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「結婚指輪って、大切な人からもらう特別な指輪?」

私の手のひらに載る指輪を見つめながら、イヴが首を傾げる。彼女の両親はそう説明したのかと思いながら頷くことで肯定すると、途端にイヴの瞳が輝いた。

「……わたしもほしいなぁ」
「大丈夫、イヴは絶対もらえるよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと。もうちょっと大きくなったら、こうやって……ね」

憧れの眼差しを向けるイヴを見て、やっぱり女の子だなぁと思う。イヴの左手を取り、その薬指に指輪をはめる真似をしてみせる。「そっかぁ」と嬉しそうに自分の薬指を眺めたイヴは、そのまま私へと目を移した。

「リーシャは結婚指輪、ほしい?」

とても直球な質問に、思わずきょとりとまたたく。まさかそんな風に聞かれるなんて思わなかった。……結婚指輪、かぁ。

「いつかそんな機会があったら素敵だよね」

イヴ相手に適当なことを言うのは気が引けたので、正直に答える。別に結婚願望が強い訳ではないけれど、そういう幸せに憧れがないという訳でもない。女の子なら誰でも一度はウエディングドレスを着てみたいと思うものだし、指輪の交換だってもちろん憧れるのだ。

「高価な指輪じゃなくてもいいから、2人で大事に選びたいなぁ」
「もらうものなのに、自分でも選ぶの?」
「結婚指輪は大切な人と交換する指輪だから、あげる指輪でもあるの」
「じゃあ、男の人がつけるみたいな指輪しかもらえないの?」
「んー……婚約指輪なら、きらきらしたかわいいのをもらえるんじゃないかな」
「婚約指輪?」

次々と質問を重ねて小さく首を傾げるイヴは、こういうことが気になるお年頃なのかもしれない。期待を込めた瞳で見つめられてしまったら説明しない訳にはいかなくて、私にわかる範囲でできるだけ答えてあげることにした。



「――うん、そんな感じかな」
「ふぅん……ありがとう、リーシャ」
「いえいえ。……よし、この話はこれくらいにして」

一通り簡単に説明をしてから、話を本題に戻すために一度仕切り直す。無意識に左の薬指、指輪が収まるべき場所に触れている自分に驚いて慌てて手を離した。

「今はこの結婚指輪をどうするか、だね」
「あの花嫁に渡せばいいんじゃないかしら。ほら、黒い腕があったでしょ?」

すると、今までずっと黙って私たちを見守っていたギャリーが口を開いた。

「あ、ギャリーが喋った」
「あら、喋っちゃまずかったかしら?」
「そうじゃないけど、さっきから静かだったから」
「そりゃあ、女の子2人のかわいい会話に加わるのは気が引けたんだもの」

そう言って微笑ましそうに笑うギャリー。たしかに女の子特有の話題だったのかもしれないけれど、彼なら何の違和感もなく参加できそうなのに。もしかしてあんまり好きじゃない話題だったのかなぁと心配になったりもしたけれど、彼を見れば本当に微笑ましく思ってくれていたことは明らかだった。

「……意外だなぁ」
「意外なのは、リーシャも案外女の子だったってことね」
「……!」
「かわいいとこあるじゃない。2人で大事に選びたい、だなんて」

改めて繰り返されると、恥ずかしさがこみ上げてくる。余計なこと言うんじゃなかった。ふいっと顔を背けると後ろからくすくすと笑い声が聞こえてきて、更に顔が赤くなる。

「意外とか案外とか、失礼しちゃうなぁ」

苦し紛れにそんなことを言ってみたけれど、

「ふふ、ワザとよワザと。リーシャはちゃんとかわいい女の子だもんね」
「(は、はめられた!)」

あっさり返されてしまうとぐうの音も出ない。そんな私を見て笑みを深めるギャリーから逃げるようにくるりと踵を返し、部屋を出てすたすたと『嘆きの花嫁』の元へと向かう。

「見つけてきたよ、大切なもの」

相変わらずなにかを欲するように指を動かしている『悲しき花嫁の左手』を一瞥してから花嫁に声をかけると、黒い手はぴたりと動きを止める。その薬指にそっと指輪を通したら、途端に空気が柔らかくなった。

「ギャリー、リーシャ」

壁にかかった花嫁、花婿の絵を見つめたイヴが声を上げる。促されるままにその絵を見やると、そのタイトルが『嘆きの』から『幸福の』に変化した、本当に幸せそうな2人が描かれていた。





20120805



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