「椿、帰ったで。」

「お帰りなさい。吾朗さん。」

玄関に歩いて向かうと真島さんはにやりと笑みを浮かべ、懐かしいのぅと一言。そう、お祭りと言えば浴衣。去年もらったあの浴衣に私は身を包んでいた。

「なんや、お触り禁止なんか!」

抱きしめてこようとした真島さんの手を制してまずはお風呂に入ってきてください。と一言。そう、これは私の準備。真島さんには真島さんの準備が用意してあるのだ。

「フン、後で散々啼いてもしらんからな!」

「…………。」

どんな捨て台詞だ。これは明日の私の身も心配しておかなければいけないと思いながら準備していたおつまみなどをベランダに運んでいく。うん、いい感じだ。あとは主役の登場を待つだけ。

「なんや、ええ物用意してくれたみたいやなぁ。」

いつもならもう少し長めに入っている筈なのに今日は早くでてきた真島さん。そしてその姿を見て思わず黙ってしまう。

やっぱり真島さんって狡い。
何を着ても似合う。
追加で急いで買ってきたので似合うかどうか心配だったが、さすが真島さん。甚平姿もすごく素敵だ。でも、言葉にしてしまうと何だか負けたような気がする。

「今日はベランダで食べましょう。」

そう話してキッチンに。紅い顔をそっと隠して。まだまだ夫婦であれどこういった初心な気持ちは自分に中に持っておきたいとそんな風に常に思っている。何事も新鮮さが大事だ。

「じゃあ、今日もお疲れ様でした。」

缶をセットしてビールをグラスに。グラスも冷やしてあるので絶対美味しい筈。真島さんは何や、これと驚きながらもお店で見るやつみたいやなぁと喜んでいる。そう、この笑顔が見たかったんだ。やっぱり私はこの人の奥さんで良かったと思えるのはこの瞬間なのだと思う。この人の喜ぶことなら何でもしてあげたいと思うのだ。

「たまにはええのぅ。こういうのも。」

「そうですね。」

夜空を見ながら家でお祭り気分を味わうのも悪くない。そして真島さんはこれは何やと聞いている。

「要らないかと思ったんですけど欲しかったんで。」

「懐かしいのぅ…。」

私が買おうか悩んで買ってきたのはふわふわ氷が作れるかき氷器。
真島さんに食べるか聞くと食べると意外な答えが返ってきた。氷をセットして用意していた蜜を並べる。

「なんや、昔のと違って一瞬で溶けるのぅ…。」

「ほんと、ふわふわでおいしいですね。」

さっきまで汗ばんでいた身体が一気にクールダウン。舌の上にのせると氷はたちまちなくなっていく。

「吾朗さん、舌が緑色になってますよ。」

「ゾンビみたいでええやろ。」

嬉しそうにぺろっと舌を出す真島さん。抹茶味が好きなようであんこと練乳をかけた豪華な和のかき氷。

「椿も見せてみ。」

「え、嫌ですよ…。」

「ええやないか!」

そう言われて渋々見せると赤やのぅ…と一言。私は定番のイチゴミルク。やっぱり練乳にはイチゴが一番。そう思っていると腕が引かれてさっきまで冷たかった舌が熱を帯びる。

「イチゴ味もええのぅ…。」

変わらず真島さんは真島さんだ。イヒヒと笑いながらさっきの言葉覚えとるやろと言っている。さっきまでは普通だったのに。どこでスイッチが入ったのかは分からないが一端入ったスイッチは止められない私達。

「仕方ない旦那様ですね。」

そういって真島さんの唇を塞ぐ。外からはどこかでやっている花火の音がうっすらと聞こえる。結局、祭だ夏だと言っても最後は欲になるのが私達夫婦の日常なのかもしれない。








「吾朗さん、ここは外なんで続きは中で。」

「夏やし誰も見とらんやろ。」

「嫌です。」

「ええやないか!」

そういって押し問答をする私達。イヒヒと笑ってええやろと言っている。うん、さっきは何でもしてあげたいと思っていたが前言撤回。やはり締める所は締めないといけない。
そう、極妻なんだから。


ふわふわあまい




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