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  同じキモチ


ここ最近真島組は少し騒々しい。
植松さんの裏切りに始まり真島さんは東城会を抜けるといった一悶着がありそこから真島さんはちょくちょくと蒼天堀に顏を出していた。

勿論彼女である私はその一連の流れを一番近くでみていた。
でも、彼女であったとしても埋められないものがある。

過去。

真島さんからは蒼天堀にはええ思い出がないと言っていたのを聞いていた。
だからこそ私はあえてその事については触れなかったし、聞くのを避けていた。

面倒やのぅと言いながらも真島さんが大抵何かに忙しくしている時は自分のことではなく他人の為に何かをしている時だ。
真島さんのその優しさは彼女である私が一番よくわかっているはずだけど…。

連絡がないんですけど!

ここ最近は電話にもでることもなくメールも1日に1通くればいい方だ。
それもご飯ちゃんと食べとるか?の簡単なもの。
食べてますよと返しながらも真島さんの事が気になって喉が通らない。

そうだ、蒼天堀に行こう!

某CMではないが、一度行ってみたかった場所だし、このままうじうじとこの部屋にいても埒が明かない。それに真島さんの驚く顏も見てみたい。
そんな事を考えながらいそいそと準備を始める。

◆◇◆

ここが蒼天堀。
神室町も派手な看板などが多いがこちらの方が更に派手で目立つものが多い。
おいしい食べ物のにおい、行き交う人の話声も賑やかでその場に立っているだけで気分が弾む。

色々と食べたい物、見たいものがあるがここは我慢。
そう、私の目的は真島さんを探すこと。
目立つ風貌だし歩けばすぐ見つかるだろうと高をくくっていたのがよくなかった。

見つからない。

歩き疲れて立ち寄った喫茶店で大阪名物と書かれたミックスジュースを飲みながら街を見る。どこにいるんだろう、真島さん。真島さんの風貌も神室町ではかなり目立っていたが、この街ではもっと派手な柄を着こなす人がたくさん。見つからなかったら連絡すればいいか…。そんな事を思っていると、

真島さん!!

見慣れた背中と少し癖のある歩き方。
逸る気持ちを抑えながらお会計を済ませ、店の外へ。

でも…。

「真島さん!お酢買ってきてくれました?」

「すまんのぅ、ユキちゃんまた見つからんかったわ。」

ほんと、お使いくらいちゃんとしてくださいよと言われながらも真島さんは楽しそうに話している。
逸る気持ちから一気に萎む気持ち。
そのまま、私はその場をしばらく動けず目の前を見ていた。

◆◇◆

真島さんのクソったれ!

と思いながらもこの流れる汚い川をみるとまるで今の自分の気持ちのようだ。
底も見えずドロドロと黒い。

浮気ではないと思う。
でも、あの親しげな雰囲気をみると昔の知り合いな気がしてならなかった。
私よりも年上で可愛らしい女性。
やはり人の過去というのは開けてはいけないパンドラの箱のようなものなのだろう。

もう何度もついた溜息を吐きながら帰ろうかなと思い立ち上がる。
結局、私は何をしにここまで来たのだろう。
ほんと私、馬鹿だ。


「ネェちゃん、これからどこ行くの?俺らとお茶せぇへん?」

「…………。」

巌橋を歩いているとふいにかかる声。
ほっといてくださいというと1人やと寂しいやろと返答。
そう、関西男というのはしつこい。神室町なら適当に無視していれば済む。
聞きなれているはずの関西弁が今は不快にしか感じない。

「まぁ、固いこといわんと、着いてきたら楽しいで!」

そう言われ、腕を掴まれる。
私は咄嗟に振りほどき、相手の男は派手に転ぶ。
いったぁ、どないしよ、腕とれてもうたでとか言っている。
腕、ついてますけどと思いながらも無視しながら私は歩く。

「ネェちゃん、おふざけも大概にせんと痛い目あうで。」

さっきとは違うトーンになった輩に足がふと止まる。
そして再び掴まれる腕。
さっきよりも強くて簡単にほどけない。
本当に何をやってるんだ、私は。
こんな事なら大人しく神室町にいればよかった。
抵抗するのを諦める。

「嫌がっとるのに無理やり連れていこうとするのは空気が読めへん輩のぅ。」

聞きなれた声。そしてその声はいつもの優しい声ではない。
なんやねん、オッサンと言われた真島さんはあっという間に輩を地面にたたきつける。
その姿はあまりにも一瞬でかつ綺麗。思わず周りの人も拍手を送っている。

「椿、何やっとんねん。」

「真島さん…。」

久し振りに見る真島さんの顔は少し険しく私を見ていた。

◆◇◆

なんで、電話にでないの?
あの女の人は前の彼女?
私のことはもうどうでもいいの?

色々な事を聞きたいのに本人を前にしたらなにも言えなくなってしまう。

「…怒ってますよね?」

「半々や。」

半々。どういうこと何だろうと思いながらも口調は先ほどと違っていつものような穏やかか感じ。
静かに真島さんは煙草に火を点けながら深く煙を吐く。そして真島さんは話す。
かつてのオーナーをしていたキャバクラで一緒に働いていた仲間の危機を聞いて手伝っていたこと。すぐに用事かすむと思っていたのに存外かかってしまったこと。下手に連絡をしてしまうと心配をかけてしまうこと。椿が蒼天掘にきてしまったら近江のヤクザも多いし危険な目にあってしまったらどうしようかとおもっていたこと。

「…椿の声聞いてまうと他の事が手につかんくなってまうからのぅ。」

「真島さん…。」

だからはよ終わらせて帰ろうと思って連絡してなかったんやという真島さんの言葉を聞きながらちゃんと自分の事を考えてくれていたのになんで私は軽率なことをしてしまったんだろう。
ほんと自分のことばっかり。そう思うと涙が零れる。
何で泣くねんと言いながら真島さんは私をそっと抱きしめる。
久し振りのその温もりはやっぱり私の知っている温もりだった。

「そしたらどっか行くか?」

真島さんの蒼天堀の用事も今日で済んで帰ろうと思っていたちょうどその時に私が絡まれていたのを通りかかったそうだ。

行きたい場所。
たくさんある。
でもすぐには思い浮かばず考え込んでしまう。

「そしたら城行くか?」

「城?」

真島さんはイヒヒと笑いながら私の手を取る。
果たして久し振りのデートの場所とは。












「真島さん、ここのどこが城なんですか?」

てっきり有名な大阪城かとおもいきや派手なネオンの外観。

「名前に城が入っとるやろ。」

「キャッスルとは書いてますね。」

嬉しそうに部屋を選ぶ真島さんをよそに今日はここで観光が終わりなのかと思いながらも私は真島さんとの久し振りの時間を楽しむことにした。



ひまり様

リクエスト頂きありがとうございました!
夢主ちゃんと真島さんの関係性が書いていなかったので勝手に恋人設定にしてみたのですがいかがでしょうか?付き合う彼女のことを大切に兄さんはしそうかなと思ってこんな感じになりました。きっとお城でも愛されたのかなと思いながら。
引き続き色々と更新していきますのでまた読んで頂ければ幸いです。


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