※付き合っていた頃の話

私の彼氏は普通ではない。
どこから説明したらいいのか、要は極道で背中にがっつり般若が掘られている人。
そして彼と出会ってから私は他の人とは違った生活をしている気がする。

[季節外れの気圧の影響で今日は風がとても強く、また雨の量も増えています。その影響で都内の交通機関は現在ストップしている状態になっています。また不要不急の外出は控えておいた方がよいでしょう。]

ガタガタの揺れる窓、そして打ち付ける雨。
今日は来るのは無理そうかなと思いながらも連絡が来ない彼氏こと真島さん。
明日は休み取れたから椿の所いってもええかと連絡が来たのが昨日のこと。
昨日は普通の天候でまさか今朝起きてこの様な状況になっているとは露とも知らず、朝起きて真島さんに無理なら今度でもと送ると勿論行くでと来てから返信はない。

他の人よりも頑丈にできていそうな真島さんだが、さすがにこの天候には勝てないだろうと思いながら連絡がつかないことが不安になってきた。

そしてTVに目を向ける。

[こちらの川ではすでに増水が始まっていて今の所氾濫の兆候は見られていないようです。しかし危険な為、川に近づくのはやめておいてください。]

こんな時に川に行く人の心理とはどういうものなのだろう。
そう思いながらも映像を見て、あ!と思わず声をあげてしまう。

何、やってるんですか!真島さん!

TVの画面には嬉しそうに画面に手を振る真島さん。
いつもの目立つ格好で傘を振りながらピースサイン。
はぁと大きなため息をつきながらもこの後に家に来るかもしれない彼氏様の為にお風呂の準備をし始める。

◆◇◆

さっきよりも風が強くなってきている。
ガラスがぴしぴしと音を立てて部屋も少しだけ揺れている。
そして来ない真島さん。

溜息をついていると、外から騒がしい音がして嫌な予感がしてドアを開けるとそこには濡れネズミの真島さん。
持っていた傘はボロボロでほんと、何やってるんですかの状態。

「無理してこなくても良かったんですよ。」

「約束は約束やからな。」

きっちりとした彼氏。いや、ヤクザだからか。そんな事を思いながらもとりあえず、玄関にいてくださいと告げてタオルを取りに。
随分濡れたのかくしゃみをする音がして、風邪でも引かれたら困ると思いながらタオルを渡して拭いていく。

それにしても…。

水も滴るいい男とはこういうものなのか。
それとも黙っていたらいい男なのか。
見惚れてしまう。

「服はすぐに洗うんで、お風呂に入ってください。」

「椿も一緒に…!」

高まる気持ちをそっと抑えて肩までしっかり浸かるんですよ!とお風呂場に押し込みドアを閉める。どうせ、風呂に入るだけですまないのは分かっているので何かを言っている真島さんを置いて部屋に戻る。
部屋も暖かくしておこう。
本当に子供みたいな所があるなぁと思いながらも一番の嵐は真島さんなんじゃないかと思う。

「上がったで!」

そう言いながらタオル一枚の真島さんに、また溜息を吐きながら濡れた髪を拭く。
真島さんはどうせ、すぐ脱ぐんやからええやろと言っているが、その言葉はとりあえず聞かなかったことに。
さっきまで少し1人で不安だった気持ちは真島さんが部屋にくることで変わり、それが安心になる。不思議な人。
そう思いながらも素敵な彼氏様とのおうちデートを楽しもうと思った。










「真島さん、電気!」

「お、停電やな。」

いや、停電とか困りますから。
暗闇の中から懐中電灯を探す。
真島さんはのんびりと煙草を吸いながら余裕の笑み。

「なんでそんな余裕なんですか。」

「椿、NYってよう停電するらしいんやけどな、その時カップルは何して過ごしてるか知っとるか?」

「寝る?」

「ちゃうわ!」

そう言いながら、距離を近づけてくる真島さん。
え、この状況でするの?
そう思いながらも、いつもとちゃうのもええのぅと言っている。
おうちデートとは…。
ガタガタと揺れる窓、打ち付ける雨、そして暗い室内。
そして笑う狂犬。

私の日常は常に非日常になっているのかもしれない。



1.風の強い日




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