危険を伴う終着駅

例えば小さい頃思ったことがある。
確実にこのまま歩いていけば危険がある。でもそれがわかっていても試してみたい、危険を冒した先に。
そしてその危険を冒したことにより経験がうまれ次からは同じ失敗しない。

では、それが大人になったらどうなるだろうか?
大人になってしまうとそれが姑息になって危険を冒さないように先に安全な道を用意する。
そして失敗をしないようにする。

それでも、私は危険だとわかっていても冒してしまう。

彼から与えられる感覚は私の中にある未知の快楽を与えてくれる。
それがいつの間にか当たり前になっていて必然になっている。
それなしじゃ今は駄目になってしまいそうなくらい依存している。

「はい、高城です。殺しですか?わかりました。すぐに向かいます。」
少し声を抑えて私は電話を切ると横から腕がそっと伸びてくる。

「仕事かいな。相変わらず忙しいのぅ。」

そうだね。それが私の仕事だからね。巻き付いた腕を軽く払い私は身支度を簡単に整える。
さっきまでの荒々しかった情事がまるで嘘だったかのように淡々と準備をしていく。
鏡の前で妙な部分がないかチェックしていく。勿論煙草の匂いも。
項をそっと見ると赤黒くなっている部分がみえる。いつの間につけたんだ感じながらも髪を束ねることを今日は諦める。

ほな、またな。そういって項の部分を指さす。
やはり、分かっていてやっていたのかと思いながら腹立たしさが芽生える。

◆◇◆

警察とヤクザ。
相反するような関係だが、不思議なことにこの2つの関係は相反しているようで実はつながっている。この神室町では特に。
繋がっていることでこの街の安定は測られ、彼らは自由に行動し、私達は監視することができる。
この事実を知ったとき、私はひどく警察に対して不信感をもった。だが、徐々に私も組織という檻の中で飼いならされていく。そして私もこの組織の中にどっぷりと浸かってしまっている。

警察組織において昇進試験をパスすることが昇進への近道だが、それと共に推薦がある。要はいかに多くのホシをあげることだ。
誰よりも早く出世して高みに昇りつめたい。そう思いながら私はある日、ふとした噂を耳にした。
賽の河原と呼ばれる場所。そこに行けばどんな情報でも教えてもらえるという。
私は必死になって場所を突き止めた。
そしてそこにいたのはさっきまでいた男だ。

「わかっとるとは思うけどなぁ、タダで何でも教える訳にはいかんで。」

「お金ですか?」

世の中はそういう風に循環している。
目の前の男は片方だけの目でしっかりと見てくる。
じわりと嫌な汗と沈黙が流れる。

「名前は?」
煙草に火を点けて沈黙が途切れる。

「高城椿です。」

「椿チャンかぁ。ええ名前やないか。」

さっきまでとは違った妙に明るい声が不安を掻き立てる。
距離が少しずつ近づく。
これから何をされるか理解はできたが、抵抗できずそのまま動けない。
そしてじわりと耳に残る声。

「これから宜しくな。椿チャン。」
リフレインする関西弁。


そこからだ。今のようなよくわからない関係は。
何かを得る為には何かを犠牲にしなくてはいけない。
私はお蔭様で少しずつ昇進している。同期と比べても早くこのままいけば立派な出世コースだ。

昇りつめた先はどうなっているかはわからない。
でも確実にひとつ。

絶対に私が上に上がったらあの男をひれ伏したい。

私の中に密かに渦巻く黒い感情。
それは何なのかはわからない。

快楽を受け入れてされるがままになっている自分とこの男をひれ伏したい自分。

「椿チャン、待っとったで。」

そう思いながらも私は今日も連絡をし、彼に抱かれる。

終着駅はどこにあるのか。




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