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  真島吾朗編


【白いミモザをあなたに】

「どうしたの?こんな夜遅くに?」

「ちょっと椿の顔を見たかっただけやけど、あかんかったか?」

「ううん。嬉しいよ。早く入って。」

恋人の突然の訪問。それもかなり夜も遅い時間。こんな時間になるのであれば連絡のひとつくらいいつもはあるのだが、今日はなかった。よっぽど急いでいたのだろう。少し息を切らせた真島さんを家の中に招き入れる。

「ビールにする?」

「あぁ。一緒に飲むか?」

「うん。ちょっとだけね。」

缶より瓶の方がええと言っていたのを以前聞いてから常備するようになった瓶ビール。真島さんが来たときようのビールだ。一人の時なら缶しか飲まない私も真島さんと飲むときは瓶一択になる。

グラスと栓を抜いたビールをテーブルに置くと、真島さんはさっと目の前に何かを取り出した。

「わぁ。綺麗…。」

真島さんが花を持ってきてくれたのは初めてだった。綺麗やったから買うてきたと言われて差し出された花束はミモザだった。春の花で今の時期にピッタリな花。

「ありがとう。大切にするね。」

「花ひとつでそんだけ喜んでくれるならなんぼでもやるわ。」

「真島さんからもらったものは全部大切なものです。」

「そうか…。」

さっきまでは殺風景だったテーブルに彩りが。真島さんのグラスにビールを注ぎ、私のグラスにビールを注いでくれる。すぐに乾杯をして一気に飲み干す。うん、やっぱり瓶の方が美味しいかも。そんな事を思っていると、真島さんの手がすっと伸びて私を引き寄せる。

「ええやろ?」

「初めからそのつもりだったんですよね?」

「せや。俺はせっかちな男やからな。」

思わずくすりと笑うが、すぐに唇は塞がれて吐息に変わる。私は知らなかった。この花の意味を。その意味を知るのは後日。

「真島さん…。」

怪我をして運ばれたと知ったのはその翌日。聞けば大きな抗争があったようだ。そして思う。あの白い花の意味を。

死に勝る愛情。

それがミモザの白い花の意味。気になったので真島さんがいなくなった後調べてみたのだ。白い花には毒がある。私はそうとも知らずにいつも通り嬉しく受け取っていたのだ。真島さんにとってはある意味死を覚悟した最後の1日だったのだろう。だからこそ、あの白い花を私に託したのだ。

「なんで泣きそうな顔してんねん。この通りピンピンしとるやろ。」

「真島さんの馬鹿!」

「いきなり説教とはひどい女やのぅ…。」

笑うと痛むのか少し眉をしかめている。私は一気に自分に巻き起こる感情についていけない。心配、不安、喜び、安心。全ての感情が入り混じっている。そう、本当に言いたかった言葉はこれだ。

「真島さん、愛してます。」

「そんなん知っとるわ。」

そう言いながらも嬉しかったのが抱き寄せられて口づけが落とされる。そして思う。今度真島さんが家に来るときは黄色のミモザの花を部屋に飾っておこうと。



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