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熱い唇が首筋をなぞり、じれったいほどの疼きがピリピリと肌を刺激する。

「っ、」

一瞬の痛みさえも待ち望んでいたかのように、甘い快楽が脳内を占めた。


ヤベぇ、イキそー












「ごちそうさまでした」

「生き返ったかィ?」


こくん、とうなずく一つ年下で留学生でもあるチャイナっ娘が、実は吸血鬼だと知ったのはつい最近の出来事だ。


毎回、サボりの時にはこの屋上を使っている。いつものように暖かな午後の昼寝を楽しんでいると背後に僅かな気配を感じ、瞬間、首筋をがぶり。間一髪でチャイナの両手首を掴み上げると、見開かれた蒼の瞳と目が合った。
いやいや、驚いてるのはこっちだから。

「男を襲うだなんて、大胆なお嬢さんでさァ。」

にやり、口元が上がる。ラッキーだと思った。何故ってそりゃあ、どんぴしゃストライク!、だから。
大きな瞳は空みたいな蒼さで息が止まってしまうほど美しい。白い陶器のような肌は、ぷっくりとした桃色の唇を艶めかしく栄えさせている。
そして何より、

「そんな睨まないで下せェよ、」

この強気の態度といったら、サド心を掻き立てるには十分過ぎた。

思えばこの時から、己の血液は彼女のためにあると確信したのである。








「のどカラカラで死ぬかと思ったアル。」

自分の膝上に跨がる小さな少女は、真っ赤な血の唇とは正反対の、無邪気な笑顔で答えた。


「一日、どのくらい飲むんでさァ?」

さらさらの熟した桃色をひとすくい、指先に絡めて弄ぶ。

「う〜ん、2、3人分ぐらいアル」


くるくると遊んでいた指がぴたり、止まる。
は、2、3人、?
ってことは…‥

「誰の?」
「げっ」

身の危険を感じたのか、逃げようとする躯を掴まえ、細い腰に両腕を回す。あ、何かこの体勢ってヤってる時みてぇ、だなんてピンクな考えは一旦置いておくことにした。


「誰の血、でィ?」

にっこり爽やかな笑顔付きで聞けば、気まずそうに視線をそらすもんだから苛立ちはますます募るばかりで。
こうなったら最終兵器しかない。


「血、やんねーぞ」

そんなの自分が耐えられないのだが、これは駆け引き。ハッタリでも使わなきゃこの仔兎は口を割らないだろう。
予想通り、はっとした瞳に哀しそうな表情。憂い気な長い睫毛が色っぽくて喉が鳴く。
彼女にとって俺の血は“美味い”、らしく、初めて襲われたあの日もその血の匂いとやらにつられたのだと言っていた。血の味に違いなどあるのかと聞いてみると、十人十色。よくもまぁ、小難しい言葉を知っているもんだと、驚かされたのを覚えている。


「前までは、そこらへんの男気絶させて飲んでたネ、」

回していた腕に力が入るのが分かった。

「じゃあ、今は?」

それでも冷静さを崩さないよう、なるべく穏やかに問い掛ける。逃がすなんて、誰がするか。


「今は、‥…」

不安気に見上げる少女に無言で先をほだす。

「怒らないアルか?」
「あぁ、怒んねーよ」

相手によるけど。


もう一度、にっこり微笑む。先輩の意地というやつだ、ここでキレたら駄目な気がする。というか神楽に嫌われたら終り、そんなの無理だ。


「…‥銀ちゃん先生、とかトッシーとか」

我慢、我慢。煮え繰り返りそうな気持ちを力付くで沈めさせる。
あ、やば、顔が引き攣る


「ぎっ、銀ちゃん先生はね、めっさ甘いのヨ!」

フォローのつもりか焦って喋りだした彼女は、必死になって次々と語り出す。

「きっと糖分の取りすぎアル!っで、で、逆にね、トッシーのはくらくらするネ。タバコやマヨのせいヨ!!」


他の男の上に乗って、首筋を噛む。真っ赤な唇や満足気に笑う蒼の瞳、そして短いスカートから覗くこの真っ白な太股を惜しむことなく見せ付けているなんて。


「今日から他の男から血飲むの、禁止だから。」
「む、無理アル!」

有り得ないというかのように首を左右にふる彼女に苛立ちは納まらない。
俺以外も、なんて許すワケねーだろ。


「死んじゃうネ!!」
「んじゃ、俺のだけ飲めばいいじゃねーか。」

「それこそ駄目アル!」

何ソレ、納得できねー

黒々と沸き上がる感情に冷静になんて、今更どうでもいい。この少女を誰かに取られたくない、自分だけを求めて欲しい。


「オマエだって知ってるはずネ。わたし、ごっさたくさん飲むヨ?」
「あー、そういや食欲もすげェよな。」

「死んじゃうァル…‥」
「はっ、」

死ぬ?アンタに噛み付かれながら、?


「最高ッ、‥…だねィ」
「へんたい‥」

困ったといわんばかりの表情の彼女に、苦笑をひとつ。

「しょうがねーだろ、惚れてんでさァ。」

それはもう、無茶苦茶。

「やーヨ、人殺しにはなりたくないアル。

‥…だから、お断りネ」


あらら、フラれちった?
悲しくないと言ったら嘘になる。それでも泣けないのはきっと、諦められない事を知ってるからだ。泣く暇あるなら彼女に自分を惚れさせろ。もっと、俺だけしか見えないように。俺の血しか、求めないように。

揺れる瞳を眺めながら、額に、頬に、愛しい想いを含ませて、幾度となく触れるだけの接吻を。


「俺も、吸血鬼になりてェや」

「噛まれたらなる、なんて迷信アル。これはただの遺伝ネ」


吸血鬼というのは、力は強くても日に弱くて、人間よりもずっと長生きするらしい。あまりにも違い過ぎるから、変な不安がずるずるずるずる。
しつこいぐらいに邪魔くったい。


「人間のままでいてヨ」

頬に温かな唇が触れて、離れる。初めて、される側になった。自分がする時のとは違う。顔が熱い、心臓が強くはっきりと加速する。


「吸血鬼は吸血鬼の血を飲めないアルよ?そんなことしたら、粉々になってさようなら〜、ネ。」

え、マジで。


「だから、ね?」

「…‥ん」

困ったように優しく笑う。
こんな笑顔を向けられて正気な奴なんか人間じゃねェ!!


あー、幸せ。















後書き、

沖田君がちょっとMぽくなってしまった(-∩-;)
やっぱパロって楽しい!


でわでわ、ここまで読んでいただきありがとうございました(^_^)



・bite-bit-bitten…‥噛む、噛んだ、噛まれた


be動詞がないのは大目に見て下さい;



古川


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