※ビッチ花村注意!寝ている堂島さんに欲情して襲ってます。






あ、セックスしたい。
そう思った時には、もう頭ん中がそれ一色に染まってて、授業なんて半分も耳に入ってこなかった。
前方には瀬多のなだらかな項。黒板とノートを交互に見ながら、シャーペンを走らせる相棒は、俺の視線なんてまるで気づいていなかった。
欠席者の多い教室は、やけに広々としていて物悲しい雰囲気が漂っている。ちらりと視線を横に移すと、霧のせいで気分が悪くなったのかぐったりと机に突っ伏している同級生がいた。もしモロキンが生きてたなら、授業中に寝るんじゃないとチョークが飛んでたかもしんない。(でももうアイツはいないし、たとえまだ生きてたとしても、この視界の悪さじゃ教卓からこっちの席なんて見えない)(つまり、教師の目を気にせず居眠りだってできるし、落書きだってできるし、あとは――)


「っ」


そこでいきなり後頭部に何かが当たった。振り返ると、ニヤニヤした連中と目が合った。
床に視線を移すと、くしゃくしゃに丸められた紙屑があった。単なるゴミじゃないことは、もう今の俺なら分かる。瀬多には気づかれないよう拾い上げて広げてみると、決して上手いとは言えない字で「昼休み 屋上」とだけ書かれていた。
ぞわりと全身の毛穴が開いてくような感覚。もう一度視線を前に戻すと、相変わらず瀬多は俺のことなんて一切気にせずにノートを取ってた。襟から覗く白い項に頭の中が一際酷い映像を映し出す。相棒は何も知らない。何も気づかない。授業が終わった時、席を立って初めて俺がいなくなったことに気づくんだろう。あまりに簡単にそれが想像できて、無性に悲しくなった。と同時に、下半身がきゅっと盛り上がったのが分かる。悲しいときにも男は勃起する生き物らしい。そんな自分の反応に今度は笑えてきて、俺はなるべく音を立てないよう席を立った。やっぱり瀬多は気づかなかった。



***



「陽介、顔色悪いぞ。大丈夫か?」


この日、初めて瀬多が俺を気にしてくれたのは、もうとっくに放課後になってからだった。昼休みどこ行ってたのかとか、なんでジャージに着替えてるんだとか、そんなことは一切聞いてこない相棒に俺はどうしようもなくイライラし始めてた。
相棒の肌は相変わらず綺麗で、相変わらずいい匂いで、相変わらず俺を見る目は優しい。
俺はといえば、昼間散々かけられた精液だの小便だのの臭いが漏れやしないか必死に気にして、午後の授業全部サボって便所にこもってた。全部かき出したはずなのに、まだ腹ん中にあいつらが出した物が残ってる気がして、背中がぞくぞくして仕方がない。
ふと気がつくと俺の視線は瀬多の下半身を見ていて、名前を呼ばれてからはっと目を逸らした。ぞくぞくする。寒い。熱い。全部あいつらのせいだ。あいつらの。


「なあ、今から時間ある?」
「え……?」
「俺の家で夕飯食べていかないか。今日、うち誰もいないから」


少しだけ寂しそうに笑う相棒に息を呑む。ああ、いや、うん、分かってる、コイツはただ純粋に俺を食事に誘ってるだけだ。それは分かってる。分かってる、けど。

(誰もいないってことは、瀬多と二人っきりってこと……だよな?)

そう思った瞬間、真っ先に反応したのはあの場所だった。いよいよ俺は救いようのない所まで来たらしい。だって相手はあの瀬多なんだぞ。親友なんだぞ。俺がずっと憧れてて、自慢で、コイツにだけは嫌われたくないって思ってたのに、なんで。(硬くなって ん の)


「都合悪かったらいいんだ。突然だったし」
「や、んなことねーって。行く行く! 丁度腹減ってたし!」
「……良かった」


ほっと安堵したように笑う相棒に、また窮屈さが増した気がした。我慢できずに吐き出した息は湿っぽくて、いかにも発情してますって感じで、そんな自分の状態で俺は気づいてしまった。
ああ、俺、コイツのことそうゆう目で見てんだ。そうゆう目で見るようになっちったんだ。純粋に慕ってたはずの思いが、いつの間にか捻じれてた。
自覚した途端、毒虫に刺されたみたいに全身が疼いて、熱くなる。昼間の出来事が雪崩みたいに脳内を包んでく。心臓がどんどん足元に向かって落ちていって、ベルトの下で暴れだしていた。
瀬多が歩き出す。無防備な背中。でも俺なんかとは全然違って、広くて逞しい。腕も。細く見えるけど、アイツがその手でたくさんのシャドウを葬ってきたのを俺は知ってる。本気のアイツに囲い込まれたら、俺はきっと逃げられない。逃げ道は容易く塞がれて、身動き一つできないまま、俺は、めちゃ め ちゃ  に


(されたい)


瀬多になら。相棒になら。当然のようにその発想に至ったことに自嘲した。親友に犯されたいと思うなんて、も、立派な変態じゃん。瀬多は何も変わんねーのに、俺は日を追うごとに腐ってく。

「陽介、もっとこっち来いよ」

離れて歩く俺にまるで女子をエスコートでもするみてーに慣れた所作で手を伸ばしてくる相棒は、俺とは何もかもが違ってた。綺麗だ。綺麗。あいつを落とした時は、確かに俺たちは同じだったはずなのに、今の瀬多は俺よりずっと遠いところにいる。(なんで、俺だけ)

掴んだ瀬多の手は、ひんやりして少しだけかさついていた。これで肌をぶたれたら痛いだろうな、なんて歪んだ想像に俺が浸ってるなんて微塵も思ってなさそうな瀬多の笑顔に罪悪感なのか怒りなのかよく分からない感情がせり上がってきた。
握った手に力を込める。俺の毒がコイツにも感染ればいいのに。



***



「それじゃ、すぐ準備するから陽介は適当にテレビでも見て寛いでて」


そう言ってさっさと台所に向かう瀬多の後姿を俺はただ黙って見送るしかなかった。ぶっちゃけ料理に関して俺が手伝えるようなことは何もない。下手に手伝ったところで瀬多の足を引っ張るだけなのが分かってたから、俺は素直に瀬多の言うとおりにすることにした。
床に座って、テレビをつける。でも、霧が濃くなってからほとんどの番組が昔の放送ばかりになってて、正直全然面白くない。
チラリと瀬多のほうを見ると、準備に集中しているようでこっちのことなんてちっとも見てくんなかった。また言いようのない悲しさが込み上げてきて、机に突っ伏――しかけた所で、玄関の戸が開く音がした。「ただいま」


野太い声に反射的に背筋を伸ばす。瀬多も予想外だったのか、驚いた顔で玄関のほうへ向かった。


「今日は、泊まりじゃなかったんですか?」
「これ以上泊まり込むと、残業時間が規定を超えると言われてな……すまん、疲れてるから横にならせてくれ」
「あ、はい。今、寝室に布団敷いてきます」
「ああ、すまんな」


だいぶ疲れてるのか、帰ってきた堂島さんは随分ふらついた足取りでこっちにやって来た。とっさのことで立ちあがることすらできない俺を堂島さんがじろりと睨んでくる。
や、実際睨んでるわけじゃねーんだろうけど、元々眼光鋭い人だったからそう見えた。


「お前……」
「う、うす! 花村陽介っす!」
「ああ、ジュネスんとこの」


何度か顔を合わせたこともあんのに、ジュネスの部分しか認識されてなかったことが少しだけ悔しかった。つっても、ここであからさまにムッとできるほど俺の心臓は強くない。
ソファーに腰掛けた堂島さんは、これ以上会話をする気はないとでも言いたげに目を閉じると、そのまますぐに眠ってしまった。いくら相手が寝ているとはいえ、滅多に話したことのない相手と同じ空間にいることにいやに緊張する。堂島さんが来た時、反射的に正座までした自分が可笑しい。ビビってんだろうか。何に。堂島さんは警察。だったら、きっと町の噂も耳に入ってるかも知れない。堂島さんは勘がいい。もしかしたら、さっき睨まれた気がしたのは気のせいじゃなくて。


「あれ、叔父さん寝たのか」


首を絞められてるような息苦しさは、瀬多の声で楽になった。困ったように微笑んで、堂島さんの体を揺する様は、面倒見のいい甥というよりは保護者のように見えた。
なんとか堂島さんの体を起こそうと瀬多が奮闘するも、完全に意識を失っている堂島さんは、大きないびきをかきながらぴくりとも動かずにいる。


「仕方ない。陽介、叔父さんのこと代わりに見といてくれるか? 料理、まだ途中なんだ」
「りょーかい。美味いの頼むぜ」
「はは、了解」


くしゃりと笑う相棒にドキリとする。なんでか、最初の時よりもずっと機嫌が良さそうに見えた。堂島さんが帰ってきたからだろうか。俺を誘った時は、もっと寂しそうな笑顔だったのに今は、心から嬉しそうな表情で台所に立っている。二人分しか用意してなかった材料に新たに一人分を追加する瀬多は、いつもより気合が入ってるようにも見えた。ゴウ。ゴウ。(いびきがうるさい)
料理に没頭している相棒から、視線をソファーのほうへと移すと、どっしりと腰掛けたまま眠っている堂島さんがいた。寝ている姿まで貫録たっぷりだ。弛んだネクタイとはだけたシャツは一見だらしないのに、太い首と太い腕はよく鍛えられてるのがこっからでも分かって、だからか妙な威圧感がある。瀬多も将来はこんな感じになるんだろうか。想像して、笑う。


――?


そこで、ふとある違和感に気づいた。大きく開かれた堂島さんの脚。すっかりくたびれたスラックスの中心部分。(……え……?)
うっすらと盛り上がったその部分は、気のせいだと流すにはあまりに不自然に膨らんでいた。
とっさに瀬多のほうを見る。アイツは気づいてない。なぜか、ほっとした自分に困惑した。
や、なんで俺が気にしてんだよ。これってあれだろ、疲れマラって奴だろ。体が疲れてると性欲も旺盛になるって、前読んだエロ本に書いてあった気がする。(せいよく)


ドクン。いびきよりも、ずっと大きな音で心臓が鳴った。はっと瀬多のほうを見る。気づかれてない。当たり前だ。気づかれるわけない、俺の心臓の音なんて。(だけど)


もう一度、恐る恐る堂島さんのほうを見る。大きく口を開けていびきをかいている所は、さっきと何も変わらない。
けれど、堂島さんのあの部分は初めの時よりも確実に膨らんできてるのが分かった。苦しいのか、時折堂島さんの眉が寄る。ああ、そうだよな。苦しいよな。だって堂島さん、俺なんかよりずっとデカそうだし。あんな風に締めつけられたら苦しくて、どんどん溜まって、それから






呼吸が止まる。自分がした想像に息の根を止められる。なに今の。俺、今なに想像した?


「あ!」
「ッ!?」


突然響いた瀬多の声に体が大きくバウンドした。乱れたリズムを刻みだす心音に羞恥心が爆発する。取り繕うように台所に向かった俺を瀬多は困った顔で迎えた。大丈夫、コイツは気づかない。


「なに、どしたの?」
「調味料、買い置きするの忘れてた」
「? 別になくてもよくね?」
「いや、ないと味が薄くて食えたもんじゃない」


こういうところで手を抜かないのが相棒らしい。今から買ってくる、と玄関に向かおうとするのを慌てて引き止める。いやいや、今からって。「鍋どうすんの?」

ぐつぐつと茹った鍋を指差すと、瀬多は当然のような顔で「よろしくな」と言った。
え、なにそれ、俺にそこ任せちゃうの? や、別に鍋を見ること自体は俺にだってできるし、そこは問題じゃない、ないんだけど。


「すぐ買ってくるから。頼む」


答えに詰まってる俺を勝手に了承と判断したのか、瀬多はそのまま靴を履いて出て行ってしまった。後に残されたのは、完成間近の鍋と茫然と立ち尽くす俺と豪快ないびきをかいて眠りこけてる堂島さんのみ。人間だけなら、俺と堂島さんだけだ。瀬多と二人っきりになるはずが、どうしてこうなった。ていうか、そもそも。

(なんか、はしゃいでねーか相棒の奴)

堂島さんが勘のいい人だってんなら、俺もこの手に関してはだいぶ勘がいい。急ぎ足で出ていく瀬多は、今までの淡々とした雰囲気とはかけ離れてた。親の帰りを喜んでるガキみたいなはしゃぎっぷり。
実際嬉しいんだろう、堂島さんが帰ってきたことが。

あれから――俺たちが同じ秘密を共有した日から、堂島さんはほとんど家に帰らなくなったと聞いてた。大事にしてたあの子がいなくなってから、家の中に居辛いんだと瀬多は言った。どんどん弱ってく相棒。でも俺は、そんな瀬多をずっと支えてきた。いつだって一人で抱え込もうとするアイツを慰めて、励まして。
だって俺たち相棒じゃん。親友じゃん。同じ秘密を共有してる大事な仲間だろ。相棒だって、お前がいてくれて良かったって言ってくれた。あの言葉で俺は今まで立ってこられたんだ。どんなに嫌な目に遭っても、何度も死にてぇって思っても、相棒だけはずっと俺の傍にいてくれるって。俺だけを見ててくれるって、そう。(信じてた のに)


「……何も知らない家族のほうが大事なのかよ」


こんなのは醜い嫉妬だ。そんなん分かってる。嫌ってほど分かってんだよ畜生。
でも、瀬多があんなに嬉しそうにするとこなんて、もうずっと見てなかった。俺がどんなに支えてきたって、たった数回のただいまには敵わない。ほったらかしにされてんのに、そんなことは気にもしないで尽くそうとする瀬多。俺が今までどんな目に遭わされてきたのか、気づきもしないではしゃぐ相棒。
ゴウ。ゴウ。(いびきがうるさい)(いびきがうるさいうるさいうるさいうるさい)



「うるせぇんだよ」



口にしてから、さっと血の気が引いた。静かすぎる部屋にはあまりにでかすぎる声だった。堂島さんのいびきが止まる。やばい、起きたのかな。どうしよう、聞かれたよな今の。(どうしよう)

ドクンドクンと激しく脈打つ鼓動を感じながら、その場に硬直する。けど、いびきはすぐに再開された。フーッと息を吐きながら、規則的な寝息を繰り返す堂島さんに起きた様子はない。ほっとしたような、少しだけ残念なようなよく分かんねぇ気持ちになる。それでもやっぱり本当に起きてないか気になって、恐る恐る近づいてみた。近づいてから、


(……ほんとに、勃ってる)


堂島さんの股間の膨らみは、近づいてみるとよく分かった。窮屈そうに布を押し上げて、そこだけかなり目立ってる。苦しそうにベルトを押さえて溜息を吐く堂島さん。こんだけ苦しそうにしてても起きねぇのが逆にすげぇと思った。
荒い息は、どこか獣じみていて何かを連想させる。もう少しだけ近づいてみた。湿っぽくて、こもった息。
ああ、これ、俺よく知ってる。


「苦しいですか……堂島さん?」


はぁ、はぁ、と喘ぐような息遣いは、問いかけた瞬間激しくなった。一体どんな夢見てんだろう。脂汗を滲ませて顔を顰める堂島さんをじっと見つめる。
俺の親父とは違って角ばった顔立ちは、刑事の風格なんてのを抜きにしてもずっと男らしく見えた。軽薄なあいつらにも作り物みてぇに綺麗な瀬多にもないもの。
鼻を掠める煙草の匂いにくらくらする。意識がぼうっとして、カチャカチャとベルトが外れる音を他人事みたいに聞く。
気がついたら、下ろされたジッパーからピンとそそり立った堂島さんのものがあった。ああ、ほんと。(でけぇ、な)

エラが張って、竿も太くて、ずる剥けになった皮の皺に息を呑む。まだ完全に勃起はしてねーけど、太い血管がびっしりと囲んでいるのを見て溜息をついた。
黒ずんでて少しきつい臭気を放つそれは、俺が見てきたものよりずっとグロテスクでずっと卑猥だ。
ごくり、と唾を呑む。堂島さんは相変わらず苦しそうに眉を顰めていた。心臓が早鐘を打つ。一体俺はこれから何しようとしてんだ。瀬多いねーのに(瀬多いねーから)瀬多の叔父さんなのに(瀬多の大事な人だから)相手寝てんのに(だから)(だから気づかれない)



「…ぅ……っ…ッ…」



掌でそっと包んだ瞬間、堂島さんが微かに呻いた。それでも起きる気配はない。
亀頭の括れを指でやわやわと擦ると、みるみる先端から透明な汁が溢れてきた。同時にいっそう硬く太くなっていく幹に思わず喉が鳴る。(俺ので、感じてんだ)

あの堂島さんが。自分よりずっと年下のガキに。甥の親友にチンコ扱かれて感じてる。
眩暈を伴った倒錯じみた興奮。何もかも失くしたはずの瀬多が隠してた最後の宝物を穢す後ろめたさと悦び。裏筋を指で弾く。「…ッあ……」

父親とそう変わらねぇ年の相手の喘ぎ声なんて、聞いても萎えるだけだ。そのはずなのに今はそれすら気分を高まらせた。硬度を増してく手のひらのモノに堪えきれなかった笑みが零れる。

(堂島さんの……俺の手の中で…すげぇ、ビクビクしてる……)

血管が浮き上がった堂島さんのは、男っていうよりもう「雄」って感じだった。あいつらの粗末なもんとは全然違う。臭いも、色も、ぞっとするくらいおぞましい。

(これで……俺のナカ…突かれたら……)


さっきは理性で押し止めていた想像が蓋を開けて飛び出してきた。激昂した堂島さんに激しく床に叩きつけられる俺。そのまま無理やり足を開かされて、慣らしもせずに突っ込まれる。掴まれた髪の毛は抜けそうなくらい強く引っ張られて、息もまともにできないくらい乱暴に犯される。皮膚が腫れ上がるほどぶたれた後は、ようやく抜き取ってもらったそれをしゃぶって、最後にご褒美をもらう。いい子だなって、撫でてもらう。瀬多みたいにやさしく。


「白いの、雑ざってきたっすね」


擦り続けた亀頭の窪みからは、うっすらと白濁雑じりの液が垂れ始めていた。いっそう濃厚になった匂いに嘆息する。
このキ××イめ。罵る自分の声に応えるかわりに、俺はそっと口を開けた。
俺はもうとっくに狂ってる。


「は…む……っ……ん…っぅ…!」


それを口に含んだ瞬間、あまりの苦さに眉が寄った。今まで飲んだのとは全然違う。つんと鼻を刺すような灰汁の強い味。
でも、なんとか舌で転がしてるうちに少しずつ慣れてきた。不思議と今度は癖になる味に思えてくる。大人だからなんだろうか。こんな濃いの、初めて飲んだ。


「く…っ…ぅ…」


尿道口に舌を這わせて吸い上げたら、堂島さんの太股がびくびくと痙攣した。男にフェラされても、ちゃんと感じるんだ。あいつらとおんなじ。でもあいつらとは比べものになんないそれに胸が高鳴る。同性の、しかも相棒の叔父さんのチンコしゃぶって興奮してるなんて、俺、なんて救いようがねぇんだろう。(吐き出した息は恍惚としてた、ああ)


「こんなの突っ込まれたら……も、ケツ……使えなく、なるかも」


想像に背筋が震える。あの場所がズボンの中でひくついてるのが分かった。張りつめた前が痛い。ベルトに手をかけて、一瞬躊躇する。今ならまだ誤魔化せる。堂島さんが目を覚ます前に全部なかったことにできる。でも、だけど。
びっしりと浮き上がった血管、脈打ってビクビク震える陰茎。鼻孔と肺を侵す濃密な匂い。(ああ、も)( たま ん ねぇ )


神に懺悔する気持ちでジャージを掴む。下着ごと脱ぎ捨てたズボンを蹴り上げて、ソファーに膝をついた。スプリングが大げさに鳴っても堂島さんは気づかない。あいつみたいに気づかない。
両脚で挟むように堂島さんの前に座る。こんなに分かりやすくしても気づかない。この体勢、なんかデジャヴって思ったら、ガキの頃によく親父にこうして抱きついてたのを思い出した。背徳感は最高潮。相手は俺の父親と同じくらい年取った、親友の大事な家族。

窄まりに当てていた指を押し込むと、ろくに濡らしもしてないのに俺の指はすんなりと俺の中に沈んだ。そういや昼間、散々嬲られたばっかだった。
ちょっと指で触っただけで、もうとろとろと柔らかくなってく孔は、完全に排泄器官としての役割を忘れていた。容易く四本の指を銜える孔から、ぐちゃぐちゃと粘性の音が漏れる。やらしいの。


(ごめん、相棒……オレ、最低だ)


俺は自分をよく分かってる。俺は最低だ。心では謝ったって、体はもう止められない。俺だけが狂ってくなんて、そんなのイヤだ。



「ぐ…っ…うぅ…ッ…」



あんなに慣らしきった孔なのに、それでも堂島さんのは激しく俺の中で存在を主張してきた。みちみちと悲鳴を上げる括約筋に傘が引っかかって、ぞくぞくと腰が跳ねる。無意識に閉じていた瞼を開けると、口をだらしなく開けたまま上気した頬で浅い呼吸を繰り返す堂島さんの顔があった。俺が腰を落とすたび、堂島さんから微かな呻き声が漏れる。何度も上下する胸板は汗ばんでいて、むせ返るような匂いを室内に散らしていた。そっと腰を上げてみる。

「う…っ……」

びくりと肩を震わせる堂島さんの頬が、さっきよりも赤みを増す。
ああ、感じてんだ。俺ので。男の味なんて絶対知らなそうなあの堂島さんが、俺のケツで感じてんだ。

(ハマったら、どうすっかな)

もし、俺のせいでこの人がそっちの道に目覚めちったら。そしたら相棒、泣くかな。そしたら、また俺の所に帰ってくるかな。勢いよく腰を落とす。


「あッひぁァあっ!?」


舌を突き出して吐き出した声は、もう男の声じゃなかった。
(す、っげえっ……! これっ、すげぇっ!)

衝撃でまだくらくらする意識をなんとか繋ぎ止めて、足元を見る。ぽっこりと膨らんだ腹は、堂島さんの形をくっきりと浮かび上がらせていた。このまま突き破られんじゃねーかってくらいの圧迫感に心臓が限界まで高鳴る。


「あ、ひっ、は、ぁっ、んンっ、やば…っ、腰、とまんね……っ」


いつも相手主導のセックス(とも呼べないもの)しかやってこなかった分、自分が好き勝手に動くのは、想像以上に気持ち良かった。おねだりしなくても、自分で好きなところを好きなだけ突ける。
ぎこちなかった抽挿も堂島さんの我慢汁と俺の体液が織り交ざって、少しずつスムーズになっていった。
獣じみた息遣いが堂島さんから漏れるたび、罪悪感なのか幸福感なのかよく分からない不思議な感情がせり上がってくる。
けど、この人にも瀬多と同じ血が流れてんだよなって思ったら、もう頭ん中は歪な高揚感でぐちゃぐちゃになった。
堂島さんの頬に俺の唾液が落ちる。口元にも、俺の毒が詰まった唾液がぽたぽた落ちる。
何も知らない堂島さんは、雄みたいな息を吐くと、それを喉を鳴らして飲んでった。あいつらが俺に回した毒。今度は俺が毒を回す番。



「はぁっ、すげ…っ、出てる…ッ、オレんなか、堂島さんのでいっぱい…ッ」



名前を呼んだ途端、中で感じていた飛沫が更に勢いを増した。堂島さんの身体が浮き上がる。俺の中を隅々まで犯し尽くすような長い射精。


「あッあ、熱いっ、すげっ、これ、あ…はッ……いくッ、いくっ」


可笑しさと馬鹿馬鹿しさと虚しさと気持ち良さがいっぺんに襲ってきて、周りの音が全部別の世界の出来事みたいに遠くなった。ピーピーと鍋の蓋が空気を押し出す音が警鐘のように響く。
ガラガラ、戸が開く音がした。や、もしかしたら俺が壊れてく音なのかも。ガラガラ。




(2012.5.16/ほら、ニュートンが鳴いてる/剥製は射精する
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