くゆる紫煙に、少し甘くて苦い独特の匂い。不意にギャリーの元を訪れたルナは、眼前に広がる光景に僅かながら眉を顰めた。

「やめるって言ってなかったっけ」
「ついさっきまでやめてたのよ」

対するギャリーは少しばかり困ったように眉尻を下げて肩を竦める。その間にもルナはヒールの音を響かせながらギャリーとの距離を詰めていき、「さっきまで、ねぇ」とどこか冷ややかな視線を投げた。

「何日間?」
「そうね……一週間ってところかしら」
「……ほんと、長続きしないよね」
「仕方ないじゃない、口寂しいんだもの」

あっけらかんと開き直った様子を見せる相手に溜め息を零す。既に手の届く範囲内に座るギャリーに腕を伸ばしたルナは、彼の口から今の話題の種である煙草を奪い取って自分でくわえた。

「身体に悪いわよ」
「わかってるなら禁煙しなさいってば」
「ルナは女の子なんだから」
「男女差別はんたーい」

言いながら、今度はルナが紫煙をくゆらせる。先程とは立場が逆転。ギャリーが彼女の口から煙草を抜き取り、そのまま灰皿に押し付けた。

「あーあ、消しちゃった」
「……アンタ、アタシにタバコやめさせたいんじゃなかったの?」
「もちろんタバコはやめるべき。私も今禁煙中だし?」
「あら、禁煙してたなんて知らなかったわ。でも、今吸ったので禁煙失敗なんじゃ、」
「そんな細かいことは気にしないの、男でしょ」

けらりと笑ったルナはポケットから黄色い包みをふたつ取り出して、その片方をギャリーの手のひらの上に落とした。

「……なにこれ」
「何ってキャンディだけど?」
「それは見たらわかるわよ。そうじゃなくって……」
「口寂しいなら、煙草の代わりにどーぞ」

自分の手に残った方の包みを開き、現れたキャンディを口に放り込みながら言う。

「これは私の禁煙の相棒なの」
「ふぅん」

相槌を打ちながらギャリーもキャンディの包みを解いて口に含んだ。口内に広がる仄かな甘味は確かに美味しさを感じさせる。

「……悪くないわね」
「でしょ?持ってると、案外タバコの代わりになるもんだよ」

再度ポケットに手を突っ込んだルナは、手のひらいっぱいのキャンディを取り出した。反対の手でギャリーの腕を強引に引き寄せ、その手のひらの上にキャンディを渡しながら彼女は言う。

「これで一緒に禁煙しよーよ、ギャリー」

自分の手の中にある、勝手に渡されたたくさんの黄色いキャンディ。それを少しの間眺めてから、降参とばかりにギャリーが淡く笑う。

「そうね、頑張ってみるわ」
「ま、今度はキャンディ中毒になるけどね」
「……それってどうなの?」
「いいんじゃない?煙草よりは健康的だし」

来た時と同じようにヒールの音を響かせながら出口へと向かうルナは、最後にギャリーを振り返って悪戯に笑った。

「このタバコは私が責任もって吸っといてあげるから」










nicotine addiction


「ちょっと、いつの間に抜いたのよ」
「キャンディと交換に、ね」
「このままアタシにだけ禁煙させる気じゃないでしょうね」
「大丈夫、これだけ吸ったらすっぱりやめる」
「……まったくもう」



20120610


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