汽笛 | ナノ

R-16
少し、濃い目です。









息を吐くと、微かに白かった。

マンションのベランダで、ぼんやり朝焼けの空を眺める。
町はまだ、目覚めていない。
静かな朝の気配は今が早朝だということを教えてくれた。

「ふー‥…―――」

再び、息を吐く。
代わりに、冷えた酸素を肺に送り込んだ。その冷たさに、気管支がきゅっと縮こまる。けれども肺には心地よかった。


ポー‥…―――

遠く、どこかから汽笛が聞こえる。
近くの港に来ている貨客船からだろうか。

ポー‥…―――

秋の早朝の空気に馴染む、きれいな音だった。


「神楽、」

静かな低音が不意に呼んだ。兄の声だ。
ちらりと視線を向ければ、眠った時と同じ服装をしたまま窓辺に寄り掛かる姿が見えた。

「風邪引くよ‥」

そう言って、兄は私を背中から抱え込んだ。
布越しに温かい体温と柔らかい毛布の肌触りを感じる。
兄の両腕が冷気に冷えた身体を抱き締めて、思わずその温かさに身を擦り寄せた。

「冷えてる」

そう口にした兄は、熱を失いつつある耳朶に熱い唇を寄せてキスをした。

「うん」

耳朶に、首筋に、うなじに。渇いた唇が戯れに触れていく。

「っ‥かむ、ぃ」

温かい手が腹部からTシャツの下を這う。ゆっくりと上がっていく手が触れる度、肌が粟立った。

「ん、‥ぁっ」

喉の奥から声が漏れる。
肌が跳ねた。ざわざわとした感覚が肌を駆ける。

「くすっ‥……ブラ、付けてないね」

耳元でからかうように兄が笑った。
笑いながらやさしく、小ぶりな胸の輪郭を曖昧に撫でる。
胸の先端を硬い指先が悪戯に触れるのを幾度も繰り返し、じれったい痺れを与えてきた。

「神威っ、ま‥って」

崩れそうになる腰を庇って、身を捩る。酷く甘い拘束から逃れようと、兄から身体を離しても神威の両腕がそれを許さなかった。

「だ、めっ」

片手が左の乳房を掴んだ。
空いた片手は容赦なくズボンの中へと侵入してくる。

「すごい‥。心臓、どくどく言ってる」

純粋に感心するように、耳元で兄が言った。
本当に、手の平から心音が伝わるものなのだろうか。考えても、私には分からないことだった。

「ぁッ‥」

ズボンから下着の中へ進む手は、僅かに湿った秘部へその指先を伸ばす。
くちゅり、微かな水温が肌を赤くした。血が、熱い。

「っふ、ん‥…ぁ、ん」

蕩けるような優しい愛撫が、ひくひくと子宮を締め上げる。
朝の冷えた空気が、はくはくと酸素を求める口から肺へ流れていった。

「声、我慢しなよ。誰かに見られたくなかったらね」

耳元で兄が言う。声に愉悦を滲ませた、色香のある音だった。

「部屋へは、行かせてあげないよ‥。勝手に外に出る、お前が悪い」

どうやら兄は、私が黙ってベッドを抜け出したことが気に入らなかったようだった。

「あっ、…っぁく」

濡れた内壁を指先が掠める。時たま、親指が覆われた突起に触れて、予期せぬ快感に身体が震えた。その度、淫らな愛液が溢れるのが自分でも分かって、余計にそれが頭を熱くさせる。

「ひぁ、ぁっ‥っん」

出入りする指が二本に増える。
両手で口を覆って、零れる声を抑え付けようとしても、次から次へと溢れる熱に溺れた声が指の隙間から零れ落ちた。

「神楽‥」

熱を含んだ声が、耳元で呼ぶ。その声にさえ、下半身が疼く。

「ふふ、感じてる?‥お前のナカ、締まってるよ」

兄が首筋に唇を寄せ、ちりりと痛む鬱血の跡を残しては、指先の愛撫を激しくした。

「んっ、‥ふぁ、ぁっ」

傲慢に親指が膣の入口をなぞる。
背中が弧を描く。
もう無理。
もう、いっちゃいそう。

「‥―――っぁあ」

身体の力が抜けて全身で兄に寄り掛かると、長い腕が腰を支えて抱き締めた。
温かい胸元に顔を寄せて、粗く呼吸を繰り返すと、兄の匂いが微かにした。

「はぁ、っは‥はぁ」
「ふふふ、‥かわいい」

兄の唇が目元にキスをする。

「ぁ、‥にぃ、ちゃ」

見上げて、兄を呼ぶ。
目と目が合った。
黒い青がきれいだった。

「んっ、ふぅ‥」

熱い兄のが唇に触れる。
やわらかく触れて、甘噛みして。やさしいクセに、どこまでも傲慢で獰猛な口付けだった。


ポー‥…―――

汽笛が鳴る。
出発の汽笛だ。
この船は、どこに行くのだろう。
ここじゃないどこかへ、連れて行ってくれるのかな。

「ふっ、‥は…ぁ‥」

もし、そうだったなら。
私も連れて行ってほしい。

「‥ん、ふぅ‥…」

このまま、蕩けるような歪な甘さの中にいたら。
本当に、溶けてなくなってしまいそうだ。
何も残さずに。
この兄の中へ、呑み込まれてしまいそうだ。

「ふ、はぁっ‥は‥…はっ」
「かぐら、」

温かい身体に抱き込まれる。
力の入らない手を兄の胸に沿えて、もう何も映すまいと、ゆっくりと瞼を閉じた。

「勝手に部屋から出ちゃダメだ‥。俺たちは、家の中でしか、傍にいられないんだから」

そう言って、兄はさらに私の身体を抱え込んだ。

私たちが傍にいて触れられるのは、この家の中だけ。
それは暗黙のルールで。
それは、私たちを縛り付けるものだった。

だけど、

「今だけは。誰も、見てないヨ‥?」

そう言って、精一杯背伸びしたら。
私はようやく、自分から兄の唇に触れることができた。


ポー‥…―――

汽笛が鳴る。
出発の合図だ。

いつか訪れる私たちの別れを予感する、澄んだ汽笛の音。

「‥…神楽、」


早朝の空気はとても静かだ。

まだ、この町は眠っている。
だから、今だけは。
今だけは、こうして、このままで、いたかった。












後書き、

4周年記念小説

兄神、現代パロ、両想い、艶っぽく、シリアス


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