朝の匂い

チュンチュンと鳥が囀る音、そして目にじんわりとあたる光。
寝返りを打とうとしたタイミングで意識がはっきりとして瞼をゆっくりと開ける。
身体に回された腕をゆっくり引き剥がし、静かに寝息を立てている人を起こさないようにそっとベッドを降りる。

冷蔵庫から水を取り出して一口飲んで時間を見るとまだ朝の早い時間。
ベッドに目を向けるとまだしずかに寝ている人を見て朝が弱いし、起こさない方がいいのかなぁと考える。
少し前まではこんな風に朝を迎えることに恥ずかしさを持ち合わせていたのに慣れというのは恐ろしい。目が覚めて隣りに誰かがいることが当たり前になっている日常。それでも昨日の夜の情事の事を思い出して顔が赤くなるのは私がまだ初心であることの証拠。

折角早く起きれたのだから何かしようかなぁ。散歩?朝食を作る?もう一度一緒に眠る?選択肢はたくさんあってどれも贅沢な悩み。

悩んでいる内にお腹が静かに鳴る音を聞いてやはりここは朝ごはんが先決かということになり、悩むのはやめて出かける為に簡単に着替えを。

「散歩か?」

「お腹が空いたんでちょっと朝ごはん買ってきます。何がいいですか?」

以前もこんな事があってその時は真島さんと一緒に近所にある焼き立てパンのお店で買って帰って家で食べた事があった。その時のことをふいに思い出して買いに行こうと思い立った。

「ほんなら一緒にいこか?」

まだ眠そうな眼を擦りながら静かに立ち上がり、さっと上着を羽織り、出かける準備は完成。髪には少し寝ぐせがついているがそんな事には気も留めず、早よ、出るでと言って玄関に向かっている。変わらず自由な人。

「手袋、置いてきてもたなぁ。」

手がちょっと寒いから温めてくれへんかといって差し出された手をちょっと見てから握る。
前もそんな風に言って手を差し出してきたのをふいに思い出して笑みが零れる。きっとわざとなのだろう。黙って手を掴んでくれてもいいのに。巷では狂犬と呼ばれている人が私の手をとって静かに並んで歩いている。

まだ早い時間帯なので外は散歩の人、ジョギングをする人くらい。
静かな朝。
ふと真島さんを見るとまだやはり眠いのか欠伸混じりでぼんやりとしている。無理してこなくても良かったのにと思う一方、こんな風に一緒に歩いている何気ない時間は私にとって幸せだ。

そう、真島さんは朝というより夜。
ネオン輝くギラギラとした街で笑っている姿がとても似合う。
彼の生き様でもあるその彫られた墨もその夜の街によく溶け込んでいる。
だからこそ、この朝のゆったりした時間に私と並び、そしていつもの格好でその映える刺青を見せて歩いているのが何とも滑稽な感じがする。そんな物思いに耽っている内にパンのいい香りが鼻を掠めた。

「真島さんは決めてるんですか?」

「前のでええわ。」

そう話して真島さんは外のベンチに腰かけてコーヒーを飲んでいる。このお店ではパンを買うとコーヒーが無料で飲めるようになっていて以前一緒に来た時も真島さんはそのサービスに喜んでコーヒー片手に一服をしていた。今日も同じように真島さんがゆっくり一服している間に私は食べたいパンを選ぶことにしよう。

まずは真島さんのパンから。
特製のコッペパンに焼きそばが挟んでいる焼きそばパン。そしてたっぷりと中にクリームが入っているクリームパン。これが真島さんの分。

そして私は何にしようか悩む。
新商品!人気!ナンバーワン!と書かれたポップをみながら厳選した3つをトレイに。また真島さんによう食うのぅと言われるかもしれないがいいか。一緒に食べてもいいし。そんな事を思いながらお会計に。

ふと外に目をやると真島さんは頬杖をついたままうつらうつらと。やっぱりまだ眠たかったのかなぁ。無理させてしまったなぁと思いながらも急いでお会計をして真島さんのもとに。

「ちゃんと俺のパン、あったか?」

「ありましたよ。」

「椿は何にしたんや?前のクロなんとかにしたんか?」

「クロワッサンですか?」

「それやそれ。なんかサクサクしとったのぅ…。」

やっぱり…。
本当はそれを食べたかったんじゃないかと思って3つ目のパンはそれにした。
2つは食べてみたかった新しいパン。

「ちゃんとありますよ。一緒に食べましょ。」

帰ったらコーヒーを入れて、冷めていたらちょっとトースターで温めよう。
今日はどんな1日になるのかな。
まだ始まったばかりの朝を大好きな人と迎える。
今日の始まりはパンの香りとコーヒーの香りから。









「ほんなら、腹ごしらえもしたし、もう一眠りするかのぅ…。」

「えっ…。」

洗い物を片付け、洗濯物を干し終えて一息つこうと思っていると真島さんは嬉しそうに私の手掴んでベッドに降ろす。

「勿論、その前にちょっと運動してからやけどな。」

待ってください!という私の口を塞ぎ、ゆっくりと服のボタンが外されていく。
折角早く起きて色々できるのに。もったいない。
疲れ果てて2度寝して夕方になってしまいそうだなぁと思いながらも真島さんの首に腕を回してそっと目を閉じて覚悟を決める。

なんて贅沢な2度寝なんだろうと思いながら。





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