じゅーんふぁーすと | ナノ

沖田先生(23歳)
神楽ちゃん(高2)




「神楽ァ、授業後に資料室に来なせィ」


胃が満たされ快眠を楽しんでいた5時間目。授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り目覚めるのと同時に、彼の先生はそうおっしゃった。

「はぁぁあ!?嫌アル!」
「爆睡してた奴が何言ってんでさァ。それにアンタ、期末ヤバいだろーが。猛特訓すっから、教科書持ってちゃんと来なせィよ」

き、期末!
すっかり忘れていた現実を思い出して頭を抱える。今は6月の始め。期末は6月の末。過去を振り返ると自分の場合、今からでも始めないと赤点は確実だ。

「うぅ、期末」
「大丈夫ですか、神楽ちゃん」

隣からやさしい声がかかった。その方へ眼を向けると友だちのそよが慈悲深い女神の如く、心配そうに見詰めている。

「う〜、大丈夫アル。私はこの苦行を乗り越えてみせる!」
「その意気ですわ神楽ちゃん!」
「ありがとそよちゃん、好きヨー!」
「私もですわ、神楽ちゃん!」

女子高生独特の謎のテンションで騒ぐ2人を、今日もまたクラスメイトたちは平和な眼差しで眺めていた。
本日、晴天。
暑くも寒くもない、穏やかな一日である。





「んじゃ、この公式を使ってこの問題を解きなせィ」

教科書には三角形とアルファベットがびっしりと詰まっている。何なんだ、コレは?何なんだ!?

「何してんでさァ?これはさっき授業でやったじゃねぇかィ」

石のように硬直している私を、先生は呆れたように見下ろした。

「寝てたから無理ヨ!」
「エラそーに言うんじゃねェ!」

すかさずツッコミの手が頭を叩く。暴力反対!キッと睨みつけると思ったより沖田先生が近くにいてビックリした。先生も驚いたように固まってて、お互い無言に固まり合う。

うわー、先生の肌きれー

呑気に関心してしまう。
さすが、学園一のモテ男!
クラスメイトの子もよく沖田先生の話をした。いけめん、とか、びけい、とか。きゃぁきゃぁ言うクラスメイトは、それこそまさに恋する乙女!先生も罪な男ネ、まったく。

「これってココにコレを入れるアルか?」
「え、?」

沖田先生が間抜けな声を出す。
いけめんが台無しだ。あ、でもこれはこれできゃぁきゃぁ言われそうだ。

「えーと、そうだよナ。あっ。で、ココはこーなって、」

おお、解けそうだ。
今日の神楽様は冴えてるネ!

「ほいや。コレであってるアルか?」

解けた答えは、我ながらなかなかすまーとである。

「っ、…ああ、正解でさァ」

先生は気まずそうに答えた。
視線は彷徨い、そして教科書を睨み付けている。
ぶっきらぼうな返答に、普段は澄ました態度がどこへやら。どうしたのだろう。

「せんせぇ?」

仄かに耳が赤い。風邪だろうか。







*****

神楽の顔が思ったよりも近くにあって、不覚にも心臓が跳ねた。
キメの細かな白い肌に、うっすらと桜色の頬。澄んだ空みたいな蒼い瞳に見詰められると、自然と身体が熱くなった。

「これってココにコレを入れるアルか?」
「え、?」

思わず間抜けな声が出てしまう。
それが余計に恥ずかしくて、不甲斐なくも動揺してしまった。

「えーと、そうだよナ。あっ。で、ココはこーなって、」

キラキラと大きな瞳が輝く。
問題を解けることが嬉しいのか、頬が高揚して、その、何というか…。

「ほいや。コレであってるアルか?」
「っ、…ああ、正解でさァ」

かわいい。
向けられた瞳がきれい過ぎて、どくん、と心臓が高鳴る。

ああ、しまった。

咄嗟に後悔する。
何で、こんな密室に呼んでしまったのだ。
落ち着け、落ち着け自分。普段の冷静さを思い出せ。
自分に念じれば念じる程、頭の中は熱に浮かれたみたいに覚束ない。
それに、尋常じゃないぐらいに身体が熱い。

思考散漫。
心臓暴走。

今すぐ自分をぶっ飛ばしたい。


「せんせぇ?」

控えめなソプラノが呼んだ。
そうだ、自分は先生なのだ。
だから、その不安そうな顔は…。

ああ、止めてくれ。









後書き、

天真爛漫の神楽ちゃんに、思わず内心ドキドキしてしまう学園一モテ男の沖田先生。
そしてその後、沖田先生は神楽ちゃんに仄かな恋心を持ちますが、なにぶんヘタレなため告白できずに卒業の日を迎えてしまいます。
そして遂に卒業式当日…。

という感じで書けそうですね。笑




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