フライディ・チャイナタウンにようこそ

出逢いは突然。
まさに運命。
偶然ではなく必然。

適当にお酒をひっかけてほろ酔い気分の仕事終わりの金曜日。
うみねこ坐のレイトショーを見終わり夜はまだこれからと思ってふらふらと1人歩いていると肩がぶつかった。

「…すみません。」

「大丈夫?怪我してない?」

そう言ってサングラス越しに微笑む男。
たぶん素面だったら怖い筈なのに、お酒が入っているせいかその姿をまじまじと見てしまった。耳につけているピアスが少し揺れていて綺麗だなぁなんてそんな余裕のある事を思っていた。

「ここは女の子が1人でくるような場所じゃないから早く帰った方がいいよ。」

口当たりは優しいのにそのどこか危険な香りを含んだ言葉。
そう、飯店小路の入口にあるうみねこ坐。そこを更に進むとそこは横浜流氓の巣窟。地元の人もあまり寄り付かない場所。この街に住んでいる人にとっては常識。そして私もそんな事は当然知っている。
人はどうして危険だと思っても時に大胆な事をしてしまうのだろう。時に酒は人を高揚させ、大胆にさせるのだと自分に言い聞かせる。
私はただその言葉をぼんやりと飲み込んでまた見てしまう。サングラスを取った顔はもっと素敵なんじゃないのかと。

「あの…。」

「まだ何かあるの?」

私の言葉に驚いた顔をした男。そしてふっと笑って私の手を掴む。何だろう、この高揚感は。そう、お酒に酔っているだけ…じゃない。そう、これは恋。

港が見えるバーで夜を明かし、目が覚めると知らないベッドの上で横には趙さんがいて見たいと思っていた素顔はやっぱり素敵だった。それが私と趙さんの出逢い。

◆◇◆

お互いをよく知らないまま深い仲になってしまうことなんて今までなかった。ましてや自分からお酒を飲みに誘うのなんて。
それでも私はちっとも後悔なんてなかった。
口当たりは変わらず優しい趙さん。それでも私を自分のアジトに連れてくるときは私の手をいつもより強く握って決して離れないようにと告げる。それはまるでどこかの国のお姫様のような扱いだ。そう、すごく大切にされていたことがわかったからだ。

それでも趙さんがボスと呼ばれていることは知っている。そう、彼はマフィアのボス。
でもそんなの関係ない。私に触れるその手はちゃんと血が通っていて暖かい。そう、ちゃんと暖かい人なのはわかったから。

会うのは大抵夜。勿論、私も働いている身なので夜に会う事には抵抗はない。月灯りに照らされながら歩いているだけでただ幸せだ。取り留めのない会話をしたり、時にはそれ以上のことをしたり、オススメの中華に舌鼓を打ったり。

「ちょっと覗いてもいいですか?」

「何?買いたいものがあったら何でも買ってあげるよ。」

今日もそんな夜の逢瀬。話しながら店の中へ。アジアンテイストの雑貨が並び、その奥には並ぶドレス。鮮やかな色、そして丁寧な刺繍が施されている。

「椿、もしかして欲しいの?」

気づかれないように見ていたのにやっぱり鋭い趙さんはどれが欲しいの?と言ってドレスを見ている。そしてこれとこれとと言ってたくさん抱える様にお会計をしようとする趙さんに驚いて思わず声を掛ける。

「俺が払うから気にしなくていいよ、椿は。」

「さすがに全部は…。」

「じゃあ、この中から選ぶ?」

「とりあえず、試着してきます。」

そういっていくつか気になったものを手に取って試着室へ。店員さんが丁寧に案内してくれる。私は赤、青、黒と並んだドレスを掛けて着ていく。

「どうですか?」

「いいんじゃない?」

ちょっと歯切れの悪い答えと渋い顔。うん、これはお好みではないようだ。赤のドレスはなしで。そんな風に全て試着が終わり、趙さんがいい反応をしていた黒を。本当は赤も欲しかったのは言わないまま自分の心の中に。

「趙さんも何か買ったんですか?」

私が着替えている内に趙さんの手にも袋が。覗きこもうとするとあとのお楽しみと言って隠される。さすがにドレスで街を歩くのは恥ずかしかった私。買ってもらったのはいいが、これをいつ着るのがいいのかという至極当たり前の事を思う。

「じゃあ、行く?」

「お酒ですか?」

その答えには応えない趙さんは鼻歌を歌いながら私の手を取る。今日も綺麗な月灯りと揺れる金のピアス。そして素敵な横顔が。やっぱりこの人とこんな風に夜の街に溶け込むのが好きだ。

さぁ、まだ金曜の夜は始まったばかり。今宵の行き着く場所とは?








「さぁ、じゃあ、早速着てみせてよ。」

渡されたのは先ほどの赤いドレス。やっぱりわかっていたのか。そう思いながらも私はあえて黒のドレスを手に。趙さんはいいの?と言いながらも今日はこっちにしますと話す。
着替えが終わり趙さんは私の姿を見て静かに微笑む。
そしてそっとサングラスが外されて手招きをされる。

「このドレスは胸元が綺麗にみえるから椿によく似合ってるよね。」

「ありがとう…ございます。」

世辞ではなく普通の口調で淡々と話す趙さんの言葉にただ赤くなって俯く私。そう、本当にスマートな人。そしてゆっくり歩いた先にいる趙さんのもとに。そっと手を引かれて抱きしめられるともう何も考えられなくなる。

「でもさぁ、これを着る時は俺と2人の時だけだよ。」

「えっ…。」

じゃあ、赤は?と聞く間も与えず深いキスであとはされるがまま。薄暗い室内には月灯りだけ。すぐに絹の擦れる音がしてあとは欲の海の中へ。今日は少しだけ異国人の気分になれたのはこのドレスのおかげかもしれない。



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