小さな不安と大きな温もり


窓から差し込む朝日に、夢の中から意識が呼び戻された。
窓側を向いているので余計に眩しい。
まだ寝足りないと訴える体に素直になろうと、反対側へ寝返ろうとする。
が、自分を包み込むように回された腕に阻まれた。


「...んー......」


動いたことで腕の主を起こしてしまったかと思ったが、覚醒する前に再び眠りについてしまったらしい。
眠りながらも強く抱きしめてくる腕に嬉しさを感じながらも、眩しさには変えられない。
少しだけ幸せに浸り、すやすやと聞こえる寝息を確認する。
起こしてしまわないようにそっと腕を押して、何とか隙間を作って体を反転させていく。
やっと窓に背を向けられた頃には、さっきより目が冴えてしまった。
心の中で軽く悪態をつきながら、愛しい人の寝顔を見上げる。
普段は起こさずともすっと起きてくるから、こんなにじっくり見れるのは非番の日の特権でもある。
銀色の髪は寝癖がついて、右往左往に暴れている。
閉じた左目に残る傷跡は白い肌をより際立たせていて、普段隠された口元にあるホクロは色気を感じさせる。
寝顔でも分かるくらいに整った顔を眺めていると、更に幸せがこみ上げてくる。
しかしそれと同時に、小さな不安が顔を出した。


−−ほんとにこんな凄い人の恋人が私でいいのかな...。


里でも屈指の実力を持っていて、慕う人も多く、容姿も整っている。
白昼堂々と18禁小説を愛読書にしているところを除けば、どれだけ自慢しても足りないくらいの恋人だ。
対して自分は平々凡々。忍としても、容姿にしても特に秀でたところはない。
無防備な寝顔を見つめながら、あまりにも落差がありすぎて勝手に落ち込んでしまう。
自分しか見られないこの寝顔をいつまでも見ていたいけれど、優しく自分を呼んでくれる、低くて甘い声が恋しくなってきた。


「...はぁー、かっこいいなぁ...」


抱きしめる腕も、細身なのに鍛え抜かれて無駄のない身体も、全てが愛しい。
甘えるように胸元に潜り込み、思わず零れた声は、そのまま誰にも届かず消えるはずだった。
しかし、予想に反して自分を抱きすくめている腕がぷるぷると震え出し、ククク、と噛み殺した笑い声が頭上から聞こえてきた。


「え、あれ、カカシ起きてる!?」
「クク...名前さ、ほんと可愛いよね」
「わっ、きゃ...!」


耳元で望んだ甘く低い声が聞こえたかと思うと、これまでよりもずっと強い力で抱きしめられた。
それと同時に頭に、額に、耳にキスの嵐が降ってくる。


「カカ、シ...くすぐったいよ...!」
「寝たふりしてたらあんな可愛いこと言うから。お仕置き」


くすぐったさと気恥しさで逃れようとするが、腕はびくともしない。
わざと唇を外すように落とされる口付けが意地悪さを感じさせる。


「カカシ、ね、んーっ...」
「んー?なあに?」
「...意地悪、しちゃやだ...」
「...お前さ、それ反則」


閉じ込められていた腕が解かれ、困ったように笑うカカシの手が優しく頬に触れると、待ちわびた柔らかさが唇に落とされる。
優しくて、甘くて、とろけてしまいそうなキス。


「ほんと、どれだけ好きになってもキリがないよ」


息がかかるくらいの距離でカカシが言う。
この至近距離での愛の言葉は反則だ。


「それは私のセリフだもん」
「オレをこんなに夢中にさせといてなーに言ってんの。名前以上に魅力的なヤツなんていないよ」


まっすぐ見つめられながら紡がれた言葉に、顔が熱が持つ。
夢中になっているのは自分の方なのに。
少し気持ちが落ちたときには、見透かしたように心に響く言葉をくれる。


「顔真っ赤。可愛いなーもー」
「...カカシは優しいね」
「急にどうしたの」
「ううん、何でもない。幸せだなぁって」


いつも恥ずかしげもなく伝えてくれる愛情で、溺れてしまいそうになる。
この先もきっと、彼はまっすぐに向き合って、気持ちを伝え続けてくれるんだろう。
だから、自分もそれに応えられる人間でありたいと思う。


「カカシ、好き。大好き」
「オレもだよ。絶対離してやらないから」


胸に飛び込むと、抱きしめながら頭を撫でてくれる。
大好きなカカシの匂いと温もり。
温かい手のひらに撫でられていると睡魔が再び襲ってきて、全身で幸せを感じながらゆっくりと意識を手放した。






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