勉強ねぇ・・・」
瑠衣から渡された雑誌を飛ばし飛ばしに眺める奏なら、気が付くかもしれない。
そして、絶対に悪巧みとしてそれを振って来るだろう・・・
数秒後の奏の顔が予測できた俺は、できるだけ無関係を装い流れの速い雲を見上げた。
・・・雨が降りそうだな。
「あー・・・・そういうことね。」
「分かったの?」
「勉強と言うよりは・・・そうだね。試してみましょう的な内容だよ。」
「試してみましょう?」
やはり、気が付いたか。
奏の楽しげな声は厄介な音にしか思えず、眉間に皺を作りそうになる。
「これこれ。折角だから、外を眺める秀麗な男にこれを試してみてよ。」
「・・・これって、何かの意味があるの?」
「大ありだよ。」
もう、本当に厄介だよね。
何が起こるのかは分からない。
内容を詳しく確認したわけではないから。
けれども次に瑠衣が起してくれる行動によって自分に襲いかかる未来が分かるから、変な緊張感が自分に巡っていて。
「・・・ねぇ、帝?」
チョンチョンとカーディガンの袖を引っ張ってくれた瑠衣を怖々横目で見てみると、大きな瞳が俺を絶妙な角度で見上げてくれていた。
「・・・どうしたの?」
摘ままれたままの袖も控え目な上目遣いも文句なしに可愛い瑠衣が怖い。
ドキッとしている俺の心を知らない瑠衣は反対の手で十分近い距離にいる俺に更に近付いて来るように指示を出してきた。
「耳貸して?」
術中にどっぷりと嵌っている俺を面白そうに眺める奏を疎ましく思いながらも首を傾げて言われたお願いに素直に答えると・・・
「帝のフワフワの髪と、優しい目が好きです。」
耳元でコソリと伝えられた内容に完全に身体が熱くなった。
逃げることを許されない至近距離をどうやり過ごすか。
「耳真っ赤!」と笑ってくる奏のことを睨む余裕も残されていない。
それでも、やられっぱなしは悔しくて。
顔が火照る俺を不思議そうに見つめる瑠衣の後頭部に手をまわした俺は瑠衣の耳に口元を持っていく。そして、
「俺は瑠衣の全てが好き。」
小さいボリュームでシンプルな気持ちを伝えた後に仕返しとして軽いキスをしてやった。
「ッ!?」
「・・・こんな所で、色気振り撒かないでよ・・・」
そっと顔を離すと瑠衣は慌てて耳を手で押さえ顔をほんのり赤に変える。
「耳は、駄目だよ・・・」
「・・・何で?」
「何か・・・駄目だった・・・」
「なるほど。」
「・・・俺の存在、忘れてない?」
前々から知っていた瑠衣の弱点に今気が付いたフリをして。
「瑠衣が男を落とす技を使ってくるのがいけないんだよ。」
「・・・落ちた?」
「既に落ちてる。」
確信犯なのかと疑いたくなる瑠衣に訂正を施し。
「とうの昔から、瑠衣が好き。」
キュッと口を閉じた可愛い瑠衣を飽きることなく見つめ続けた。


甘さの中にいる二人に奏の声が届くことはなかった。


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