「なあ、キスしていい?」
「うん」
「触っていい?」
「うん」
「俺んち、今日誰もいねーんだけど」
「いく」

振り向いた瀬多から香る甘いコロンの匂いが鼻腔をくすぐった。良かった、断られたらどうしようかと思った、なんて白々しく言った俺をアイツが微かに笑った。そんなわけない、そう言って自分から積極的に唇を押しつけてくる瀬多に俺は一気に体重を乗せる。下から見上げてくる瀬多は、どっから見ても俺好みの女の子だった。グロスで光る唇がやらしくて、それだけで眩暈がする。スカートの裾に手をかけたら、自分からめくり上げてまたキスをねだられた。今日のお前、積極的じゃね。笑ったら、ピンクの爪が俺の太股をなぞった。嫌ならしない、って嫌なわけねーじゃん。好き好き、大好き。お前とならなんでもいい。

「勃ってる、陽介」
「瀬多もだろ」

はだけたシャツの隙間から覗く胸元を舌で舐る。ぴくぴくと望み通りの反応を返されて、俺は満足げに鼻を鳴らした。開かれた両腿に手を這わせて、焦らすように脛骨をなぞる。早くしろとでも言いたげな視線にぞくぞくしながら、下着で隠された部分に触れた。

「すげ……もうこんな濡れてんの?」

浮き上がった形を確かめるように触れれば、瀬多の両膝がガクガクと震えた。スカートを口に咥えるその仕草、最高にエロイ。

「なな、写メ撮っていい? 待ち受けにさせて」
「やだ」
「えーいいじゃんか、誰にも見せねーから!」
「…………」

黙ってるっつーことはいいってことだよな、と都合よく解釈して、俺は携帯のカメラを起動した。ライトを照らして、レンズを瀬多に向ける。(  と、)

「……っ…」

蒼白な顔でレンズを凝視する瀬多のあまりに切羽詰まった表情に異変を感じて、慌てて携帯をしまった。なんだよ、どうしたんだよ。

「撮られんのイヤ?」

そう問うと、ぎくしゃくとした動きで瀬多が頷いた。そういうのはもっと強く言えって。俺が呆れたように言ったら、アイツがまだ白いままの顔でごめんと返した。
なんとなくそれから気まずくなって、俺たちは無言のまま俺んちに向かった。さっきまでの積極的な態度とは打って変わって大人しくなった瀬多に調子を狂わされた気分で、俺は部屋のドアを開けた。

「なんか飲む?」
「お構いなく」
「じゃ、ゲームでもやるか?」
「……いい。それより」

瀬多が俺のベッドの上に乗って、制服のスカーフを解いた。束ねた髪も下ろされる。ちょっといきなりすぎやしませんかね、と苦笑したら、アイツは真顔で俺を見つめた。やっぱりなんかおかしい。けど何がおかしいのか分かんねーから、結局は俺も制服を脱いで、ベッドに上がった。二人分の重みで軋むベッドに異様に興奮する。先に動いたのは瀬多だった。啄ばむような口づけから、徐々に濃厚なキスになる。
鼻にかかったような甘ったるいアイツの吐息に欲情して、俺は乱暴に瀬多を押さえつけた。一瞬だけ痛みに顔を歪めた瀬多が、すぐにふわりと微笑む。どこかマゾヒスティックな悦びが雑じった笑みだった。

「陽介、ネクタイある?」
「あるけど、どうすんの?」
「……手、縛って」
「は!? え、縛るってどどどどうゆう」
「縛って、陽介」

そう言って両手を差し出す瀬多は、まるで何かを期待してるみてーな目で俺を見ていた。ごくりと唾を呑んで、その目をじっと見返す。今日は趣向を変えてSMごっこか? まあいいけど。俺だってそういうのに全く興味がないわけじゃない。ベッドから下りて、クローゼットの引き出しからネクタイを取り出すと、俺はそれを瀬多の手首にかけた。上気した瀬多の頬がとんでもなくやらしい。

「お前ってMなの?」

訊いた俺の声は、少し上擦っていた。瀬多は、しばらく逡巡すると「そうかもね」と笑った。

「陽介は、どっち?」
「ドノーマル」
「でも、ここ硬い」
「っい、いきなり触んな……!」

ピンクの爪にただでさえ張りつめて痛てーくらいの箇所を引っ掻かれて、俺は背中を丸めた。それ反則。瀬多が口元を弛ませる。仕返しに俺もアイツの下着の上から突起を摘まんでやったら、ビクンと腰を震わせて瀬多が嘆息した。いつもならここで強くすんなと拳が飛んでくるのに、瀬多からは何の抵抗もなかった。(ああ、そういや俺、コイツの手縛ってたんだっけ)
もう一度、今度はさっきよりも強くそこを弄った。軽く爪を立ててみる。ひっ、と小さく悲鳴を上げて、じわりと下着を濡らす瀬多を見た途端、俺は視線だけは瀬多に向けながら、自分でも無意識のうちにそこを押し潰していた。拘束された手がバタバタと動く。振り上げられた足は容易く俺の力で押さえつけられた。
なんだ、この感じ。変な感じだ。俺、今、完全に無抵抗の奴を襲ってる。なんか。なんか。すっげえ。

「瀬多、痛い?」
「ッッ……!」

何度も首を縦に振る瀬多がおかしくて、俺はその首に手を回した。目に涙の膜を這って俺を見上げる瀬多は、俺から理性を吹っ飛ばすには十分だった。なんで俺、こんなにワクワクしてんだろう。楽しい。
されるがままの瀬多が。強すぎる痛みに媚びた目で俺を見る瀬多が。俺、どうしちゃったの。

「痛いのに、ここなんでこんな濡れてんの」
「……それ…っ…は…」
「嬉しい、とか思ってんじゃねーの? お前、Mだもんな」

知らず知らずのうちにキツくなっていく言葉を吐くことさえ、興奮する。たまらない。瀬多が期待するような目で俺を見上げた。マゾヒストの目で。首に回した手に力を込める。下着の中に突っ込んだ手は拳を作って、押し上げるように擦りあげた。割れんばかりの嬌声。でもこれは歓喜の声だ。恍惚とした瞳と視線が交わる。こんなのも気持ちいいなんて、お前ホントにMなのな。まるで誰かに調教でもされたみてぇ。
携帯のカメラを起動して、レンズを瀬多に向ける。アイツはまた蒼白な顔をしたけど、今度は躊躇しなかった。カシャリとシャッターを切る。瀬多は体を猫のように丸めて、なぜかずっとごめんなさいと繰り返していた。お仕置きでもされたつもりなんだろうか。んなつもりねーから、謝んなって。

「ほら、笑って瀬多」
「…………」
「笑えつったの」

つい語尾を荒くしたら、はっと動きを止めた瀬多が俺を見た。あ、やばいこれ。どんどん深みにハマっていってる俺。
瀬多が力なく口元を歪ませた瞬間にすかさずシャッターを切って、出来た画像に口づけた。スゲェいい表情してんぜお前。これ、今日から待ち受けにしよ。そんで毎日これで抜くの。(はは、最高)
瀬多はどっか遠い目をして俺を見ていた。「早く……続き」と掠れた声で誘われる。もっと酷くしてもいいならな、と自然に言えた俺は、なぜかふと、俺がコイツに調教されてると思った。コイツ好みの誰かに。


(2010.1.2/夕方五時の密室/h a z y
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