04



「...随分な姿じゃないですか、はたけ先輩」
「その呼び方と面...名前か...!」


布団に横たわったままのカカシの目が丸くなる。
暗部に属する忍は、任務中は常に面を被る。
面で個を認識するため、当然共に任務にあたる者の面は覚えることになる。
白地に、丸くくり抜かれた目。
目の部分はフィルターがかかっていて、周りからは黒い穴にしか見えないようになっている。
顔の左下部分から赤い緩やかな曲線が何本も走っていて、花のような模様を成していた。
他と異色な存在感を出すそれが私の面で、まだ小さい頃、三代目に貰った物でもある。


「お久しぶりです。あまり大きな声を出さないでくださいよ」
「悪い。あまりに驚いて、ね」


眉尻を下げ、申し訳なさそうに笑みを浮かべる姿は、暗部にいた頃と比べて纏う空気が柔らかい。
あの頃の彼も尊敬しているけれど、今の方がこの人には似合っている気がする。
小さくため息をつきながら、翳した手に力を込める。


「それで、何でここに?」
「桃地再不斬が絡んでいるという情報が入ったので。三代目の指示です」
「それでわざわざ側近を寄越すなんて、オレってそんなに信用されてないの?」


飄々とした表情は全くそう思っていない。
側近。
一言で言ってしまえばそうなる。
常に三代目の側に付き従い、暗部としての通常の任務に加え、特に極秘に扱われる任務を受ける。
危険が付き纏うのは忍であれば皆同じだが、単独行動も多く、危険度はより高いものが多い。
有事の際に三代目を護ることが何よりの任務であり、そのため存在はあまり公にされていない。
暗部の者くらいしか他の忍と接する機会もなく、顔すら知らない者も多い。
元より積極的に人と関わる性分でもないから特に困ることもなかったが、三代目はそれが心配らしい。
だからと言って週に一度のおつかいを命ずるのもどうかと思うが。
それでもこの地位に就いているのは、三代目からの何よりもの信頼でもあった。


「まさか。優秀なはたけ先輩だからこそ、部下を護って殉職されては困るので」
「もう暗部でもないし、いい加減カカシでいいのに」


彼が暗部にいた頃から変わらない呼び名。
恐らく最初からそう呼んでいるが、どうもお気に召さないらしい。


「今更変える必要もないでしょう」
「可愛がってた後輩と距離を感じるじゃない」


アカデミーを出ると、すぐに暗部に配属された。
それから側近になるまでは暗部の中で任務に従事し、鍛えられていった。
カカシは既に最前戦にいて、班は違ったが共に任務に就くことも多かった。
自然と話す機会も多くなり、関わった記憶は一番色濃いかもしれない。


「からかっていたの間違いじゃないですか」
「そりゃあ、何やっても顔見せてくれないと気になるでしょ」


食事を共にする時でさえ面を外さなかった自分に対し、実に真っ当な意見だと思う。
もちろん理由はちゃんとあるが、説明してしまうと隠す意味がなくなってしまうので誰も知らない。
それが更に探究心をくすぐり、色々と面を剥ごうと手を尽くしてきた。
そのお陰で護りのスキルはとても上がった気がする。


「そんなことより、状況を説明してくれますか」


世間話をしに来たのではない。
全員生きているとはいえ、今でも追手が来るかもしれないのにカカシのペースに乗せられてしまった。


「あぁ...再不斬は死んだよ」
「え?」


あまりにも予想外な答えに、つい聞き返した。
だからこんなに無駄話を続ける余裕があったのか。


「霧隠れの追い忍が現れてね」
「...そうですか」
「まだナルト達とそんなに年も変わらない子だったよ。その子が殺して連れて行った」


追い忍。それなら納得がいく。
抜け忍を始末するスペシャリストであり、元々同じ里の人間なら、再不斬への対策もより組めるものなのだろう。
自分よりも年下の子どもが追い忍に身を置く環境はなんとも言えないものがあるが。


「...終わりましたよ」


翳していた手を下ろす。
自分に支障が出ない程度にチャクラを送り込み、ついでに傷も塞いだ。
私の声を合図に感覚を確かめるように指先から少しずつ動かしていき、やがて体を起こした。
目線が同じくらいの高さになり、やっと目が合った。
向こうからはこちらの目は見えていないけれど。


「流石だな。ま、この状況だと来てくれたのがお前で良かったよ」
「それはどうも」
「で、名前。お前はどこで寝るつもりなの?」
「何とでもなります」
「女の子が何言ってんの。オレ床でいいから布団で寝なさい」


さっきまで倒れていた人が何を言っているんだろう。
どう考えても今布団で寝なければならないのはカカシだ。
任務で野宿なんて今に始まったことではないし、その気になれば立ったまま睡眠を取ることだってできる。


「今一番回復しなきゃならないのははたけ先輩でしょう。大人しく寝ててください」
「あ、おま」


言い切る前に、さっさと身を翻して窓から外へ出た。
寝床を探しに足を踏み出す前に、少しだけ振り返る。


「里に戻るまでは同行します。さっさと回復してくださいね」


仲間がいなかったとも言い切れないし、このまま何もせず帰るのも気が乗らなかった。
それだけ言い残して、今度こそ背を向けて闇の中へ跳んだ。




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