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「リーシャ!」

青い薔薇が花瓶の中で元気を取り戻した後、私の薔薇も花瓶に活けてからイヴたちの方に戻る。足音に気付いたイヴがこっちを振り返って瞳に安堵の色を浮かべた。その向こうにはしっかり身構えた紫色の人。

「な……まだ仲間がいたの!?」

完全に警戒されてしまっている。でもまあこんな場所にひとりぼっちで、変な女に追いかけ回されたんじゃ仕方がないよね。顔色はよくなったみたいだし、とりあえずほっと息を吐く。

「よかった、気が付いたんですね」
「……え?」

きょとりとまたたく男の人。まだ少し気が動転してるみたいだけれど、私とイヴのことをきちんと認識してくれたらしい。警戒が少しずつ解けていく。

「あ……あれ?もしかしてアンタたち……」
「そ、ちゃんと人間ですよ」
「わたしもリーシャもあの美術館にいたの」
「ああ、良かった!アタシの他にも人がいたのね!」

さっきと様子が一転、ぱっと表情を明るくして声を弾ませる男の人。あれ、この人、話し方が……。ちょっとした衝撃が走る。

「女の子2人でこんな気味の悪い場所を歩いてきたなんて……大したもんだわ」

容姿はとても整っている。はっきり言ってかっこいい。でも笑った顔はかわいらしくもあったし、何気ない仕草も女性っぽい柔らかさがある。わあ、実際に会ったの初めてだ。変な絵をずっと黙って眺める姿を見ていたし、怖くて無愛想な人だったらどうしようかと思っていたけれど、全然そうじゃなかったことに安心した。まあびっくりはしたけれど。

「ううん、わたしはリーシャにいっぱい助けてもらったから」
「そんなことないでしょ?私だってたくさん助けてもらったから、おあいこ」

私が少し意識をそらしている内に力なく視線を落としてしまったイヴの頭をそっと撫でながら、「ね?」と首を傾げる。少し困ったように視線を泳がせてからおずおずと頷く姿を見ると、思わずぎゅっと抱きしめてしまった。

「……かわいいわね、アンタたち」
「え?」
「ん?」

イヴと私はほとんど同時に男の人の方を振り返る。何を言ったのかはまでは聞き取れなかったので、問いただすような視線を向けてみたけれど笑顔で軽く流されてしまった。

「……さて、まずは自己紹介しときましょうか」

仕切り直すような男の人の言葉を合図にして、私は名残惜しさを感じながらもイヴから離れて3人で改めてきちんと向かい合った。

「アタシはギャリーっていうの。堅っ苦しいのは好きじゃないから、敬語なんて使わなくていいからね」
「わたし、イヴ。お父さんとお母さんと一緒に美術館に来たのに、気づいたらみんないなくなってたの」
「私はリーシャ。イヴとは少し前にこの不思議な場所で会って、一緒に出口を探してるところ」
「イヴにリーシャね。よろしく」
「よろしくね、ギャリー」
「よろしくー……、あ」

それぞれがそれぞれの名前を把握したところで、うっかり大事なことを忘れていたのを思い出す。途中で言葉を切った私を不思議そうに見つめるふたつの視線をちょっと気まずく思いながら、大事にしすぎていつの間にかそこにあるのが当たり前のような気がしてしまってさえいた青い薔薇を胸の前まで持ち上げて示してみた。





20120619



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