私は今――――

「早速だが…ヒーロー志望の爆豪勝己君と名字名前さん。俺の仲間にならないか?」
「寝言は寝て死ね」

 敵連合の秘密基地で爆豪君と共に拘束され、勧誘をされていた。

「やー断られちゃいましたねぇ。ねぇねぇ名前ちゃんは?カァイイ名前ちゃんはお友達になってくれるよね?」
「…気安く呼ばないで」
「落ち込むなってトガちゃん!俺がいるし!嫌だけど!」
「…」

 少ない情報を手繰り寄せ、現時点で分かっている事。合宿先で拉致された私達は、いつの間にか閉じ込める”個性”で攫われ、連合の基地である薄暗いバーのような部屋に運ばれた。部屋には窓もなく、外の様子すら把握できない。拉致されてからどれ程経過したのか、今が朝なのか夜なのかすら分からないような場所だ。
 身動きを取ろうにも私達を椅子に縛り付ける拘束具は特殊な物なのか、個性が上手く使えずガシャリと耳障りな音だけを鳴らす。向かい合わせに態とらしく置かれたテレビでは雄英高校の謝罪会見の映像が流されており、相澤先生とブラドキングが頭を下げる姿が嫌でも目に焼き付いた。
 そんな私の様子を面白がるように、敵共が此方を見下ろす。

『ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした』

 度重なる敵との接触。生徒二人の拉致。テレビの中の雄英は完全に、悪者扱いそのものだった。

「不思議なもんだよなぁ…何故ヒーローが責められてる!?」

 敵連合の主犯格である死柄木弔がまるで演説をしているかのように両手を広げ、皮肉を並べていく。その顔にはUSJ同様に掌が張り付いており、相変わらず表情は伺えない。

「奴等は少ーし対応がズレてただけだ!守るのが仕事だから?誰にだってミスの一つや二つある!”お前等は完璧でいろ”って!?ヒーローってのは堅ッ苦しいなァ二人共!」
「守るという行為に対価が発生した時点でヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!」

 ”ステイン”の名を語る敵に顔を向ければ、そこにはまるでステインの真似事のように姿を似せた敵が立っていた。
 そうか、この敵もステインに”あてられた”んだ。

「人の命を金や自己顕示に変換する異様。それをルールでギチギチと守る社会。敗北者を励ますどころか攻め立てる国民。俺達の戦いは”問い”。ヒーローとは正義とは何か、この社会が本当に正しいのか、一人一人に考えてもらう!俺達は勝つつもりだ。君等も、勝つのは好きだろ。なぁ?」

 死柄木の顔に張り付く指の隙間から、三日月に歪められた双眸が私達を見つめる。すると何を思ったのか、「荼毘。拘束外せ」と近くにいた青年の敵に指示を出した。

「は?暴れるぞ」
「いいんだよ。対等に扱われなきゃな。スカウトだもの。…それに、この状況で暴れて勝てるかどうか、分からないような奴等じゃないだろ?雄英生」

 確かに、死柄木の言う通りだ。私達の個性ならいくらでも暴れようはあるけど、こんな見知らぬ場所でそれも見知らぬ個性の敵に不用意に突っ込んでいく程私達は馬鹿じゃない。けれど、かといって大人しくしている程出来た生徒でもないんだ。
 どこで私達の素性を調べたのか知らないけど、ここまで虚仮にされて黙っていることなんて出来なかった。何がスカウトだ。私は敵なんかに見初められる為に、今まで血を吐くような努力をしてきたんじゃない。

「……」
「…トゥワイス、外せ」
「はぁ俺!?嫌だし!」
「強引な手段だったのは謝るよ…けどな。我々は悪事と呼ばれる行為に勤しむただの暴徒じゃねぇのを分かってくれ。君達を攫ったのは偶々じゃねぇ」

 覆面の敵が渋々爆豪君の拘束具を外し、続けて私のも外していく。その光景を後ろで眺めながら、私達を閉じ込めてここに運んだ敵がポツポツと語り出した。

「ここにいる者事情は違えど人に、ルールに、ヒーローに縛られ苦しんだ。君達ならそれを――――…」
「分かってくれるって?残念だけど、私には一っつも分かんないね」
「…」

 吐き捨てるように言う私に、それまで語っていた敵が仮面の奥で閉口する。周りに立っていた敵達が一斉に鋭い視線を向けてくると、それまで静かに傍観していた死柄木が椅子から立ち上がり、私の目の前に近付いてきた。
 彼は言動は子供でも立派な主犯格。いつ何をされてもおかしくない状況に少なからず身構える。しかし、その口から漏れたのは酷く優し気な声色だった。

「名字名前…俺は知ってるんだ。オールマイトのようなヒーローになれるように、お前がずっと否応に強化されてきたこと。辛かったよな。嫌だったよな。誰もお前自身を見てくれないんだもんな。分かるよ」

 まるで幼子に言って聞かせるような、脳内の親像を形にするかのような口振りで語り掛けてくる。その全てが違和感でしかなくて、向けられた歪な微笑みに冷たいものが背筋を這った。

「見たよ…雄英体育祭。可哀想になぁ…あんなにボロボロになって頑張ってるのに、周りはオールマイトのことしか考えてないんだもんなぁ悔しいよなぁ。どんなに頑張ってもお前等ヒーローの卵はいつだって平和の象徴と比べられるんだ」

 あぁ。そういうことなんだ。

 ここに来るまで、どうして私がってずっと考えていた。どんなに思考を巡らせても答えなんて分からなかったけど、死柄木の言葉を聞いて漸く理解した。

「俺はオールマイトが嫌いだよ」

 ―――― こんな奴等と私が、”同類”だと思われていたなんて。
 理解すると同時に、口角が引き攣ったように吊り上がる。背筋だけじゃなく、心の奥までもが冷え切っていく感覚がした。

「あなたが言ってるのってつまり、”私はオールマイトが嫌いであなたも嫌いだから、よし仲間だ!”ってこと?面白いね。女の子みたいなこと言うんだ」
「……」 
「でも私、別にオールマイト好きだよ?あなたの方が断然嫌いかも。だから一緒にしないでよね、気持ち悪いから」
「…ッはは」

 死柄木は乾いた笑い声を上げ、徐々に大きくしていく。その様子に覆面の敵が「死柄木…!?」と狼狽するが、荼毘と呼ばれた敵がそれを手で制した。

 狭い部屋に鈍い音が響いたと思った時には左頬に鋭い痛みが走っていた。瞬く間に口内に鉄の味が広がり、続けてもう一発殴られる。「死柄木弔」とバーテンダーの敵の窘めるような声に、死柄木は渋々といった様子で動きを止めた。
 ポタリと口端から垂れた血が床を汚す。怒りのせいか、殴られてもどこか冷静な私は、癇癪を起こす子供みたいだなぁなんて呑気に考えながら死柄木を見上げた。
 …もしかしたら、本当はとっくの前から冷静ですらなかったのかもしれない。ただ頭の奥がやけに熱くて、ぼうっとしてしまう自分がいた。

「…癪に障るなぁその目。まぁいいよ…端からお前はおまけで、メインはこっちの方なんだ」
「…ハッ。俺かよ。そのクソ女がムカつくってのには同意してやってもいいが…」

 あ、と思った頃には遅かった。爆豪君は自由になった身で勢いよく椅子から飛び上がると、問答無用で死柄木を爆破してしまった。

「黙って聞いてりゃダラッダラよぉ…馬鹿は要約出来ねーから話が長ぇ!」
「死柄木!」
「要は”嫌がらせしてーから二人共仲間になって下さい”だろ!?無駄だよ。俺は!”オールマイト”が勝つ姿に憧れた!誰が何言ってこようがそこァもう曲がらねぇッ!」
「…お父さん」

 爆破の勢いで顔から吹き飛んだ掌を、死柄木が茫然と見つめる。静まり返った空間には依然として謝罪会見の映像が流れていた。

『爆豪勝己と名字名前は誰よりもトップヒーローを追い求め、もがいている。体育祭のアレを隙と捉えたのなら、敵は浅はかであると私は考えております』

 USJ事件。保須事件。いつだって相澤先生達には迷惑を掛けて、その度に助けられてきた。

『我が校の生徒は必ず取り返します』

 私達が拉致されたばっかりに尽力した先生達が非難されて頭を下げるなんて、そんなことさせたくない。だから期待して攫ってくれた敵共には申し訳ないけど、こんな場所さっさと抜け出してやる。
 纏わり付く拘束具を投げ捨て、椅子から立ち上がる。敵共は一斉に囲むようにして身構えた。

「言ってくれるな雄英も先生も…。そういうこったクソカス連合!言っとくが俺もコイツもまだ戦闘許可解けてねぇぞ!」
「自分の立場よく分かってるわね…!小賢しい子!」
「刺しましょう!」

 いくらおまけと言えど、私も爆豪君も相手にとっては利用価値のある重要人物。心に取り入ろうとする以上本気で殺しにくることはないだろう。さっきだって気に障ったならいつだって私を殺せたのに、死柄木はそうしなかった。ならば気が変わらない内にどうにかしてここを脱出するしかない。
 頭をフル回転させて方法を思案するが、ここに来てからというものの頭がガンガンと痛んで邪魔をしてくる。苛立ち気味に思わず舌打ちをすれば、爆豪君が敵に顔を向けたまま怒鳴った。

「さっきから黙ってやがるが最初の威勢はどうしたんだアァ!?こうなった以上どうすっか分かってんだろうなッ!」
「私じゃなくてあっちに怒鳴ってよ…分かってるから」
「ならさっさと建物ぶっ壊すなりなんなりッ…!」
「…?」

 爆豪君がちらりと此方を向いたかと思えば、私の顔を見て目を瞠った。「…テメェ、まさかッ」と何かに気付いた様子に、私は片眉を顰めるしかない。

「いけません死柄木弔!落ち着いて…」

 突如バーテンダーの敵、黒霧が声を荒げ、爆豪君が苦々しい顔で慌てて前を向き直る。
 一体なんだっていうんだ。頭痛の次は何だか身体も重くなってきたし、こんな時に限って最悪だ。

―――― そうじゃないの。何だかあなた、調子が悪そうに見えたから。無理しない方がいいわ。

「(…違う)」

 この症状は、ここに来てからなんかじゃない。本当はもっと前から体調不良を感じていた。この熱さも、怠さも、考えられる原因が一つしかない。
 
 …本当に、こんな時に限って最悪だ。 

「…手を出すなよお前等…コイツ等は…」

 ギロリと死柄木が爆豪君を睨む。その気迫に、あの爆豪君ですら息を呑んだ。
 死柄木はそっと床に転がる掌を拾い上げると、労わるかのように優しい手付きで顔に戻す。

「コイツ等は、大切なコマだ」
「……」

 予想していた反応と違っていたのか、黒霧が驚いたように立ち竦む。死柄木はやれやれといった様子で項垂れると、残念そうに溜息を溢した。

「出来れば少し耳を傾けて欲しかったな…。君等とは分かり合えると思ってた…」
「ねぇよ」
「ないね」
「…仕方がない。ヒーロー達も調査を進めていると言っていた…悠長に説得してられない。―――― 先生、力を貸せ」

 それまでニュースを流していたテレビ画面が砂嵐へと変わり、不吉なノイズ音を鳴らし始める。その画面の奥から先生と呼ばれた誰かの声が流れてきた。

『…良い判断だよ。死柄木弔』

  足の先から這い上がってくるような寒気。身を委ねたら簡単に呑み込まれてしまいそうな程低く、深い声色。それだけで、只者ではないことがすぐに分かった。
 一歩、小さく後退る。それは爆豪君も同じだったらしく、悟られないように威圧的に語気を荒げる。

「先生ぇ…?テメェがボスじゃねぇのかよ…!白けんなッ」
「黒霧、コンプレス。また眠らせてしまっておけ。…ここまで人の話聞かねーとは逆に感心するぜ」
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」
 
 その時、何者かが基地のドアをノックした。

「どーもォピザーラ神野店ですー」

 …こんな時にピザ?唯一の出入り口を振り返って呆気にとられていると、突然壁が爆発音と共に崩壊し、オールマイトが飛び込んで来た。
 その突然の登場に敵の態勢が崩れ、死柄木が焦ったように黒霧に指示を出す。しかし、黒い渦のゲートを発生させる前にヒーロー”シンリンカムイ”が大量の木の根で敵達を拘束してしまった。荼毘が炎で焼き尽くそうとするも、グラントリノの打撃を喰らい、成す術なくその場に崩れ落ちる。

「もう逃げられんぞ敵連合…何故って!?我々が来た!」
「オールマイト…!あの会見後にまさかタイミング示し合わせて…!」
「木の人!引っ張んなってば!押せよ!」
「やー!」

 拘束された敵が抵抗する為に暴れるが、シンリンカムイの個性は頑丈らしくビクともしていない。すると、背後のドアから「攻勢時程守りが疎かになるものだ…」とヒーロー”エッジショット”が隙間から侵入し、鍵を開ける。開け放たれた扉の奥からは次々と武装警察が雪崩れ込み、あっという間に敵共を包囲してしまった。
 まさか助けが来るなんて思ってもいなかった私達は目の前の光景に棒立ちになる。そんな私達の肩に、オールマイトが優しくも力強い手付きで手を置いた。

「怖かったろうに…よく耐えた!ごめんな…もう大丈夫だ。爆豪少年!名字少女!」

 白い歯を見せて笑うオールマイトの姿に全身の力が抜け落ちていく気がした。自分が思っている以上に緊張していたのか、それまで平気だった両足が情けなく震える。それでも、この人の笑顔を見ると何故かもう大丈夫だって思えるから不思議だ。
 それは爆豪君も同じだったらしく、ぐしゃりと口元が歪むと「こ…怖くねぇよヨユーだクソ!」と誤魔化すように叫ぶ。予想通りの反応にオールマイトは親指を突き出した。

「せっかく色々捏ねくり回してたのに…何そっちから来てくれてんだよラスボス…。仕方がない…俺達だけじゃない、そりゃこっちもだ。黒霧…持って来れるだけ持って来い!」

 恐らく”脳無”のことだろう。あれが来るのは厄介だ。しかし、身構える私達に対してオールマイト達は動揺すらしていない。それもその筈、死柄木が叫んでも脳無が現れることはなかった。
 ワープを試みた黒霧が顔を歪ませ、申し訳なさそうに口を開く。

「すみません死柄木弔…。所定の位置にある筈の脳無が…ないッ…!」
「!?」
「やはり君はまだまだ青二才だ死柄木!」
「あ?」
「敵連合よ…君等は舐めすぎた。少年少女の魂を、警察のたゆまぬ捜査を、そして…我々の怒りを!おいたが過ぎたな!ここで終わりだ死柄木弔!」

 これまで幾度と見て来た平和の象徴の風格。思わず此方まで怯んでしまいそうな威圧を一身に受け、死柄木は怒りで身体を震わせる。

「終わりだと?ふざけるな…始まったばかりだ」

 ギリギリと奥歯を噛み締め、無駄だと分かっていながらも拘束を解こうと身を捩る。

「正義だの…平和だの…あやふやなもんで蓋をされたこの掃き溜めをぶっ壊す…。その為にオールマイトを取り除く。仲間も集まり始めた。ふざけるな…ここからなんだよ…黒ぎッ…!?」
「うッ…」

 細い何かが黒霧の身体を貫いたかと思うと、それきり黒霧はガクっと崩れ落ちて動かなくなった。傍にいた敵が「殺したの!?」と悲鳴を上げる中、細い物体は徐々に元の大きさを取り戻し、エッジショットの姿に戻った。

「中を少々弄り気絶させた。死にはしない。忍法千枚通し!この男は最も厄介…眠っててもらう!」
「さっき言ったろ。大人しくしといた方が身の為だって」

 グラントリノはそう言って、次々と目の前の敵の実名を挙げていく。それが何を意味するか、嫌という程敵は理解しているだろう。
 長い間詳細不明だった敵連合。しかし、少ない情報と時間の中で警察はここまで素性を突き止めた。基地も突き止め、脳無の格納庫も既に破壊している。もう逃げ場はないのだ。

「なぁ死柄木。聞きてェんだが…お前さんのボスはどこにいる?」
「……ふざけるな…こんな、こんなァ…」

 両目を血走らせ、死柄木は譫言のように言葉を繰り返す。次第におかしくなっていく様子に困惑していると、オールマイトが怒りを露わにして「奴は今どこにいる!死柄木!」と叫んだ。

「お前が!嫌いだッ!!」

 それが引き金となったのか、死柄木が狂ったように語気を荒げた瞬間、その背後から黒い液体と共に何処からともなく脳無が現れた。
 何もない場所からどうして!?慌てて黒霧に目を向けるが、彼は気絶したままエッジショットに抱えられていて個性を使えるような状態ではない。その間にも黒い液体がどんどん溢れて、中から無数の脳無が飛び出して来る。
 すると、隣に立っていた爆豪君が突如として口から同じ黒い液体を吐き出した。その光景に目を見開くも、すぐに異変を感じた私は慌てて自身の口を両手で抑える。
 腹の底から喉元まで何かが一気にせりあがって来る。その異臭と不快感に耐え切れず吐き出すと、真っ黒い液体がどろどろと口から溢れて止まらなかった。

「お…えッ!」
「ッだこれ!体が…飲まれ…」
「爆豪少年!名字少女!」

 「Nooo!」オールマイトの悲痛な叫びを最後に、どぷんと体が液体に飲み込まれた。


 一面が黒に染まってぐるぐると視界が回る。まるで何処かに転送されているような衝撃に成す術なく身を委ねていると、私は瞬きの一瞬の間で外に放り出されていた。
 弾けるような水音と共に「くっせぇえ!んだこれ!」と爆豪君の声が聞こえてハッと我に返れば、暫く見ていなかった外の景色が視界に飛び込んで来て、絶句するしかなかった。

 建物が、街が、消えていた。まるで大規模な爆発でも起きた後のように辺り一面が焦土と化し、人気すらない。
 その崩壊した街の真ん中で、私達は立たされていた。

「悪いね爆豪君。名字君」

 此方を見下ろす目の前の人物からは、テレビの奥で聞こえた男と同じ声がする。内臓が凍り付くような低い声。その異様なマスク姿に、この男がオールマイトが言っていた”奴”なのだと理解する。
 ―――― 先生と呼ばれた男。全ての元凶。敵連合のブレイン。

「げぇえ…」
「!?」
「また失敗したね弔」

 振り返ると、私達と同じように黒い液体で転送されて来た敵達が次々に地面に落ちていた。その中心にいた死柄木に男は柔和に語り掛けると、そっと手を差し伸べる。

「でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り返した。この子達もね…君が”大切なコマ”だと判断したからだ。幾らでもやり直せ。その為に僕がいるんだよ…全ては、君の為にある」

 包み込むように優しく、言葉の一つ一つが鎖のように重く纏わり付いてくる。払っても払ってもそれが剥がれることはない。この場にいる限り、この男がいる限り、この不快感が消えることはない。
 気圧されたように爆豪君が一瞬、退避ぐ。その後ろに立つ私も、耐え切れず地面に膝をついた。

「!?おまッ…」
「ハ…はぁ…ご、ごめ…」

 音で気付いた爆豪君が此方を振り返り、眉間に深く皺を寄せる。吐き出された息は熱く、止めようにも意に反して荒い呼吸が漏れる。
 梅雨ちゃんのあの時の心配は決して気の所為なんかではなかった。度重なる過度なストレス、恐怖、疲労。それらが一気に押し寄せて来て、こんな時に限って表に出て来てしまった。

「(熱発なんて…ありえないッ!最悪最悪最悪ッ!)」

 先程の黒い液体の異臭の助長もあって、より強い吐き気が私を襲う。更に茹だるような熱さに身体が思うように動かなくて、手をついた先に広がる地面が滲んで見えた。
 こんなの、爆豪君に怒鳴られる所かぶっ殺されたって文句は言えない。震える足を叱咤して何とか立ち上がろうとしていると、誰かが私の腕を掴んでぐいと立ち上がらせた。驚いて顔を上げると、そこには前を見据えたままの爆豪君が私を支えるようにして立っていて、目を見開く。

「爆、豪君…」
「チッ…。どうりで言動がおかしい訳だ。テメェ…こんなとこでぶっ倒れたらそン時は分かってんだろうなァ。意地でもクソでも踏ん張れやッ」

 私の体調のことなど端から気付いていたかのように爆豪君が耳元で呟く。私は辛うじて頷くと、言われた通り意地でも両足に力を入れて踏み止まった。

「…やはり、来てるな…」

 元々目当ては別にあったのか、立ち止まったままだった男が静かに空を見上げる。同時に遠くから何かが猛スピードで突っ込んで来ると、目の前の男に衝突した。

「全て返してもらうぞ!オール・フォー・ワンッ!」
「随分遅かったじゃないか。また僕を殺すか…オールマイト」

 空から現れたのはオールマイトだった。その男を”オール・フォー・ワン”と呼び、二人は激しく掴み合う。膨大な力と力がぶつかり合い、そして離れた瞬間、爆発的な風圧が押し寄せて来て私達は敵共々吹き飛ばされてしまった。

「うわッ!」

 爆豪君に支えられていたこともあって、二人揃って後ろに転がる。私達は何とか地面を掴んで停止するが、繰り広げられた戦闘のレベルの違いにとてもではないが身動きが取れない。
 オール・フォー・ワンはあのオールマイトの攻撃を素手で弾いた。それだけでも常軌を逸しているのに、私達にはどうすることもできない。
 ふと、脳裏にオールマイトから聞かされた秘密が蘇る。五年前にある敵から空けられたという腹の大穴。そんなことができる敵なんて、目の前の男以外考えられなかった。
 ―――― オールマイトにとっての最大の宿敵。その戦いが今、目の前で繰り広げられようとしている。

「爆豪少年と名字少女を取り返す!そして貴様は今度こそ刑務所にぶち込む!貴様の操る敵連合もろとも!」
「それは、やる事が多くて大変だな…お互いに」

 オール・フォー・ワンの腕が不自然に膨らむ。その力が解放されたと思った時には既に、オールマイトは建物をいくつも貫通しながら吹き飛ばされた。更に崩壊していく神野区に、最早言葉にすらならない。

「”空気を押し出す”+”筋骨発条化”×四”膂力増強”×三。この組み合わせは楽しいな…増強系をもう少し足すか…。そうだな、名字君の個性なんか奪ってみたら、ピッタリなんじゃないだろうか」
「や…やだ…来ないで!」
「クソッ!オールマイトォ!」
「何、ちょっとした冗談さ。そんなに震えないでおくれよ……それに、心配しなくてもあの程度じゃ死なないよ」

 今のは絶対に、冗談なんかじゃなかった。そう思わせる程の迫力がこの男にはある。
 オール・フォー・ワンはくるりと私から方向転換すると、死柄木の方を向いて「ここは逃げろ弔。その子達を連れて」と右手を翳す。その指先が黒く歪んでいくと、刃のように尖って気絶したままの黒霧に突き刺さった。
 近くにいた敵が「ちょ、あなた!彼やられて気絶してんのよ!?」と反抗する。しかし、、オール・フォー・ワンは意にも介さずワープの個性を強制発動させた。

「さぁ行け」
「先生は…!」

 黒霧は気絶している筈なのに、その個性は暴走したかのように一人でに発現して巨大なワープゲートを作り出す。するとどこからか舞い戻って来たオールマイトが弾丸のように突っ込み、オール・フォー・ワンと激しくぶつかり合う。

「逃がさん!」
「常に考えろ弔。君はまだまだ成長できるんだ」
「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれてる間に!”コマ”持ってよ!」
「めんっ…どくせー」

 まだ動ける敵共が私達の前に立ちはだかり、行手を阻んでくる。爆豪君は既に戦闘態勢に入っているし、当然私もそうしなければならない。けど、身体が重くて思ったように動かない。
 そんな私を見兼ねてか、爆豪君が敵を睨み付けながら小声で言葉を紡ぐ。

「テメェはこんなとこでへばるようなタマじゃねぇだろ…それともその程度の雑魚だったってか」
「雑魚…じゃないッ。私は、まだやれる」
「へッ…いつもより随分弱気じゃねぇか」

 オール・フォー・ワンに邪魔されてオールマイトは此方に手が届かず、敵共は最初と違って強引にでも私達を連れ去ろうとしている。六対二。逃げる隙がないなら戦うしかない。ならば、倒れてる場合ではないじゃないか。
 熱に冒されながら何とか地面を踏み締める。せめて、閉じ込める個性を持つ敵"コンプレス"には触れられないようにしないと。
 一斉に襲いかかってくる敵に爆豪君が爆撃を繰り出し、相手の視界を奪う。その隙に懐に忍び込んだ私が打撃を喰らわせて距離を取りながら後退していく。
 どれだけ打ちのめされても意地でも襲い掛かってくる敵の攻撃を何度も捌くが、それはもう身体が覚えた動きを繰り返しているだけで私自身の意識は朦朧としていた。
 そんな私達に、オールマイトが慌てて飛んでくる。しかし、背後から伸びたオール・フォー・ワンの腕によって地面に叩き付けられてしまった。
 私達がいるからオールマイトは安心して戦えない。その事実に、奥歯を強く噛み締める。痛みでも感じていないと今にも倒れてしまいそうだった。

―――― その時だった。敵と私達の間を横断するように、複数人の影が頭上を駆け抜ける。

 見覚えのある顔触れだった。飯田君に緑谷君に、支えられるようにして此方に手を伸ばす切島君。

「来いッ!!」

 その呼び掛けに、誰よりも早く動いたのは爆豪君だった。ガシっと私の腕を強く掴み、引き摺るようにして振りかぶる。
 「え、」と言葉を発する間もなく、気付けば私は爆風と共に全力で投げ飛ばされ、空を飛んでいた。

「ぎぃいやぁああぁあッ!!」
「ぶっ倒れんならやることやってから好きなだけしろやァッ!!」

 徐々に声が遠くなり、伸ばされた切島君の腕に近付いていく。しかし、あと既の所で指先が掠り、勢いを失った私は真っ逆さまに落ち始めた。

「嘘だろ…名字!」

 まさか、こんな間抜けな死に方をするのだろうか。こんな所から落下したらいくら私の個性でもひとたまりないだろう。
 襲ってくるであろう痛みを予想して思わずぎゅっと目を閉じる。すると、痛みより先に誰かが私の手を勢いよく握った。

「バカかよッ…!」

 落下が止まった。同時に聞こえる筈のない爆豪君の声が近くで聞こえて、恐る恐る目を開ける。爆豪君が私の腕を掴み、その爆豪君の腕を切島君が繋いでいた。
 まさか、後から飛んで来た流れで私を拾ってくれたのだろうか。爆豪君の爆破で空を飛べると言っても流石に二人分の体重じゃここまで来れないから仕方なく私を先に投げたんだろうけど、あまりにも心臓に悪すぎる。本当に死ぬかと思った。
 それでもこの状態で何かを叫ぶ気力なんてなくて、ぶらーんと一番下で揺れる私は風圧に耐えるしかない。

「爆豪君!俺の合図に合わせ爆風で…」
「テメェが俺に合わせろや!」
「張り合うなこんな時にィ!」

 落ち掛けた威力を爆豪君の爆風で補い、空を駆け抜けていく。すると、どういう方法か謎だが敵共が私達の後を追い掛けて同じく空を飛んできた。

「うわ!?追いつかれんぞ!」

 ぎょっと目を剥くのも束の間、私達の間にどこからともなくヒーロー"Mt.レディ"が巨大化して現れ、敵はその顔面に衝突して落下していく。Mt.レディも無理をしていたのか「行って!バカガキ…」と言葉を溢すなりその場に崩れ落ちてしまった。
 それでもしつこい敵共はもう一度向かって来ようとするが、素早いグラントリノによって動きを封じられていた。
 多くのヒーローの手助けによって、私達は無事着地に成功する。だが、殺しきれなかった勢いと共に地面を派手に転がってしまい、漸く止まった所で私はそのままぐったりと地面に突っ伏した。そんな私を他所に、切島君達は歓喜の声を上げている。

「ッよっしゃあぁあ!」
「まさか本当に成功するなんて…」
「安心するのはまだ早いぞ!早く駅前に移動しよう!」
「ッと、そうだな…。爆豪は見るからに平気そうだが、大丈夫か名字?」
「…今そいつに話し掛けても多分反応ねぇぞ」
「え?す、すまねぇ名字!ちと派手に着地しちまったな…って熱!?顔も腫れてるし、何でこんななってんだ!?」
「この馬鹿捕まってる最中にアホ丸出しで熱出しやがった」
「…さっきから、馬鹿アホクソゴミって…ひどいよ」
「そ、そこまでは爆豪も言ってねぇぞ!?」

 地面に横になったまま荒い呼吸を繰り返す私に、切島君達の心配そうな視線が降り注ぐ。先程無理矢理身体に鞭を打ったせいもあるが、一先ず難を逃れたこともあって、どんなに頑張っても全く力が入らなかった。
 そんな私の傍で緑谷君が片膝を付くと、顔を悔し気に歪ませた。

「ごめん名字さん…僕達がもっと早く助けに来れれば良かった」
「何、言ってんの。こんなの充分すぎるくらい…だよ」

 寧ろ、どうしてこんな危険なことをしたのかと咎めたいくらいだった。保須での事件を経験した飯田君と緑谷君ならそれがどれだけ身の程知らずなことなのか分かっている筈なのに。
 いくらでも小言は出てくるが、そんな元気もないし今はこれがオールマイトにとっても最善であると分かっているから大人しく言葉を呑み込む。すると緑谷君のスマホが鳴り響き、耳に当てた緑谷君が「轟君!八百万さん!」とここにいない二人の名前を呼んだ。
 まさか、あの二人もここへ来ていたというのか。そんなの、あんまりだ。死ぬかもしれなかったっていうのに。
 私の心情とは裏腹に、緑谷君は嬉々として奪還成功の報告をする。どうやら二人は作戦に協力した後、別方面に逃げ切れたようだった。

「とりあえず、名字は俺が背負うよ。何かあった時に緑谷と飯田の手が空いてた方がすぐ動けんだろ」
「ああ…。名字君を頼む」
「言っとくが俺ァ助けられた訳じゃねぇ!一番いい脱出経路がテメェ等だっただけだ!お荷物もいたしな!」
「おう!ナイス判断!」
「オールマイトの足引っ張んのは嫌だったからな」

 そうだ、オールマイトは無事なのだろうか。切島君に背負われながら、私は遠くに残してしまったオールマイトの姿を思い浮かべる。私達がいなくなったことで心置きなく戦える筈だけど、私の心にずっと引っ掛かって離れないのはその裏に隠された彼の秘密だった。
 偶然遭遇した、オールマイトの真の姿。いつもの筋骨隆々の姿はほんの少ししか保てず、弱りきっていることを知っているのはほんの一部の人間しかいない。そんな姿になってしまった全ての元凶と、彼は今戦っているのだ。

「(血を吐いても、平気だって言ってた。オールマイトは…嘘だけは言わないって言ったんだ)」

 だから私はその言葉を信じる。あの人が何の根拠もなく私を信じてくれたように。
 だから、絶対に大丈夫だって思いたかった。

 ―――― しかし時に現実は、残酷な運命を運んでくる。

 少しでも不吉な想像をした瞬間からその未来が選び取られてしまうかのように、嫌な予感は決して裏切らない。
 駅前のビルに備え付けられた巨大モニター。その生中継で映し出されていたのは、まだ誰にも知られていないトゥルーフォームのオールマイトの姿だった。

「え…?」
「なんだ、あのガイコツ…」
『えっと…皆さん、見えますでしょうか?オールマイトが…萎んでしまってます…』

 ―――― 人々を笑顔で救い出す平和の象徴は、決して悪に屈してはいけないんだ。

「そ…んな…」

 人集りがざわざわと騒がしくなる。皆口々にオールマイトの姿に疑問を抱き、困惑したように画面を見つめている。
 画面の奥のオールマイトは全身が血で汚れ、辺りは原型も分からないくらい崩壊していた。それだけで、壮絶な戦いが向こうで繰り広げられているのだと分かる。

「(どうして…)」

 どうしてオールマイトばかりが傷付き、血を流さなければならないのか。どれだけそう思っても答えなんて分かりきっていた。彼が"平和の象徴"で、私達国民を支える"柱"だからだ。彼がそれを望んだ。だからこそ、人々は窮地に陥った時、オールマイトの名を叫ぶ。負けるな、勝てと声を上げる。

「あんたが勝てなきゃあんなの…誰が勝てんだよ…」
「姿は変わってもオールマイトはオールマイトでしょ!?」
「頑張れオールマイト!負けるな!」
「頑張れぇえええ!」

 一人の人間が抱えるにはあまりにも重すぎる責任。国民が一丸となってオールマイトを鼓舞し、その光景に視界が滲んだ。

「勝てやッ!オールマイト!!」

 爆豪君と緑谷君の叫びが一層大きく響き渡る。緑谷君には分かっている筈だった。今この瞬間の勝利が、オールマイトにとって何を意味するのか。分からない筈がなかった。
 その涙がまるで、一人だけ訪れるであろう未来を予測した胸の痛みのように見えて、目の前が真っ暗になっていく。
 画面の奥のオールマイトは己を奮い立たせると、その痩せ細った身に似合わない筋肉で膨れ上がった右腕に更に力を溜めていく。その歪な姿が物語るのは活動の限界。しかし、彼は決して一人ではなかった。

「エンデヴァーだ!」
「エッジショットやシンリンカムイもいるぞ!」

 私と爆豪君を救出しに来てくれたヒーロー達が力を合わせて、オールマイトの為に隙を作り出す。オールマイトは血反吐を吐きながらもオール・フォー・ワンに向かって弾丸のように突っ込んで行った。

 ―――― 誰もがその瞬間、オールマイトの勝利を願った。涙を流してその名を叫んだ。
 渾身の一撃が、命をも乗せた拳が、雄叫びと共にオール・フォー・ワンの顔面にめり込んだ。

 巨大な爆風と共にカメラを抱えたヘリが飛ばされ、画面の映像が途切れる。世界から音が消えたのではないかと錯覚してしまう程の静寂の中、人々が息を呑む。
 すると、映像は砂嵐の後に再びオールマイトの後ろ姿を映し出した。

「オールマイトォッ!」

 空高く突き上げられた右腕。覚束ない足取りで勝利のスタンディングをしている。その姿に、その場は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。
 歓喜の声に溢れる中、画面の奥にいたオールマイトが静かに指先を此方に向ける。それが誰に向けたものなのか、捉え方はきっとそれぞれだ。

『次は―――― 君だ』

 短く発信されたメッセージ。それは一見、まだ見ぬ犯罪者への警鐘。平和の象徴の折れない姿。…はたまた、真逆の意味か。
 緑谷君が泣き崩れるのが見えて、私の中の点と点が繋がり、線となった。この中でたった一人だけ、受け取り方が異なるメッセージ。それは警鐘でも激励でもなく、彼にとって"継承"に他ならなかった。

「…嘘吐きッ…」

 大丈夫だって、平気だって、嘘だけは言わないって言ってたのに。
 本当は、血を吐いている時に、トゥルーフォームなんてものがある時点で、気が付くべきだった。それらがヒーローとしてのオールマイトの限界を意味しているのだと。その灯火が消え掛かっているのだと。
 目の前のオールマイトは勝利のスタンディングこそしているものの、その姿は今にも折れそうな程か弱い。その姿が、全ての力を出し切ってしまったことを物語っていた。

 ―――― 平和の象徴としてのオールマイトは消えた。

 それは、いつかは来るべき未来だったのかもしれない。しかし、そのきっかけを作ったのは、間違いなく敵に攫われた自分が原因だった。私が、終わらせてしまった。
 何が嘘吐きだ。人の所為にするな。私が攫われなんかしなければ。噴水のように次々と後悔が噴き上がる。けれど、熱に冒された頭では何も正常に考えられなくて、たたただ壊れたみたいに涙と嗚咽を漏らすしかできなかった。
 そんな私に切島君が「え!?どっか痛むのか?どうしたんだよ!」と慌てふためいている。

「(緑谷君と…私だけが知っていたのに)」

 罪悪感に押し潰されそうでいっぱいいっぱいだった私はまともに返事もできず、込み上げてきたものに無理矢理背中から下りるとその場に蹲るようにして屈んだ。
 口から心臓でも飛び出そうだった。吐くかと思って慌てて下りたけど、どれだけ口を押さえても出るものは出なかった。
 私の傍に、いつの間にか合流していたらしい八百万さんと轟君が駆け寄ってくる。八百万さんは何かを叫ぶと、ぐしゃりと顔を歪めて私を強く抱き締めた。

 けれど、私は自分の泣き喚く声のせいで、誰の声も頭の中に入ってきやしなかった。
 ―――― 勝利の代償として私達が失ったものは、あまりにも大きかったんだ。




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