嫌い、嫌い、大好き13(end.)
2013/07/31 23:01

彼の指を解放し、言葉を紡ぐ。

「嫌になるぞ。何もかも」
「今更」

馬鹿な冗談を聞いた、と鼻で笑われた。
どうやら臨也の中で後悔という言葉はないらしく、いちいちありもしない未来を想像しては不安がる静雄に呆れているらしい。
呆れ、そしてそういうところがいとしいと、熱のこもった目を向けられる。

「だってこの今になって君を嫌になったら、俺なんて空っぽだよ。何も残らないんじゃないかな」
「…………」

あたりまえのように言われ、静雄は返す言葉を探すことさえ諦めた。

(こういうことが言えんだもんな、こいつは)

すっかり胸中のわだかまりは消えてしまった。解きほぐされ、霧散し、残滓さえ残らない。
静雄は自分が子供に負けたのか臨也に負けたのか、よくわからなかった。
わかるのは、今の瞬間が酷く心地いいということだけ。恋人のやわらかな声に甘え感情をさらけ出すのは羞恥と後悔と、そしてそれに勝る甘美な快感があった。

羞恥を押し隠しつつ、臨也のほうへ寄りかかる。

「どうやったらそういう思考になれんだよ」
「シズちゃんも大概だと思うけど」

傾けた頭は彼の肩口に。髪を優しく撫でられる。
何度も、何度も。

「ちょうどいいんじゃない? 君と俺って、たぶん複雑なピースなんだよ。なかなかはまらない、お互いにしかはまらない。でも、一度はまると二度と離れない」
「おまえが言うと、ほんとにそういう気になるから恐いんだよ」

くすぐったさを誤魔化すように臨也の膝を小突く。
悲壮な顔をしてここに来た自分が恥ずかしい。
あの時は必死だった。わけのわからない衝動に突き動かされて、嫌だ、なんて言って。
けれど今となってはそれこそ子供の癇癪だったとわかる。
迷子になって、ようやく見つけてくれた人間に抱きつきながら相手をなじる、そんな子供のわがままだ。

「おまえのそういうところ――」
「――大好き?」
「…………」

続けられた言葉に頷くほど素直ではない。けれど顔は真っ赤になって目は潤んで、唇はもう一度あの感覚が欲しくて半開きになっている。
言わなくても馬鹿みたいに正直だと、静雄自身でさえ思う。

わがままな子供もきっと嬉しさを隠しもせず頷いているのだ。
静雄はそれを認め、甘えるように臨也に唇を寄せた。

(end.)



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